東大生が東大を訴えてみた【第2回口頭弁論 報告】次回は10/24!
最近アニメ「中二病でも恋がしたい! 」を完走しました。下駄です。
いたって真面目なこの企画ですが、言われてみればちょっとラノベっぽい。
さて9月10日にあった第2回口頭弁論の報告記事がずっと棚上げになっていました。
というのも、学費戦線があまりに忙しかったのでそれどころではなかったのです。
10日当日に値上げ案発表の記者会見があり、17日に教育研究評議会、18日に経営協議会、26日に役員会というスケジュールでした。
学生側は10日にスタンディング、17日に向けて委員への要請や署名提出、18日には安田講堂前芝生広場で集会を行いました。
残念ながら26日の役員会で値上げが決定されてしまう見込みですが、5月からの闘争過程で大衆的で広汎な運動が興り、さらに後期課程ではほとんど事実上の消滅状態になっていた学生自治会の再建運動が現在進行中であることを考えれば、戦略レベルでは引き分けていると総括できると感じています。
このあたりはおいおい総括記事を出していくつもりです。
「準備書面1」について
前回記事で、被告側から提出のあった「準備書面1」を掲載しました。
ここで「9月10日に向けて反論の準備書面を用意する」というニュアンスのことを書いているのですが、結論から言えばこれは誤解で、9月10日までにこちらが用意する必要はありませんでした。
第2回口頭弁論は、第1回口頭弁論で被告が「答弁書」において書くべきところ棚上げにしていた反論について確認する作業がメイン、いわば被告のターンです。
よって被告のターンで出てきた準備書面には、次の原告のターンで反論すればよいということです。
だんだん裁判のノリがわかってきましたね。
内容について、気になる点を追っていきます。
訴えの利益
まず、「前提1」では、
と言っています。
これは「原告が開示請求してきた文書って原告が証拠提出したメールのことですよね? 」という意味だと思います。
「第1 本件回答書記載の訂正後の請求の趣旨に対する本案前の答弁及び予備的答弁 2本案前の答弁の理由」ではより踏み込んだ記述になっています。
第1回口頭弁論の報告記事でも予想していたとおりですが、やはり「訴えの利益」をついてきました。
これは行政事件訴訟法に定めがあります。
行政の不当・不法な処分について裁判を起こせるのは、現に不利益を受けている当事者に限られるということです。筆者としてはあまり納得できませんがねえ。
つまり既に入手している文書について不開示取消の訴訟を起こしても「原告不適格」になるので、いわゆる門前払い判決を出せ、ということを被告は言っています。
一見筋は通っています。ここは次回あたりで反論していきましょう。
ところで被告はこれでアイヌ差別メールが本物だと認めたことになります。
なぜなら原告が偽物や改変されたメールを持っているなら、「本物のメールを出せ」というのは原告不適格にならないからです。
これで我々がメールを元に東大による差別的態度を追及しても、怪文書として言い逃れすることはできなくなりました!
これだけでも裁判を起こした価値はありました。
メールの全文は第0回に掲載してあります。
三段論法
準備書面1を読んでいて気になったのですが、被告のメインの主張は三段論法をちゃんと構成できていない、ということに気が付きました。
三段論法とは、
大前提:人間は死ぬ。
小前提:ソクラテスは人間である。
結論:ゆえにソクラテスは死ぬ。
というふうに、大前提と小前提から演繹的に結論を導き出す推論の形式でしたね。
実際に「準備書面1」の文面を追ってみましょう。
お分かりいただけたでしょうか。
「人間は死ぬ。すなわち、ソクラテスは死ぬ。」という構造になっています。
「ソクラテスは人間である」の部分が抜け落ちているのです。
まさかと思い、準備書面1と答弁書を何度も読み返しましたが、「本件請求対象(差別メール)は危機管理基本規則に定める『必要な情報提供』である」という趣旨の記述を見つけることはできませんでした。
「馬鹿な! 私のソクラテス・キラーが効かないなんて……!! 」
訴え変更
今回は被告のターンでしたが、こちらも速攻魔法を用意していました。
それが「訴え変更」です。ざっくり言うと、裁判の途中で訴えている内容を変えられるというものです。
民事訴訟法に規定があります。
これに基づき、請求の趣旨のうち、2023年10月19日付不開示決定の取消および開示義務付けの部分を、2023年9月1日付不開示決定による精神的苦痛への賠償へと変更する申立を行います。
おさらいしましょう。
今回の不法な不開示決定にまつわる時系列はこんな感じです。
(いずれも2023年。)
(原告 8月17日)差別メールを開示請求。
(被告 9月1日)1に対し該当文書不存在として不開示決定。本件第1不開示決定
(原告 9月21日)理学部が学生に転送したものとして差別メールを開示請求。
(被告 10月19日)3に対し法第5条第4号柱書に該当として不開示決定。本件第2不開示決定
(被告 同日)1に対する本件第1不開示決定を取消し、4と同様の不開示決定に修正。本件第1不開示修正決定
この中で一番許せないのは9月1日付の本件第1不開示決定です。
だってあるはずのメールをないと嘘ついてたんだから。
ところが「請求の趣旨」では、本件第1不開示修正決定および本件第2不開示決定の取消および開示義務付けを請求しており、東大の無法を追及するにはやや不十分なものでした。
そこで、本件第1不開示修正決定に関する訴えを取り下げ、代わりに本件第1不開示決定によって精神的苦痛を受けたとし、慰謝料を請求する方向に切り替えるということです。
精神的苦痛というのもあながち方便ではありません。学生が学校から嘘をつかれたのだから、傷つくのは当然です。その怒りがなければ、こんな面倒な裁判をしようとは思わなかったでしょう。
期日当日
さて、ようやく9月10日の話です。
ボケっとしていると前回みたいにすぐ終わってしまうので、どのタイミングで何を言うのか、一応頭の中でイメージしてから出廷しました。
申請型かァ~?
