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『チェス・プロブレム入門』感想⑤
ちょっと間が空いてしまいました。今回はこのセクション。
【セルフメイト(Selfmate)】
執筆者は若島正さん。
まずセルフメイトのルール説明から。「黒は抵抗する」というところが肝で、協力自玉詰ではなくて自玉詰である。抵抗する以上はvariationがいくつも存在するため、表現はHelpmateよりもDirectmateの方と似てくる。
S01:3つのvariationで白Qの使い分け。入門らしい。
S02:移動先限定のロジックを見るべき作。
S03:h-fileのR2枚が「いかにも」の配置で、すぐに本筋に辿り着ける。作品として感心するところはないが、例題には丁度良いだろう。
S04:最初に目に付くのがd8=S Rxd8というメイト形なので、Sxd8を防ぐためのkeyは一目のはず。dxc8=Qの変化でB成も成立するのを気にしてしまうのは、野暮というものか(でもやはり気になる)。
S05:White cycle。凄いことをやっているようにも見えるが、こういう複雑なのはどうも苦手だ。解説に「セットで1...Scxb4にメイトが用意されていない点が気になる」とあるが、この感覚はあまり分からない。プロブレムは難しいなぁ。
S06:あからさまな舞台装置からはっきりしない表現。いまひとつと言わざるを得ない。
S07:これはちょっと解ける気のしない作。解説に「成が2~3手目に連続して起こるところが統一感を高めている」とあって確かにそこはプラスである。しかし4手目以降の手順がアンバランスであり、これでは全体として成功しているようには思えない。
S08:良いkey moveと2変化でのideal mate。これを使用駒10枚で表現している。綺麗に出来た小品(手数は長いけどこう呼びたい)。
一応誤記の指摘を。2変化目の黒3手目はRd7。
S09:3連続フェニックス。こういうことを、連続して(間に余計な手を挟まずに)やるというのがプロブレム式だ。収束で成駒を3枚とも捨てられたら最高だったのだが、この考え方はもしかすると詰将棋的なもので、作者は気にしていないかもしれない。
【この1局】
S08
Frank Muller
PP 2008 1st Prize
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S#5
1.Re1! zz
1...Kf4 2.Qf2+ Rf3 3.Qh2+ Rg3 4.Be3+ Kf3 5.Qh3! Rxh3#
1...Kf6 2.Rf8+ Kg7 3.Qa7+ Rd7 4.Qa1+ Rd4 5.Bg6! hxg6#
初形も2種類の詰上りも綺麗。
決め手がcheckでないところに味わいがある。
【総括】
ダイレクトメイトのテーマの転用が多い印象。S#2に現代的な分厚い作品が紹介されていないのは残念なところか。