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別れようと思う時
離婚を考える。
僕は2010年(27歳の時)に結婚したのだが、
結婚してから4年間、
『離婚したい!』と思う回数は1000回を超えていた。
ほぼ毎日である。
妻に対する愛情が無くなったのか?
そんなことは無い。
結婚前と結婚後で愛情の濃淡差は無かったと記憶している。
じゃあ何で?
何で2000回(増えている)も離婚したいと思っていたのか。
解は明確で、
『時間』と『お金』の自由を失うことによるストレスが凄かったのである。
何時に帰ってくる?と聞かれる恐怖
『時間』から説明すると見出しの通りだ。
大学生から独身の数年間一度も聞かれることが無かった
『何時に帰ってくる?』の呪文。
大人が家に帰るのに、“何時”とか考えたくない。
帰りたい時間に帰りたいのである。
急に飲みに行くことだってある。
僕と妻は同じ会社だった。
ケース①
『八木さんと飲みに行こうと思うんだけど良い?』
『八木さんと飲みに行っても仕方ないから帰ってきて私とご飯食べよう』
『いやいや、八木さんは今日俺と飲みに行きたい、って言ってるんだけど。』
『私が一人で寂しい、と言っているのに、何故仕事の付き合いというお題目で飲みに行くのか??理解が出来ない。彼と飲みに行っても出世には関係無い!』
ケース②
『会社のメンバー数人で飲みに行こうと誘われたから今晩ご飯無しで良いわー』
『はぁ?そういうのは午前中までに言いなさいよ。』
『えっ。。。(ご飯要らないって言わなきゃ怒られるから言ったのに。。)さっき誘われたからさ、、、、』
『まぁ、いいよ。いってらっしゃい。ほんと私は良い奥さんだよね。こうやって飲みに行っても良いって言うんだからさ。』
『そうだね、ありがとう、、、、』
(飲み会最中)
鳴る携帯電話。メールだ。
『飲み会のメンバー全員見える形で写真送って。女性は居ないって言ってたよね?』
その日は7人で飲んでいた。
1人だけ女性が居た。
急ぎ、その女の子にトイレ行ってもらい、彼女のカバンを机の下に隠し、
写真を撮って送った。
こうして僕は飲み会の予定を妻に言うことは無くなった。
遅くなる理由は全て仕事だと言い続けるようになった。
麻雀勝った?と聞かれる恐怖
結婚してすぐお小遣い制になった。
月3万円だ。
結婚前、1か月20万円は使っていた男が結婚した瞬間に月3万円になったのだ。
別に決めたときは何も思わなかった。
何故なら僕は楽天家だから。
オプティミスティックな男なのだ。
ある日の出来事
お小遣いを貰った日。
僕は3万円を握りしめて、渋谷ロッソに行った。
預り金1万、そしてもう1万を千円札に変えてもらう。
残る1万はお守りだ。どうせ初戦はトップだろう。
両替するまでもない。
‐20分後‐
『すいません!万両お願いします。』
・・・何故だ。。。
何故おかわりしている??まだ1ゲームが終わっただけというのに。
こんなにも誠実で真面目で浮気もしない俺がラスって。
大体なんだ上家の5枚オールって!!
俺がしたかったことじゃないか!!
理不尽すぎる。。こんなこと許される話じゃない。
ふざけるな!それは俺の金だ!
必ず取り返す!!!
二戦目トップを取ると決めたのだ。
『リーチ!!』
雀荘に俺の声がこだまする。
あまりにも美しい発声。店内で間違いなく俺が一番の好青年だ。
神は俺に微笑むに決まっている。
だって、俺は結婚している。仕事もしている。浮気もしていない。
素晴らしい人間である。
同卓している仕事しているかもわからない金を持っているだけの小汚いおっさんどもに神が味方するわけなどないのである。
7巡目メンタンピン赤高め三色の三面ちゃん。
そらぁ、俺のターンだよ。
神様は見ているのだ。
清廉潔白、質実剛健、品行方正の俺に神は微笑むのだ。
しかし、親の小汚いおっさんが口を開く。
『これは流石に通らないだろうけど、万が一通ったらリーチだな。』
く、、、入り目じゃねーか。。
おい、メンバー!!ここに正しくない発声しているキモ客いるぞ!
