感謝(かこ)と祝福(みらい)(下)
注意!!!
本作はタクトの貴族三男の設定を取り込んでおり、オリキャラも出ています。また、やや重くシリアスも含まれますので、苦手な方は読むのを控えることをお勧めします。
自然に囲まれ、数多くの恋人達の新たな門出を見届けたリゾート地の教会は、今日もまた新たに結ばれる二人の男女を送り出すことになった。
教会の庭では、スタッフ達が披露宴の準備で忙しく行き来しており、段々と集まってくる新郎新婦の友人や知り合い達で賑やかになり、礼服を着てリハーサルを待つ新婦のミルフィーユが、その友人であるエンジェル隊の皆と歓談していた。途中で彼女の妹も話に加え、すでに会場は幸福な雰囲気に溢れていた。その様子を新郎控え室の窓から覗く新郎タクトもまた、その和やかな空気に当てられたか、小さく微笑み出す。
目を閉じ、今まで彼女との道のりがタクトの中に溢れてくる…。色んなことがあったけれど、こうして同じ夢と未来を見て、共に歩めることがこんなにも幸せで…。あの窮屈な家にいた頃は、こうして愛する女性と巡り合うことなど考えもしなかった。…今の自分を、せめて母や長兄にだけでも見せてあげればと、一抹の寂しさだけが、タクトの心残りだった。そう思いながら、今更だと自嘲じみた笑いをしながら、ただひたすらとレスターを待っていた。
今回の婚礼のアッシャーとしてレスターにその役を頼んでおり、後のリハーサルのためにタクトは彼が控え室まで来るのを待っていた。ちなみにブライズメイドはアルモに頼んでいた。タクトとミルフィーユのささやかな気遣いで、それをお願いした時のアルモのテンパり具合を思い出しては笑うタクト。その場面を思い出してる矢先、ガチャリとドアが開ける声が響いた。
「レスター?やっと来たんだ、ずっと待って…」
振り返ったタクトの言葉が表情と共に固まった。ドアを開けて控え室に入ったのが、思いもよらない人物だったからだ。
「と、父さん…。」
マイヤーズ伯爵。背丈が高く、びっしりとした礼服と手袋にいかにも高級そうな杖と革靴、紳士帽に威厳のある顔立ち。貫禄に満ち溢れるその姿は、タクトの記憶と寸分狂わず、最後に会った時の父のままだった。
「息災だな。タクト。」
未だ驚愕しているタクトに、父の低く重い声が響いてハッと気を取り直す。父の声は相変わらず威圧感に溢れ、子供の頃はいつもそんな父の言葉に気圧されていた。今は多くのことを経験して、臆すことなく話せるようになっているが、それでもまるで過去が自分に追いついてきたような感じに、戸惑いを感じずにはいられないタクトだった。
「…そうだね。最後に会ったのはいつだったかな?勘当と宣言されたあの会議以来だっけ?」「そうなるな。」「その間お互い一度も連絡は取ってなかったのに、今日はどういう風の吹き回しなんだい?」「大事な息子の門出の日だ。挨拶に来るのは当たり前のことだろう?」「それは嬉しい限りで…。」
抑揚のない声で淡々と語る父に、多少皮肉そうにタクトは答える。この間、マイヤーズ伯爵の表情はまるで氷の仮面のように微動たりともしなかった。機械的で、威圧的で、何を考えているのか分からない、正に昔の父そのままだと、タクトは心の中で苦笑する。
「家には招待状を送ってないはずだけど、どうやってここを?」「ニュースは常にチェックしているのでな。EDENを解放した大英雄とエンジェルの結婚、皇国ではどこでも大々的に宣伝されている。」「それでこの式場を?招待した人や披露宴のスタッフ以外は場所の情報は漏らさないようにして…ああ、父さんなら別に問題ないか。」
母や長兄達とは、家を出るのなら振り向かないようにという約束から、一度も連絡を取ってなかったが、数々のパイプと人脈を持つマイヤーズ伯爵だ、これぐらい確かに造作もない。
カッカッとマイヤーズ伯爵の靴音が鳴り、窓を覗いては歓談する新婦たちの姿を見つめる。今や来客はさらに増え、庭ではエルシオールの面々に金髪のEDEN人であるルシャーティまでも会場に来ていた。庭では彼女らの談笑の声で盛り上がっており、主役のミルフィーユに至っては照れたりわらたっりと、宴が始まらずとも酣(たけなわ)になっている感じだった。
「名高きエンジェル隊にEDENの来客…後でシャトヤーン様やシヴァ皇女までもおいでになられそうだな。縁を結ぶ相手としては申し分ない。…もしそちらのブラマンジュ家のご令嬢が相手だったら、更に良き人脈を広げ」「父さん、彼女達をそんな目で見ないで欲しいな。」
