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#2 水を冷やすと沸騰する!?知れば納得の物理現象

かねまる(@chem_fac)と申します。化学メーカーで生産技術の仕事をしながらプラントの技術者向けに技術解説ブログを書いています。

今回は、更新したPodcastの紹介です。水を冷やすと沸騰するという面白い動画を見つけましたので、その内容について話しています。その動画がこちら。

noteでは文字起こししたバージョンを載せていますので、音声・文字好きな方を目次から選んでください


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今回のテーマ

どうも、かねまるです。プラントライフでは、科学プラントの技術者である私、かねまるが、科学と工場に関するトピックを分かりやすく紹介して、身近に感じてもらう番組です。

今回は、水を冷やすと沸騰するという一見すると物理法則に反するような不思議な現象についてお話しします。これを話そうと思ったきっかけというのは、YouTubeで偶然動画を見つけたことです。

動画というのは、タイトルが「水は冷やすと沸騰する」というDr.boboboさんという方が出されていた動画になります。動画については紹介欄にリンクを貼っておきますので、よろしければ見てください。

「水は冷やすと沸騰する」動画の説明

どんな動画だったかと言いますと、尺としては30秒程度の動画ですね。できるだけ音声ですけれども、わかるように説明していきたいと思います。

300mlぐらいの丸底フラスコの中に水を入れて沸騰するまでガスバーナーで下から加熱しています。沸騰したら火を止めてフラスコの蓋を閉めました。そうするとだんだんと中から気泡が出てき始めて、動画の最後ではフラスコに水をかけていっています。
そうするとポコポコと、なぜか冷やすと泡が出て沸騰しているという動画ですね。

30秒程度の短い動画なんですけれども、すごく面白い現象が現れています。

現象の原理

これどういう原理かと言いますと、動画では減圧沸騰という表現をしています。重要なキーワードが蒸気圧というものになります。

この蒸気圧というのは、液体の分子が蒸発して液体になる時に必要な圧力を指すんですけれども、これを身近な例で説明します。

水の沸点は100℃とよく言いますけれども、その100℃というのは私たちが普段生活している1気圧の条件で成立する現象になります。

1気圧というと、理科の授業で1,013ヘクトパスカルとか101,300パスカルとか、そういう大気の圧力を覚えたかもしれないんですけれども、その圧力を指します。

それで水を加熱して温度が上がってくると、水の分子っていうのはどんどん運動が活発になってきますね。その水分子の運動が強くなってきて、大気が抑える圧力よりも大きくなってしまうと蒸発、沸騰という現象が起きます。この時の温度が水だと100℃という意味になります。

では大気が抑える圧力というのが小さくなるとどうなるのかという話なんですけれども、そうすると水分子の運動が少し活発になるだけで沸騰するようになります。つまり沸点が下がるということですね

大気が抑えつける圧力を小さくするというのは、具体的には大気の量を減らす、つまり減圧するということを指します。こうして減圧して沸点を下げて沸騰させる。これが減圧・沸騰ですね。

改めて動画の内容を見てみる

ここまで説明して改めて動画の内容を振り返ってみます。

まず加熱したフラスコというのは蓋が閉められています。これで外から空気が取り込めなくなっています。その状態ではフラスコの中は液体の水を、気体の水蒸気が抑えつけているような状態ですね。

冷やしていくとフラスコ内の水蒸気っていうのはだんだんと水に戻っていきます。そうすると液体の水を抑えていた水蒸気が減っていくので、だんだんと減圧状態になっていきます。

フラスコ内が減圧状態になっていくと水の沸点というのは下がっていきますので、沸騰するようになります。

この動画の操作をフラスコを開けた状態で行うとどうなるか。フラスコ内の水蒸気が冷えて水に戻る時に周囲の環境というのは一瞬ですけど減圧になります。

ただ減圧になった箇所にフラスコの外から空気を取り込んですぐ蒸圧、この場合だと一気圧に戻っていきます。ですので特に沸点というのは100℃のまま変わらないという結果になります。

