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DWSIM:転化率反応器(操作シンボルの説明その4)

塩素製造プロセスの反応工程を例にして、転化率反応器の利用方法について整理します。

DWSIM:v6.4.8(執筆時)

DWSIMの紹介は以下になります。

プロセス条件

ディーコン法での塩素製造を検討します。乾燥した塩化水素ガスと空気を触媒層に流通させて反応させことを考えます。量論式は以下の通りです。

4HCl + O2 -> 2H2O + 2C;2

塩素の目標製造量を1,000kg/hrとします。酸素は、量論比に対して35%過剰での供給で、塩化水素ガスの反応率を60%にとれるとします。その時の原料、空気量、反応器前後でのバランスを確認してみます。

空気の組成は、酸素 21 mol%、窒素 79mol%とします。

DWSIMでの設定・計算

物質は、以下の通り選択しました。

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Property Package(物性推算)は、Peng-Robinson/Lee-Kesler(PR/LK)状態方程式を選択としました。

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転化率反応器モデルを利用するために、反応式の定義する必要があります。

Editメニュー > Simulation settingsより、Settings画面を起動する。Reactionsタブを選択します。Reactionsタブ画面で、Reaction Setsは、最初から登録されているDefault Setのままで、Chemical Reactions領域で+ボタン(Add Reaction)を押します。

転化率を指定してシミュレーションをしたいと考えていますので、Conversion(転化)を選択する。

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以下のAdd New Conversion Reaction画面が開きます。

Name:反応式名を入力
Description:メモ
Components/Stoichiometry:反応量論式を定義します。ここでは、登録した物質のすべてが反応式に登場しているので、Includeのチェックボックスにすべてチェックをいれます。
BCは、Base Componentで、反応率の基準になる物質にチェックをいれます。ここでは、HClにチェックをいれます。
Stoich. Coeff.は、量論式の係数をいれます。反応物は、マイナスで、生成物は、プラスで数値を入力します。

量論係数を入力後、Stoichiometoryの右にあるBalanceボタンを押して、式に問題がなければ、OKと表示されます。

Conversion Reaction Parameters欄において、Phaseは、気相での反応といしてVaporに変更します。Conversionは、温度の関数として反応率を定義できます。ここでは、60%の固定としています。

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Flowsheetの作成に移ります。Flowsheet画面の下側のReactorsタブ内に、Conversion Reactor(転化率反応器)のシンボルがあります。

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Flowsheetは、以下のようになります。

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MSTR-1:HClガス 供給
MSTR-2:空気の供給
MIX-01:ミキサー、反応器は、入口が一つしかないため、先に混合する
MSTR-03:供給ガス混合後のストリーム
MSTR-04:反応後の気相側
MSTR-05:反応後の液相側
ESTR-01:反応器のエネルギーの出入り
RC-01:Conversion Reactorモデル、

供給ガスの定義についてです。

MSTR-01をクリックし、設定画面を開きます。

温度100度、圧力101.325kPa、流量を1.0kmol/hrとし、組成をHCl 1.0 mole fraction(HClガスのみ)としました。とりあえず計算を確認するためにこのように置きました。

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MSTR-02をクリックし、設定画面を開きます。

温度100度、圧力101.325kPa、流量を1.607kmol/hr、組成をO2 0.21 mole fraction、N2 0.79 mole fractionとしました。

決定方法は、HCl 1kmol/hrに対して 必要なO2が、1kmol/hr x 0.25 x (1 + 0.35) = 0.3375 kmol/hrとなります。(0.25が量論比、(1+0.35)が過剰率です。)

組成が21%なので、空気の供給量としては、0.3375kmol/hr / 0.21 = 1.607kmol/hrとなります。

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RC-01をクリックして、設定画面を表示します。以下の通り、です。

Inlet Stream:MSTR-03を指定、供給ガスになります。
Outlet Stream:MSTR-04を指定、気相側の製品になります。
Outlet Stream:MSTR-05を指定、液相側の製品になります。
Energy Stream:ESTR-01を指定、反応器の条件に応じて必要な熱の出入りが計算されます。

Reaction Setは、Default Setに先に設定した反応の量論式、転化率が設定されていますのでそのままです。
Calculation Mode:Isothermic (等温反応)としました。
Pressure Drop:圧力損失はとりあえずないとしました。

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以上で設定は終了です。計算を実行して、Master Property Tableで各ストリームの状況を確認すると以下のようになります。

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ここで、問題の趣旨としては、塩素(Chlorine)を1,000kg/hr得るバランスの確認をしたいということでした。

とりあえずおいた、供給ガス量では、塩素(Chlorine)は、21.2718kg/hrできているので、1,000kg/hr / 21.2718kg/hr = 47..0となります。各供給ガス量を47.01倍とすれば、見たいバランスが得られることになります。

HCl:1 kmol/hr x 47.0 = 47.0 kmol/hr
Air : 1.607 kmol/hr x 47.0 = 75.5kmol/hr
として計算をし直すと、以下のになります。

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DWSIM設定ファイル

ここでの設定ファイルは、以下になります。自己責任で取り扱いください。

まとめ

転化率反応器の利用方法について整理した。

反応熱、反応が起こる温度、平衡転化率など、詳細な熱力学データの確認は割愛している。反応の収支をとることに主眼を置いた。

所感

目標生産量を変更した時の必要な原料は都度、手で計算、入力し直す必要がある。目標生産量を入力したら自動で計算できる設定も紹介したい。

参考文献

化学工学会 編、基礎化学工学、培風館、P.19

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