マイヤーズ伯爵の言葉をタクトは遮る。語調や表情こそ淡々としているが、そこに隠されている感情の昂ぶりは誰でも感じ取れるだろう。静かな怒りというものだ。
父は昔からそうだった。全ての物事に対してドライで、事務的で、全てを利益の角度から対応していった。家族も含めて。
「…まあ良い、今日は別に文句を言いに来た訳でも無い。」
眉一つ動かずに伯爵は目を窓から離れる。
「じゃあなんのために、わざわざ勘当された息子を会いに来たんだ?」
何か思うことがあるように、マイヤーズ伯爵はすぐには答えず、ただ目を閉じたままでいて、そんな彼をタクトただ静かに見つめていた。この父のことなのだから、どうせ碌なことではないだろうと思いつつも、タクトはただ静かに返答を待っていた。
…どれほど時間がたったのだろう、やがて伯爵の口からようやく言葉が発せられた。
「…カルが数ヶ月前、家督の権利を全てリオに譲渡した。」「え?」
その言葉にタクトは驚きを禁じ得なかった。家を離れた当時の次兄カルティは、長兄や自分に対して強く嫌味をして家督争いを広げてたのに、いきなり自ら家督の権利を譲渡するとは、あまりにも意外な行動だった。
「数ヶ月前の会議でカルが泣き出してな、優秀なリオを見て劣等感と、私からの期待などに追われて、つい愚かな家督争いをしてしまったことを告白し、そしてそれのせいで母に苦労をかけたことを詫びていた。」
「カル兄さんが…そんなことを…?」
タクトは、次兄の変貌は自分に原因があるとむかし長兄が言ったことを思い出す。あの時長兄は既にそのことに気付いたのだろうか。だから長兄は、次兄の嫌味を一身に受けていたのか。
「…私は私の今までのやり方に、一度も後悔や迷いを感じたことは無い。貴族として生まれた身はそれだけに、生き残る術を学んでおかなければ、過酷な貴族界隈を生き抜くのは難しい。」
タクトはやや俯いては言い返さない。否定はしないが、肯定もしたくない彼の心情の表れだった。確かに今までの人生で数々の難関を切り抜けたのは、昔の社交界で培った観察力等による助けも大きい。けれど、結果論といえばそうであって、感情的にはやはり認めたくはなかった。子とはいつも親に反発するものだからかも知れない。
「…しかしな。」
目を閉じて語る父を、タクトは再び見つめなおす。
「確かに厳しい指導が"闘争"を生き抜くためには必要だが…、同時に人として生き抜くためのものにも目を向くべきなのではないかと、カルの件で思った。」
今まで一度も聞いたことの無い父の心情の吐露に、タクトは面食らった、というよりは驚愕していた。彼の中の父は、いつも厳つい表情であり、家のことは常にドライなほど事務的に扱ってきた。人としての温情を一度も表したことのない父が、表情や声に表してないものの、今の言葉の後ろにはタクト始めて感じる”家族への感情”を込めて語っている。ある意味それは自分にとって、EDENの存在を知った以上の衝撃とも思えた。
「じゃあ、今回ここに来たのは…。」
伯爵はタクトを見つめて、告げた。
「家に帰ってくれるか、タクト? 今やマイヤーズ家は完全に長兄が後継者として回っている。君が戻ってもそれに悩まされることはないだろう。今まで君達に与えられなかったものを、今一度与えるチャンスを貰いたい、そう思っている。」
暫くの間、タクトはただ言葉に詰って、ただ目の前の父を見つめては考え込んでいた。あの威圧的だった父が、自分に”お願い”をしているだなんて。…良く見ると今や髪は全部真っ白になっているし、威厳は以前そのままだが、多少やつれたような感じもしなくはなかった。過去から想像もできない父の姿を見て、物言えぬ苦い気持ちが溢れ出る。
「…勿論、今の君の地位を見込んでのいることも確かにある。他の親族にどう言われようとも、君がマイヤーズ家に戻ることには誰も異を唱えないだろう。」「はは、そういうところは、やっぱ変わってないね、父さんは…。」
苦笑しながら、かつて長兄が言っていた、父なりに守るべきもののためにやっている言葉を思い出す。数々の作法や社交界へ強引に連れ出した思い、子供だからと何も言わずに一蹴する父の姿。それが今やどれも、彼なりの苦渋の行動だと感じられる。未だもどかしさを感じるものの、タクトは今日、伯爵の今まで感じられなかった不器用な愛情を、ただ黙して心の中で反芻する。