身近な事例1:富士山でカップラーメン

この減圧沸騰に関係する現象っていうのは身近にもあります。

例えば富士山の山頂ではカップラーメンがうまく作れないって話よく聞くと思うんですけれども、富士山というのは3776メートルの高い位置にあるので大気の量が少なくなっています。

つまりそれって減圧状態。私たちが普段生活するとこよりも大気の量が少なくて減圧になっているということを表しますので、富士山の山頂っていうのは大体水の沸点が87度ぐらいになってしまうのでうまくラーメンが作れないということになります。

身近な事例2:圧力鍋

この現象っていうのは圧力を変化させて水の沸点を変えているってことなので、減圧ではなく過圧でも同じことが言えます。

例えば圧力鍋って家庭でも使われる方いらっしゃるかもしれないんですけれども、圧力鍋は過圧して中の水の沸点を上げているという原理になります。

密閉した容器の中で加熱することで、鍋の中っていうのは水蒸気による圧力がかかった状態です。大体沸点が約120度ぐらいになっています。

工場での事例1:省エネ

この減圧して沸点を変更するっていう作業は工場でもよく使われます。

例えば化学プラントでは減圧を利用して溶媒を蒸発させたり、水分の乾燥させたりっていうことに使われています。

当然減圧するにも工場では真空ポンプっていうものをよく使うんですけれども、そのポンプを動かすのにもエネルギーがいります。ただ、加熱するよりも減圧する方が多くの場合エネルギー効率が良いので省エネにつながります。

工場での事例2:熱分解を防ぐ

他にも食品や薬品の製造する時に熱に弱い成分があるとします。これを加熱して水分を除去するという操作を行うと分解が起きてしまいますので、減圧して加熱する温度を下げて蒸発させることで熱に弱い成分を壊さずに水分が除去できるということになります。

工場での事例3:フリーズドライ

他にもフリーズドライ製法という製造方法で使われます。

例えばインスタントコーヒーの製造過程では、コーヒーを冷凍して極度に減圧した真空状態っていう状態にしますと、氷から直接水蒸気に変わる焼化という現象が起きます。

このフリーズドライ製法で作られたインスタントコーヒーっていうのは、もともと水分があったところ、氷の状態で水蒸気に変えていますので、氷のあった部分というのは空間としてたくさん残ります。

そのインスタントコーヒーにお湯を注ぐと、その空間のところにお湯が入り込んでいくので素早く元の状態に戻せるというメリットがあります。

注意点

減圧沸騰という内容を身近な例や工場での使い方っていう内容でお話ししてきたんですけれども、最後に一つ注意点をお伝えします。

この動画でフラスコを加熱して蓋を閉めて沸騰させる。これ加熱して蓋閉めるだけで簡単なんで面白そうなんですけれども、家庭で実験するっていうのは少し注意が必要になります。

フラスコの中っていうのは減圧しているため、フラスコの外よりも圧力が小さい状態になっています。ですので蓋を閉めたフラスコの中っていうのは、ずっと大気から外から圧力がかかっている状態ですね。

動画では耐圧性のある丸底フラスコを用いているから大丈夫なんですけれども、例えば耐圧性のない身近な容器を用いると容器がすぐに凹んでしまったり、ガラス製の容器だと割れてとても危険になります。 割れた時にお湯や水蒸気が飛び出すっていうことにもなります。

それで圧力っていうのは目に見えないからこそ工場でも事故っていうのは多発しています。

皆さんも家庭で実験するっていうのは少し控えていただいて、動画を見るだけでも楽しめるので、ぜひ概要のところにある動画を見て現象を理解してみてください。

最後に

プラントライフではこのように科学や工場に関する身近なトピックを扱っています。より専門的な内容はケムファクという名前でブログで解説しています。またXでもかねまるという名前で発信していますので、ぜひフォローしてください。それではお聞きいただきありがとうございました。

(宣伝)プラント技術ブログ「ケムファク」

プラントの技術者向けに技術解説記事を書いています。化学工学、配管、機械、電気計装、データサイエンスなど幅広いジャンルに対応しています。



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