「持続可能な地球の未来を築く日本の化学産業」を読んでみた
かねまる(@chem_fac)と申します。化学メーカーで生産技術の仕事をしながらプラントの技術者向けに技術解説ブログを書いています。
東京大学グローバル・コモンズ・センターより「グローバル・コモンズを守るための化学産業の役割」と題して化学産業がネットゼロを達成するための考え方が公開されていました。
非常に勉強になったため主な内容をまとめました。
事前知識
最低限必要となる知識を簡単に説明しておきます。
GHG:二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素、代替フロン類などの温室効果ガスのこと(Green House Gas)
ネットゼロ:GHGの排出量と森林等による吸収量が差し引きゼロで、正味の排出量がゼロとなること(Net Zero)
ネットゼロとカーボンニュートラルは同様の意味であると考えてください。
化学産業の課題と呪縛
化学産業で使用される製品の多くが炭素原子を含むものです。焼却により二酸化炭素を排出することから、廃棄も含めた対策が必要です。更に製品種別が多岐に渡るだけでなく、それぞれに適した処理技術を適用しなければなりません。
このようなGHG排出削減が困難な産業をHard to Abate産業と呼ばれます。化学の他に、鉄鋼、セメント、航空、海運、長距離輸送が含まれます。
また単純にGHG排出削減を進めれば良いのではなく、プラスチック汚染のような他の環境問題にも配慮した上で進めなければなりません。
最も難しいのは、状況事項を達成した上で事業として成り立たせなければならないことです。
レポートの目的
「化学産業の課題と呪縛」で述べたような、一筋縄ではいかない化学産業のGHG排出ネットゼロを達成するための道筋を示しています。特に日本の化学産業の特徴を踏まえた上で、日本の企業がどのように対応すべきか述べられています。
対象となる化学製品は「エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタノール」で7つの基礎化学品です。つまり川上に位置する化学産業に注目しています。
これはサプライチェーンの起点となるだけでなく、川下産業のGHG排出量は、川上産業から供給される原料由来のものが多くを占めるためです(参照先7ページ)。
また対象のGHGは二酸化炭素およびメタンとしています。
ネットゼロのための3つのアプローチ
レポートではネットゼロを達成するために次の3つのアプローチを挙げています。
化石原料から代替原料への転換
エネルギー源の転換
CCUSの適用
1番の代替原料はバイオマス由来原料やリサイクル材料、二酸化炭素そのものを原料にするなどの方法があります。
2番のエネルギー源は、化石由来ではなく水素やアンモニアを燃料として用いる方法があります。
3番のCCUSは「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、二酸化炭素を分離回収・貯留・利用することを意味します。
注意すべき点
先に記載したように、川下産業におけるGHG排出量は川上産業に左右されます。つまりネットゼロを考えると、川上原料の排出量に応じて川下の供給可能量が制限されてしまうということです。
鍵はメタノール
メタノールはオレフィンにも芳香族にも変換できる優秀な素材です。ボトムアップ的に製造されるため副産物の問題も抑えられます。
特にブルーメタノールやグリーンメタノールは今後の鍵となります。バイオマスや廃棄物、二酸化炭素などからの製造が可能です。
高コストと低需要
グリーン製品は直接利益と繋がっているようには見えづらく、ましてや高コストなため事業収益を圧迫します。周辺環境による強い力が働かなければ自然な意向は難しいと考えられます。
このような状態では川下は「安ければ買う」、川上は「売れないなら安くできない」というがんじがらめの状態になりかねません。
しかし現在は、コモディティ化していた川上の製品が付加価値品として昇華する千載一遇のチャンスです。
推進力の一つとして事業連携があります。川下産業がグリーンな材料を使うことを宣言し、川上産業だけでなくユーザーまで広く伝えることが重要です。
ブログ紹介
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