被告の「準備書面1」について、まず裁判官から指摘がありました。
要約すると
「行政事件訴訟法第37条の2と第37条の3を取り違えてませんか? 」
という指摘です。
これだけだと何を言っているかさっぱりわかりませんね。筆者もわからなかったので、断片的にメモをとりました。
「準備書面1」の該当箇所を引用します。一部は既に引用したものとの重複です。
「請求の趣旨2及び同4に係る訴え」というのは、原告が開示義務付けを求めている部分です。
「却下」「棄却」という似た言葉が出てきました。
「棄却」は実質的な審理の結論として訴えを退けるという意味です。
「却下」は訴えが訴訟要件を欠くとして、審理以前の問題として「門前払い」するという意味です。
また「予備的答弁」とは、本命の主張が認められなかったときの第2希望という意味らしいです。
つまりここでは、
「こないだは『棄却』を求めたけど、よく考えたら訴訟要件を満たしてなかったので『却下』を本命にします。『却下』がだめなら『棄却』してください。」
と言っています。
そして「訴訟要件」に関わるのが行政事件訴訟法第37条の2と第37条の3です!
長くなるので引用はしません。
「非申請型義務付け訴訟」の場合は第37条の2が適用され、訴訟要件は「重大な損害のおそれ」「他に適当な方法がない」「法律上の利益を有する」の3つを全て満たすことです。
「申請型義務付け訴訟」の場合は第37条の3が適用され、訴訟要件は今回のようなケースでは、「取り消されるべき処分がある」、そして「『申請』を行った本人である」「取消訴訟を併合提起する」の3つを満たすことです。
また知らない言葉が出てきました。
まず義務付け訴訟というのは、行政による不作為を追及し、然るべき作為を義務付けることを求める訴訟でしたね。
「非申請型」はこのうち、「作為をしてください」という申請が事前にないもの、あるいはできないものと言ったほうがいいのかもしれません。
典型的なものは公害に関する訴訟です。ある工場が汚染物質を垂れ流している場合、住民は「行政が垂れ流しをやめさせる」ことを求めて出訴します。
この場合、わかりやすく言えば、「垂れ流しをやめさせてください」というフォームや窓口は役所にないので、いきなり裁判を起こすしかありません。
一方「申請型」は、決められたフォームや窓口があって、事前に「作為をしてください」という申請ができるもの、すべきものです。
典型的には今回のようなケースです。「法人文書開示請求」という申請に対し、「不開示決定」という棄却処分すなわち不作為があって、その上での義務付け訴訟なので、こちらの申請型義務付け訴訟になります。
ところが、被告は先の引用部分で「重大な損害」「他に適当な方法」など非申請型の訴訟要件を列挙しています。そこで裁判官から
「今回は申請型の義務付け訴訟だけど、被告の答弁は非申請型と混同して反論してない? 」
と指摘があったということです。
やっと理解できました。
被告代理人からは「修正します」という回答でした。
取消訴訟、国賠トッピングです!
続いて用意していた訴え変更について取り扱われました。
裁判官から、
「甲2号証の取消と義務付けはやめて、甲1号証の部分の国賠をしたいという趣旨ですね? 」
と確認されました。違いありません。
「であれば、今回併合提起することはできないので、別途提起していただく形になってしまいます。」
どういうことでしょうか。
行政事件訴訟法では、取消訴訟に関連請求の訴えを併合することを認めています。
逆に言うと、関連請求以外は併合することができません。
「もし本件第1不開示決定について国賠を併合したいなら、本件第1不開示決定の取消も同時に請求しなければ、関連請求と認めることができません。」
じゃ、じゃあそれも……
「しかし本件第1不開示決定は2023年9月1日にあったので、出訴期間を過ぎています。」
この決定があったことを知った日から6ヶ月以内に……
6 ヶ 月 以 内 に
痛恨・・・・・・!!!
下駄、3月1日に過ぎていた出訴期間を失念・・・!!!!!
しかし不幸中の幸い、国賠単品なら民法724条の規定により、3年間は請求可能・・・・・・!!!
……この裁判が終わったらやりましょう。
それが本物のメールです(心停止)
気を取り直して準備書面1について疑問点を述べます。
既に書いた
「本物のメールと認めるということでいいのか? 」
「三段論法破綻してないか? 」
に加えて、第1回口頭弁論の報告記事で述べた「請求対象を『被告の学生として既に保有』ってどういう意味? 」
の3点を質問しました。
しかしいずれも「確認して回答する」という応えでした。
やる気あんのか?
裁判官からも「この記述なら本物のメールと認めてるということでいいと思いますけどねえ……」と言われる始末。
結局、9月30日までに被告から修正した書面を出すということになりました。
次回予告
次回、いよいよ原告のターン2です。準備書面も書かなければなりません。
お楽しみに。
第3回口頭弁論
10月24日(木) 11:30ー
東京地裁419号法廷にて
余談ですが、次回期日はAセメ開講中で、10日はまだ時間割も組んでいませんでした。
「被告が公欠にしてくれるならいつでもいいんですが……🥺」
とは言ってみたものの、裁判官から
「被告は代理人しか来ていないので、この場で決められないんじゃないですかね……😅」
とたしなめられてしまいました。
結局、運良く全休と当たってました。僥倖!
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