注意ぐらいしろよ。
本当に汚い発声だ。
謙虚さのかけらもない傲慢な男だ。
大体なんだ、その醜く飛び出た腹は。
麻雀なんかしてないで、家族のもとに帰って家族サービスの一つでもすればいい。
タバコの吸い方もきたねーな。
ニヤニヤしてんじゃねーよ、金歯見せるな。
思いつく罵詈雑言を頭に浮かべ、
さっさとツモって、小汚いおっさんに、
『あ、リーチ棒あざーっす!なんでツモられるってわかっているのにリーチって言うんですか?もしかして流れ読めない人?おいしーでーす!!』って言うんだ。
ちゃんと相手煽れるかな?
僕は品行方正、真面目な浮気もしない愛妻家。
人に向かってそんなこと言えるか心配だけど、ちゃんと言わないとな。
しかし、一発目力なく空振り、牌を河に置く。
急に小汚い腹の出たキモいだけが取り柄のおじさんがニヤニヤした。
『ローン!いっぱーーーつ!!
藤田くんそれ当たりだよ。
こんなの掴むなんて藤田くん良いことありそうだね。
リーチ一発メンホン金、裏さーん!!!
24000の1発金裏3で6枚かな。
あれ?藤田くんリー棒出してるから飛んでるじゃん!
ごめん、誤申告しちゃった。飛び2枚追加で8枚だね。
いやー、ダメだよ。
俺の捨て牌見てよ。萬子が無いでしょ?萬子が危ないってことなんだからさ、親のリーチの一発目に萬子切るのはまずいよー』
『長い発声ですね。そういうのマナー良くないですよ。
・・・すいません。カゴバックお願いします。
ちょっとATM行ってきます。。』
俺の頭から湯気が出ていたはずだ。。。
結局この日6万負けた。
月3万円のお小遣いなのに?
これから60日、公園の蛇口ひねって生きていかないといけないの??
これから道玄坂を登るセックスするであろう幸せなカップルを見ながら、
僕は一人で道玄坂を下り、そして泣いた。
お金が無いよ、、、
家に帰ると妻から、
『麻雀どうだった?勝った?』
と聞かれ、
『ごめん、1.5万負けちゃった』
と本当のことは言えず、4分の1の負け額を伝えた。
『そっか、じゃあ明日のランチ代あげるよ。
はい、1,000円!!
本当あなたはツイてるよね。こんな可愛くて優しい奥さんと結婚出来て。
麻雀負けたのに臨時ボーナス1000円貰えるんだからさ!』
因みに、麻雀勝った日は、勝ったお金でお寿司か焼肉を妻と食べると相場が決まっていた。勝ったお金で。。。
こうして、僕は『麻雀勝った?』と聞かれると、
『トントンかな』と答えるようになったのである。
こうして僕は会社に到着し、
PCの電源を入れ、
検索窓に『離婚 円満』、『離婚 相談 安く』と検索することが日課になっていた。
お付き合いしている時
結婚して4年間で3000回離婚したいと思った僕だが、
お付き合い期間の際には別れたいと思うことはあまりなかった。
正確に言うと2回しかなかった。
1回目は前書いたことがある、
『結婚するか別れるか選びなさい』と言われた時。
2回目は、
『婚約指輪が紛失』した時だ。
婚約指輪紛失事件
どうやって買うか
何となく結婚することが決まり、
結婚式場とかも何となく探し始めた時ぐらいだろうか。
僕はまだ指輪を買っていないことに気付いた。
26歳の薄給の僕が、
婚約指輪買うなんて本当にキツい。
しかし、スロットで8000枚出た時のお金を基に、
丁寧にスロットで増やし続け、30万ちょっとのダイヤの指輪を購入した。
この指輪は、当時ちょうど得意先にジュエリーメーカーが居て、
ちょっとした優待チケットを貰っていたので、安く買えたのだ。
確か60万→30万ちょっとに。
本当に運が良い。
どうやって渡すか
買ったは良いけど、問題はどうやって渡すか、だ。
まぁ、こんなどうしようもない男と結婚してくれると言うのだ。
多少ロマンチックに渡した方が良いに決まっている。
7月の夏休みに二人でグアムに行くことになっていた。
よし、ここで指輪を渡そう。
出来れば夜砂浜を散歩しながら、とか良いかもしれない。
計画はばっちり。
本当によく出来た彼氏だな、俺は、とそう思っていた。
しかし、指輪は彼女のもとに届かなかった。
僕と彼女は当時同棲していた中野坂上から新宿へ、
そして成田空港に行くために山手線に乗り換え日暮里に向かった。
僕は大きなキャリーケースとポーターの鞄とポーチを持っていた。
ポーターの鞄には買ったばかりのビデオカメラ、買ったばかりの眼鏡、
いくばくかの現金、そして婚約指輪を入れていた。
大荷物の僕に対し、彼女は、
『ポーターのバッグ、私が持つよー』と言ってくれ、
山手線に乗り込んだ。
ラッキーなことに彼女だけ席に座れた。
彼女は僕の鞄を網棚の上に置き、
当時流行っていたドラクエのすれ違い通信に夢中になっていた。
お互い浮かれていたであろう。
日暮里駅を降りると、彼女が持っているはずのポーターの鞄がない。
『俺の鞄は?』
『あー、網棚におきっぱなしだ!!』
急ぎ駅員を捕まえ、電車を調べて貰ったものの、
見つからないとのこと。
これ以上待つと飛行機に間に合わなくなる。
仕方ない。
僕らは京成に乗り、成田に向かった。
成田に向かうまでの電車、僕は不機嫌を極めていた。
俺の指輪を渡すプランが出来ないじゃないか!
