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頼もしい人。
ダイアログ・イン・ザ・ダーク
聞いたことはありますか?
真っ暗な中に、色々な空間が用意されていています。
何も見えない中で周囲を把握する、物体が何かを把握する。極めつけは飲食してみる、といった体験型イベントです。
当時は渋谷で開催されていました。
手をつないでいる彼の顔も、完全に見えません。
五人くらいのグループで、会場内を散歩します。グループに一人つくガイドは、目の不自由な方。
暗室に通され、
完全な闇に動揺する参加者達の前に、
私達のガイドが登場します。
「ちくわ君と呼んでください!」
と陽気なガイドのお兄さんは名乗りました。
あれから十五年。
ずっと覚えてる。
一般的に、目の不自由な人は、弱者。
助けを必要としている人だと認識していました。
でも、その会場の中では立場が真逆。
ちくわ君は白杖で前方を確認しつつ、足早に歩きます。
スイスイ橋を渡ります。
ひょいっとジャンプしたりします。
たしか、この橋が落ちそうで怖くて、
参加者たちは四つん這いで渡りました。
目を閉じて平均台を渡るイメージです。
ちくわ君は、手で触れる物体が何か言い当て、
彼にも見えていないはずの我々のコップに
ジュースを注いで回ります。
頼もしい!
ぜんぜん弱者じゃない。
暗闇の中では完全に立場が逆でした。
何も見えない空間で、
ちくわ君は一人の頼もしいお兄さんでした。
彼の案内がなければ
橋を渡ることも、暖簾をくぐることも
怖くておっかなびっくりです。
キャっと悲鳴をあげながら、
すべての一挙手一投足に五倍時間がかかります。
会場の散歩経路が終わり、明るい空間にでました。
ちくわ君は、
白杖を持った視覚障害者の人、
に変身しました。
ハッとしました。
ついさっきまで、みんな彼に頼り切りでした。
どれほど強いフィルターで
白杖を持つ人を見ていたか。
それによって彼らの個性 強さ 魅力的なところに全く気づかない。
たった一回の体験で、私の偏見は消えないけれど。
暗闇の中で唯一の光だった
ちくわ君の少し高めの声を、
この先もずっと覚えてると思う。