暫くの間、二人はただ何も言わずに互いを見詰め合い、沈黙の中で二人は無言の”会話”を交わしていた。今まで失くした二人の時間を埋め合わすかのように。
「…けれど父さん、やはり家には帰らないよ。」
長い沈黙を経て、タクトが答える。
「家から貰えるものはもう十分貰ったし、人として生きるためのものなら…彼女達から十分に頂いているから。それに…。」
タクトの目は、満面の笑顔で来賓達と楽しく語り合うミルフィーユを注視する。
「今のオレには、守りたいものが出来ている。ずっと側にいてあげたい人がいる。だから家には帰らない。そもそも子供は、いつか自立して飛び立つものだしね。」
タクトの目を追って、その目線の先にあるミルフィーユの活発な姿を見つめるマイヤーズ伯爵。
「…彼女…ミルフィーユ・桜葉だったな。エンジェル隊の一員なだけに相手としては文句無しだが…彼女のどこが気に入ったのだ?他の隊員も条件としては申し分ないはずだ。」「全部さ。」「…なに?」「だから、全部。」
そう答えるタクトの表情には、いつも以上の明るい笑顔が浮かんだ。
「彼女が見せてくれる笑顔も、元気に励ましてくれる姿も、美味しいお料理も、全部ぜ~んぶ大好きさ。」
息子のまったく恥じずに惚気まくる姿を見て、伯爵は珍しくも目を大きく開いていた。
「ふむ、そんなに魅力的なのかね彼女は…。」「それはもう、父さんも一度ミルフィーと会ってみれば分かると思うよ。」
伯爵は答えずに窓の外のミルフィーユをただ見つめたままでいた。
「…そういう父さんこそ、母さんとはどういう理由で結婚したのかい?」
タクトの唐突な質問に、伯爵は彼を見つめなおす。
「どうしたいきなり?」「だって父さん、今まで一度も母さんとのこと話したことなかったじゃないか。子供が親の関係を知りたいの、至って普通な質問だと思うよ。」
それは、タクトの心の奥で密かに気にしていた疑問だった。母は名門といえずとも、多少なりとも財力もある家の出身だった。何事も合理的で考える父だから、政略的な理由で結婚したとしても可笑しくは無い。実際、もし本当にそうだとしても何になる?という考えもなくはないが、それでもタクトは真実を知りたかった。理由がどうであろうと受け止めようと思っていた。
伯爵は答えずにただ無言のまま、タクトを見つめるだけでいた。外の談笑声が聞こえる程の沈黙が流れ、そしてようやく伯爵が答える。
「…君の母との結婚は…」
「宇宙味噌汁のためだ。」
「へ…?」
「いや、彼女と初めて出会ったときのことでな…。冬に開催されたパーティで『この会場は暖気が効かなくて寒いな』と彼女に言ったら、キッチンを借りて宇宙味噌汁を作ってくれて、その味が絶妙に旨かった。あまりにも美味しいのだからついプロボーズをしまったのだ。」
「それ、本当にそうだったの…?」「本当だ、嘘はついてない。」
あまりにもおかしく面白い内容を聞いて、暫くただ唖然とするタクトに、伯爵は真剣に見つめ返していた。
「…ぷっ、あははははは!」
タクトはやがて涙するほど大きく笑い出した。今までの家との、父や家との、過去との確執や気持ちが、盛大な笑いと共にどこかへと吹っ飛んでいた。この話が本当なのか、又は父なりの気遣いのジョークなのか、真偽なぞどうでも良かった。たとえ嘘だとしても、あの生真面目で厳つい父さんが"冗談"を言ったんだ。それだけでもタクトにとっては十分だった。父もやはり、感情を持つ人なのだと知ることができたから。
「意外とロマンチストだったんだな。父さんって。」「君には及ばん。」「…できれば、もっと昔にそのことを知りたかったんだけどね…。」
初めて交わした親子らしいやりとりが、巣立ちして久しい今というのが、どこか寂しさも感じられた。
「…ありがとう、父さん。今までのことも含めて。正直、今でも君が昔オレ達にしてきた教育はやはり認めないけれど、お陰さまでこうしてやっていけるのも事実だから。"息子"として最後に感謝を言わせてもらうよ。」
「…礼なぞ言わなくて良い。」
いつもの仏頂面に戻り、伯爵は淡々と告げる。
「君が家に帰らない以上、これから私達は赤の他人だ。前はあくまで勘当"扱い"ということにしていたが、今日から君は正式に我が家から切り離すことになる。財産も権利も関係も全て、だ。…誰かに君のヘマで"マイヤーズ"という名を理由にこちらまで文句付けられたら、こちらまで被害が及んでしまうかも知れないからな。」
