ストイック過ぎな商品を作っても、食べてもらえないと意味がない。おいしいが一番です|鹿さん(中山浩彰さん)
FRESH CHEESE Delivery(オンラインショップ)や& CHEESE STANDで取り扱っているプロダクトの生産者とインスタライブで語り合ってきた「&なCraftsmanとProducts」が、帰ってきました! インスタライブではなく、ZOOM対談の新シリーズでお届けします。前シリーズからあわせて第9回となる今回は、広島市西区観音でジビエソーセージを製造する「.comm(ドットコミュ)」の鹿さんこと中山浩彰さんです。.commが2019年に行ったクラウドファンディングをCHEESE STANDが支援。そのリターンとして、モッツァレラ入りのソーセージ「のびぃるモッツァレラソーセージ」を開発していただきました。ソーセージとチーズという、ワンテーマの商品でブランドづくりを行う共通点などもある両社。CHEESE STAND 代表の藤川真至が話を聞きました。
.comm×CHEESE STANDのコラボソーセージ
――たしか、東京の伊勢丹の催事で、半裸で筋肉ムキムキのノムさん(写真右、共同経営者の野村俊介さん)と鹿さん(中山浩彰さん、左)が映った.commのポストカードを見かけて、「おもしろい人がいる」と知ったのが始まりでした。衝撃的でした。
その後、埼玉でやっていた「スモーガスバーグ」(ニューヨーク発の野外フードマーケット)でも見かけて、さらに気になり出して。その後、.commさんのクラウドファンディングを始められて。それをCHEESE STANDとして支援させていただいて、そのリターンでコラボソーセージを作ったのが「のびぃるモッツァレラソーセージ」だったんですよね。(藤川、以下同)
そうですね。クラファンやって、そのリターンが完成したのが2年前(2019年)だったので、まだお付き合いとしては短いんですね、意外です。
――鹿さんは、いつからCHEESE STANDのことを知ってくれてましたか?
僕もその伊勢丹の催事の時ですね。僕らのブースの斜め前くらいにCHEESE STANDさんのチーズが並んでいたのを覚えています。
クラファンのリターンでCHEESE STANDさんのモッツァレラを使ったソーセージを作ることになって、そのあたりからかなり密に連絡をとるようになって。開発に際しては、実際にお会いして方向性を固めましたよね。
藤川さんからは「極限までモッツァレラをつめたソーセージを作りたい」という要望をもらって開発が始まったんですよ。
――そうそう、むしろモッツァレラが主体で真っ白なソーセージを作りたいとかいろいろ話したんですよね。僕の思いつきの発想ばかりで迷惑をかけました。
実際、その真っ白なソーセージも作ってみたんですよ。チーズ8割、肉2割とかで。それで、できたはできたけど、フライパンで加熱したら、チーズがすべて溶け出してしまって。とにかくチーズ入りのソーセージは、中から溶け出てしまうのが難しくて、開発中のほとんどの失敗がそれでした。
最終的には、肉25㎏に対してチーズ9㎏、3割弱くらいのチーズを入れています。
――ノムさんが「自分たちが作ってきたソーセージのなかで一番好き」と言ってくれていて、嬉しいですよね。
そういう方、多いですよ。苦労して作ったので、僕もうれしいですね。
広島でやってますけど、渋谷のCHEESE STANDとのコラボです、っていうとけっこう刺さるんですよ。今、コラボ商品出していますけど、一番知られているんじゃないかな。福岡でも言われましたもん。そこまで届いているブランドなんだなぁと思います。
――「のびぃるモッツァレラソーセージ」のレシピはずいぶん変わりましたよね。
最初は、チーズカレー味にしようとか言ってたんですよね。そんなやり取りのなかで、藤川さんから、イタリアのパッサータっていうトマトのピュレを紹介してもらったり。ただ、それも水分が多かったので、なかなかうまくいかなくて。結局、濃縮したトマトを使うようになって、それは今も変わっていないですね。
僕の中では、みんな大好きなスナック菓子の「ピザポテト」(カルビー)を目指しているというイメージです。
あとは、チーズのチーズのカットの仕方を、何度か変えてきました。今はチーズが届いてから1㎝角にカットして急速冷凍する方法をとっています。ソーセージを作る直前に凍らせたチーズをバラバラにして詰めるということをしています。そうしないと、肉とチーズを混ぜている間にチーズがどこかにいってしまうんです。チーズのキューブ状の形を残したまま混ぜたいと思っているので、この方法が一番いいと思っています。
――中のモッツァレラは.commさん用に、お湯の量や練り方を変えて、そんなに水を入れ込まないようにして作ったモッツァレラなんです。お肉は何を使ってるんですか?