あんなに必死に買った指輪がもしかしたら出てこないかも。。。
あまりに不機嫌な僕に対し、何も知らない彼女は、
『鞄とか眼鏡とかまた買えばいいじゃん!これからグアム行って楽しむのに、いつまで引きづっているの??そういうの良くないよ。』
ばかやろう、、、
あの中には指輪が入っているんだぞ、、、、
しかし、彼女の言うとおりだ。
グアムに行くなら、目いっぱい楽しんだ方が良いに決まっている。
僕らは完全に旅行中は鞄が無くなっていることを忘れることにした。
今15年ぐらい経っているが、グアムの記憶が何一つ残っていない。
この出来事のインパクトが強すぎて、グアムで何したかも覚えていないし、
グアムの風景も一つも思い出せない。
グアムから帰ってきて、再度警察に問い合わせたが、
結局鞄は出てこなかった。
なんだかんだ見つかると思っていたが、現実は甘くなかった、、、
帰り道の京成ライナーで、僕は彼女と別れようと考えていた。
こういうあまり想像出来ないことや外しちゃいけないものが外れる、
みたいなことが起きるって、
“この人と結婚しちゃダメだよ!”というお告げに思えたのである。
彼女は彼女で貰えるはずの指輪が無くなったことを知り、わんわん泣いた。
俺の鞄を無くしたことは大した話ではないと思っていたらしいが、婚約指輪が無くなるのは大事件だ。
しかし、結局別れなかった。
グアムの1か月後ぐらいに彼女の両親に会う機会があり、
お義父さんとお義母さんの顔見たら、別れを切り出すなんて出来なかった。
そりゃそうだろ。
『あなたたちが育てた可愛い娘さんではありますが、婚約指輪紛失して不穏なので別れますね!』なんて言えると思う?
いつか笑い話になればいいなーって泣きながら思ったものである。
※当時は一生笑えるもんか、って思っていた。
別れないと決めたのであれば、もう一度指輪を買うしかない。
急ぎ、得意先のジュエリーメーカーに連絡した。
『指輪を無くしてしまった。もう一度オタクで買いたい。
でももうあまりお金ない。
結婚指輪もオタクで買うから、前回から更に半額で売ってくれないか??頼む!!!!』
と鬼交渉をした。
そして、鬼交渉の結果、僕は15万円で婚約指輪2号を手に入れて、
買ったその日に彼女に渡した。
もう無くすわけにはいかない。
別れるって難しい
昨日1月11日が結婚15周年だった。
あんなにドタバタ付き合い、ドタバタ結婚し、5000回離婚を考えていたにも関わらず、結局別れることなく、子供も3人いるのである。
婚約指輪2号はまだ無くしていない。
この15年の間に、
カルティエのリングも、ブルガリのネックレスも、エルメスのブレスレットも、数えきれないブランドアクセサリーを買った。
車好きな嫁さんの為に、何台も買い替えた。
大きい家に住みたいというから大きい家も買った。
ヴィトンも山ほど買っている。
SK-Ⅱは業者になれるぐらい買っている。
猫が飼いたい、と言えば2匹も飼った。
だいぶ僕の給料も上振れている。
あんなに離婚したいと思っていた、
僕から『時間』と『お金』を奪っていった憎き妻なはずなのだが、
結局は仲良く暮らしている。
そして、妻がしたいこと、欲しいもの、叶えたい夢、
全部実現したいとも思っている。
面白いものである。
僕は彼女をなんだかんだ幸せにしたいのである。
今妻は豪華客船の旅がしたい、と言っている。
ほんと金のかかる女だな。
仕方ない。実現しようじゃないか。
僕はヘソクリを貯め始めている。