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記憶の断片

十五年を捧げた会社を退職して数年が経った。
 嫌々惰性で続いていた日々は、
唯一の勲章になった。

“自分も昔は凄かったんだ”と過去の栄光をセンチメンタルに語る人は少なくない。
ダサいなと思っていたのに、私はその内の一人になった。



中華街を歩くと、ある記憶の断片が頭に浮かぶ。

23歳頃、中華街の占い師のおじさんを怒らせた。
軽妙なトークで占いを楽しませて頂いた後、
彼はポロリと自分語りをした。
『今は退職してこんな事してるけど、昔は社長だったんだよ』
私は『嘘だー』と笑い飛ばした。
彼はムッとして怒った。
『ホントだよっ!何が嘘だーだっ』と。


私は元来、残念なほどに真面目で臆病。
ノリの軽いギャル風にリアクションできた自分に、一瞬だけ恍惚とした。
しかし間髪入れずに怒られたので、
あれ?!となり、ずっとこの出来事を覚えている。



いまでも中華街を歩くたびに、
無意識に彼を探している時がある。
とっくに顔も忘れているのに。
見つけたとしても、彼の勲章に敬意を払えなかったことを謝るために、声を掛ける勇気なんて無いのだけれども。



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