縁の完全断絶…名声の被害が心配とは言っているが、これでタクトは家名を理由に誰かが嫌味や闘争を仕掛けてくることはなくなるとも言える。それは伯爵なりの気配りだろうか。いずれにしても、本当に不器用な人だとタクトは改めて思った。
「…一つだけ覚えておけ。今の君なら、たとえマイヤーズの名がなくとも、そして自分がいかに嫌だろうと、いつか権力の方が君を表の舞台へと押し出す。世の中はそうやって回ってるのだから。」
「大変ためになる忠告をどうもありがとう。…本当にそのような事をしなければならなくても、それが彼女達の、彼女のためなら、寧ろ喜んで受けて立つさ。まあ、きっとなんとかなるんじゃない?」
能天気な表情で笑うタクトを、伯爵は依然として眉一つ動かぬ顔で見つめ、やがて踵を返して出口へと向かう。
「もう帰るの、父さん?せめてミルフィーと顔を合せてからでも良いのに。」「…自分の三男はもはやただの"マイヤーズ司令"だ。赤の他人の新婦と会っても仕方ないだろう。」「…そう、でしたね。"マイヤーズ伯爵"。」
父との、家との別れに多少なりとも寂しさを感じた自分に多少驚くタクトだが、後悔はしていない。自分が求めた自由とは、自らの足で歩もうとするとは、そういうことなのだから。
「司令、今や君は"自由"だ。好きなように生きて行くといい。…それと、この私にもはや三男はなく、彼が家に戻ることを許しはしないが…」
背を向けたままの伯爵の声が響く。
「もしいつか"マイヤーズ司令"が、一個人として家へ来訪するのなら、私は喜んでご招待することにするだろう。」「父さん…。」
父の声は依然として淡々としているが、今やタクトはその言葉に隠れた気持ちを、表情を確実に感じることができた。最後の最後まで不器用でありながらも、そこにいるのは紛れもなく自分の"父親"だった。
やがて伯爵はドアを開け、振り返りもせずに控え室を出た。カッカッと鳴り響く靴音が遠さがる。今のタクトの心情は晴れやかだった。過去の家に初めて心感謝できるようになり、かつて確執もあった父から未来への祝福を受けて、真の意味で門出できる。心に深い感慨を感じながら、タクトは今一度ささやいた、ありがとうと。
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控え室から出て、教会から出ようとする伯爵は寸分乱れぬ足取りで外を目指す。そして回りコーナーを通ろうとするところ---
どんっ!
「きゃあっ!」「と…大丈夫かね?お嬢さん。」
いきなりコーナーから小走りで出てきた女性と衝突してしまい、危うく転げかけた彼女を伯爵は受け止める。
「す、すみません!怪我はありませんでしたかっ?」「大丈夫です。こちらこそ不注意でご迷惑を…む?」
よく見ると、その女性は手にバスケットを持っており、華やかな礼服を着てピンク色の髪をしていた。
「あなたは…ご新婦の方ですね?」「あっ、は、はいっ…!ええと…。」
新婦であるミルフィーユは、目の前の紳士が歩いてきた新郎控え室のドアを見る。
「ひょっとしたら、タクトさんの知り合いの方でしょうか?」
伯爵もまた新郎控え室を見ては、平穏な口調でミルフィーユに答える。
「いえ、私はただの通りすがりで、今から家へ帰るところです。」「そうなのですか。」「…お嬢さんは、ここで開催される婚礼の花嫁ですね?」「はい、そうですっ。その、そういうこともあってちょっと緊張していて…それで回り角からの人に気付かなかったです。すみません…っ。」
緊張でつい早口で喋るミルフィーユをよそに、伯爵はただ目の前の"娘"をまじまじと見つめていた。
「あの…あたしの顔に何かついてますか…?」「…いえ、ただ新郎にはもったいないぐらい、可愛らしいお嬢さんだと思っただけです。」「えっ?あ、ありがとう、ございます…っ。」
いきなりの賞賛に顔を真っ赤にしながら更にあたふたとなるミルフィーユ。そしてその紳士は口元こそ笑ってはいないが、そのまなざしはとても優しかった。
「そうだ!せっかくですから…」
そう言い、ミルフィーユはバスケットを紳士に差し出したら、中は様々なクッキーが入っていた。
