バイオマスから水素を作る必要性と課題

水素化反応は化学工業における最も重要なプロセスの一つであり、様々な化学製品の製造に欠かせない。その中でも、芳香族ニトロ化合物から芳香族アミンへの水素化反応は、芳香族アミンが医薬品、農薬、プラスチック、染料、顔料などの製造の重要な中間体であることから、非常に有用な反応である。

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一般に、芳香族ニトロ化合物から芳香族アミンへの水素化反応は、水素分子(H2)と芳香族ニトロ化合物を、金属ナノ粒子を触媒として反応させることで行われる。ここで使用される水素の製造には膨大なエネルギーが必要であり、一般には天然ガス(メタン)の水蒸気改質によって製造されており、産業用に使用される水素の約90%はこの方法で製造されている。メタンをニッケル(Ni)などの金属触媒を用いて、高圧(20 - 40 bar)、高温(500 - 800℃)で水蒸気と反応させることで水素を製造する。しかしながら、この方法には二つの問題がある。ひとつは枯渇資源であるメタンを水素源とすること、もうひとつは反応条件が非常に厳しいということである。

Y. S. Oh and J. H. Nam, Int. J. Hydrogen Energy, 2021, 46, 7712-7721.

近年、枯渇資源であるメタンの代わりに植物から得られるバイオマスを原料とする水素製造が積極的に研究されている。バイオマスは地球上に豊富に存在するし、植物は大気中の二酸化炭素を吸収して成長するので、バイオマスを燃焼させて生成する二酸化炭素では大気中の二酸化炭素の量は増加しない。地球温暖化対策としても期待されている技術である。

M. Ni, D. Y. C. Leung, M. K. H. Leung and K. Sumathy, Fuel Process. Technol., 2006, 87, 461–472.

さらに、農業廃棄物をバイオマスと利用することでゴミ問題の解決にも貢献できる。

C. L. Williams, T. L. Westover, R. M. Emerson, J. S. Tumuluru and C. Li, Bioenergy Res., 2016, 9, 1–14.

このような理由から、バイオマスから水素を製造する方法(バイオマスの改質反応)は多くの研究者によって研究されてきた。熱化学的ガス化、熱分解、嫌気性消化などの方法がある。また、バイオマスの熱分解から生成されるバイオオイルの水蒸気改質プロセスについても研究されているが、大量のエネルギーを必要とする上、タールが生成し、これが触媒を失活させるという問題がある。

H. Balat and E. Kirtay, Int. J. Hydrogen Energy, 2010,35, 7416–7426.


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