黎明期のOrthodox傑作選 01
チェスプロブレムのルールの中でもOrthodoxは最も長い歴史を持ち、西暦800年頃には既に作例がある(この辺りは『チェスプロブレム入門』のイントロダクションを参照)。しかし、プロブレムの世界に詰将棋で言うところの「古図式」のようなものは存在せず、現代の目で見て価値のある作品の誕生は19世紀中盤まで待たなければならない。
しばらくの間、Orthodoxにおける主流は「妙手型」の作品であった。Q捨てや線駒の最遠移動など、アッと驚くような手を出すところに作家の興味があったわけだ。
しかし、妙手型の作品がある程度掘られて新鮮味を失ってきたある時期(恐らく20世紀の前半〜中盤にかけて)から、Orthodoxの世界は方向性を転換し、#2や#3はpattern playという形式美の世界になって行くことになる。
今回の連載で取り上げるのは、19世紀中盤〜20世紀初頭の名作である。その多くは妙手やアイデアを主眼としており、Orthodoxに馴染みの無い人でも理解し易いはずだ。今の目で見ても充分に楽しめる作品群をご堪能いただきたい。
第1回〜第3回では、黎明期にプロブレムの世界を大きく発展させた、パズルの大家として知られるSamuel Loydの作品を見ていただこう。
Samuel Loyd
First Prize Chess Monthly 1857
#3
1.Sg4+
1...Kh1 2.Qh2 gxh2 3.Sf2#
1...Kh3 2.Sh2 gxh2 3.Qh8#, 2...f3 3.Rh8#
1...Kf3 2.Qc2 g2 3.Qd3#
1...Kf1 2.Ra8 any 3.Ra1#
この形からQとRの最遠移動、さらにQ捨てとS捨てが出てくるのだから驚きだ。古典として記憶すべき作品。
ちなみにkeyがcheckなのは現代的には大きな減点要素だが、当時はそれほど問題ではなかった。