「これ、良かったらいかがですか?今日のためにあたしが一生懸命作ったお菓子で、来場してくださった皆様に食べて頂いてるんですっ。」「君が?…新婦が作るとはまた珍しいですね。」「えへへ、こういうの大好きですからっ。」
伯爵は暫くバスケットの中身を眺めては、無造作にクッキーを一つ手に取る。どのクッキーも一口で食べられるサイズだ。食べやすさを考えた彼女なりの配慮ののだろうか。食べるのを期待してるかのようなミルフィーユの目を見ては、クッキーを一つ口に送る。
濃厚なチョコレートの甘さが、さくっとした食感と共に口内で広がって行く。生地にチョコチップを混ぜ込んだクッキーか。程よく焼いた生地からの芳しい香りと、適度な量のチョコの芳醇な甘味が見事なハーモニーを奏でている。その見事な配分は、作り手が込めた気持ちが感じられるぐらいだった。
「…見事な味です。家内のことを思い出させるような…。さぞや工夫を凝らしていたのでしょう。」「そんな、いつもどおりに気持ちを篭って作っただけですよ。でも気に入って貰えて嬉しいですっ。」
元気に笑うミルフィーユを見て、甘いクッキーの味もあるからか、紳士がほんの少しだけ口元が緩んでいたのを、彼女は見たような気がした。
「それでは失礼します。くれぐれもお怪我にならないよう気をつけください。」「はい、ありがとうございますっ。」
紳士は軽く一礼をして、再び出口へと向かい、ミルフィーユは暫く伯爵を見送っては新郎控え室へと向かおうとした。そう思った途端、出口で振り返った伯爵の声がミルフィーユを呼び止めた。
それからタクトは数年も家族と再会することはしなかったが、過去で家族がくれた愛は常にその胸にあり、無意識ながらも常に彼が行く未来への道を支えた。そして、再び一家団欒になった時は、妻子ともに訪れた時だったという。
(終わり)
後書き
タクトを中心にしたお話でした。
前編も含めて、この話のアイデアは確かどちらか様のツイートで「タクトの三男貴族設定」だと、英雄になった今はいつかは家に呼び出されないか?というのがあって、そこからタクトの家庭関係の話が広がり、タクトの家との確執や関係に結着を付けさせて自由にしてあげる。という気持ちを込めて、今回の話になりました。
その副次産物として、前の話のタクトのミルフィーユへの気持ちの解釈やタクトの性格の形成など、ネタがどんどんと膨らんでました。そこまではいいのですが、お陰で危うく話の風呂敷を広げすぎることになり、オリキャラを中心に長い話になりかねなかったので、描写も説明も足りない感は否めませんがw
また、今回の創作で、性格も設定も用意されている既存キャラと違って、オリキャラはちゃんと細部まで作り上げないと扱い難い(想像し難い)ことにも気付きました。それに一次キャラとの距離感や関係なども考えなければならないので、実は結構しんどかったりします。多分今回以降はちゃんと内容整えてからでないと暫くオリキャラは控えたいですね。
あと、前にも書いてたようにタクトの家族関係などの補完という意味合いが強い本作ですが、もう1つどうしても描きたかった点があります。というかこっちを描写したいがために無理やり書いたと言っても良いほどです。それがなにかと言いますと…
ミルフィーユを親公認させたかったためですっ!!!
そこが重要なんです!(森○先生風)
だって、カプ厨として親公認も立派な萌えポイントとは思いませんかっ!?親が婿か娘ひいきで「息子にはもったいない」とか孫溺愛とかなるとさらに萌え増量ではないかとっ(力説)。そういうこともあって、ある意味この作品は最後のミルフィーユとのやり取りが全てと言っても過言ではないかとw そういう意味でもミントルートの場合のダルノーとのやり取りももっと欲しかったです。いや無印のネタ選択のやりとりもとても面白かったのですがw
最近の漫画で似たやりとりと言いますと、荒木弘先生の「銀の匙」の八軒パパと御影との対面シーンとかですね。方向性は違いますが、あれは見て笑えましたw
マイヤーズ伯爵のイメージは、海外ドラマの「エアーウルフ」のアークエンジェルと、八軒パパの要素を少し混ざって作ってます。アークエンジェルの造型は正に老年紳士で、伯爵はその地位にいるだけに何かと威圧感凄そうな感じがしましたから。
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