藤川さんには、もっと低水分のモッツァレラを作ってもらえないかと電話でお願いしました。
イノシシ肉が8割と広島もち豚の脂が2割を使っています。豚の脂といっても、広島もち豚の脂はいいもので、広島で育てられている豚を選んでいます。
「なぜ、イノシシの脂じゃないんですか?」と言われることもあるんですけど、.commとしては、自分たちが食べたいもの、余計なものをいれなようにっていうテーマを掲げているんですけど、ストイック過ぎな商品を作っても、食べてもらえないと意味がないと思っていて。食べておいしいのが一番だと思っているんです。もちろん、安定的に入ってこないといった面もあります。
――そういえば、今ののびぃるモッツァレラソーセージは太めですけど、最初は細いソーセージにしようとしていましたよね。
そうなんですよ。細いと加熱したときにチーズが出て行ってしまうので商品化はできなかったんですが……。でも細いのびぃるモッツァレラソーセージも諦めていなくて、じつは今でも細いの作ろうとして試作しているんですよ。
というのも、広島の姉妹店「レモンスタンド」でものびぃるモッツァレラソーセージをメニューに入れているんですけど、今の太さだと18分も火を入れないといけないんです。それだと、飲食店で出すには調理時間が長いんじゃないかなと。加熱する時間が短い方が飲食店では使われやすいので、細いのびぃるモッツァレラソーセージも作れたら、飲食店の人も喜んでもらえるのではないかと思っています。
ただ、細いと肉とチーズのバランスがどうしてもうまくいかなくて。細くするなら、チーズの量を少なくしたりしなくちゃいけないんだろうと思うんですが、そうすると「太いソーセージの中からチーズ飛び出す」というインパクトが薄れてしまうので、商品化にはもう少し時間がかかりそうです。
苦労して開発したソーセージほど愛でてしまう
――たくさんの種類のソーセージを開発していると思うんですが、印象に残っているソーセージはありますか?
僕は、やっぱりそのとき新しくできたソーセージが、思い入れがありますからね。あとは、既存の商品でも、ちょっと作り方を変えたらものすごくおいしくなったものとかは愛情が湧いてきます。自分は、この先の伸び率がある商品は愛でてしますね。「これできるのかな?」というくらい、完成までに時間かかったのは印象深いですね。
でも、森枝(幹)くんとコラボして作った「ビーフソーセージぐるぐる」は、2人でがっつりやったら1日でできちゃって「プロが本気だすとこんなに早いんだな」と思いましたけどね。CHEESE STANDさんとのは確か7月くらいに最初にお会いして、完成は年末だったので、5カ月くらいかかったかな。日常のソーセージ作りをして終わってから試作をするようなやり方なので時間がかかってしまうんですよ。だから森枝くんとの一緒にやったのは衝撃的でした。
CHEESE STANDさんと一緒に、クラファンで支援していただいた名古屋市のフィナンシェ専門店「フィナンシェリーアッシュ」さんとのコラボも思いで深いです。フィナンシェ味のソーセージを作って、名称も募集したんですよ。そうしたら藤川さんが応募してくださって、見事入賞するという(笑)。
――そうだ、そうだ。「マドモワゼル」って送ったら副賞に選ばれたんですよね(笑)。
ちなみに、大賞は「Juicy Butter Bomb」で、今もその名前で販売しています。
ソーセージに卵白、生クリームとキャラメリゼしたリンゴ、ナッツが入ったお菓子要素があるものですね。バターが同梱されていて、それを溶かしながらソーセージを焼くという力作でした。これが、開発に1年半かかってしまって。途中、何度かフィナンシェリーアッシュに行っては、「僕もう無理です、形にできないです」って泣き言を何度か言っていましたね(笑)。
CHEESE PAPERの取り組みを見て
クラフトマンとして共感した
――ソーセージというワンアイテムで勝負しているのは、CHEESE STAND通じるところがあって、いつもおもしろいと思っています。逆に、鹿さんからみたCHEESE STANDってどうですか?
CHEESE PAPERが印象に残っているんです。SNSが拡散メディアだったら、拡散しないメディアを作りたいとちょうど思っていたときに、紙媒体を買った人たちだけに届けるニュースをやられているのを見て、モノづくりした人が繋がりたいと思うときに、そういった思考になっていくのかなと思ったんですよ。
――思いをちゃんと伝えるのって、なかなかできない。SNSでもいいんですけど、それだと僕はどうしても薄く感じてしまうんです。
そうなんですよ、わかります。
――あとは、ちゃんと残るものを作りたいと思ったんです。EC通販で、パンフレットとかを同梱しても最終的には捨ててしまうんですよね。そうではなくて、デザインとしても読み物としても、いいものを作りたいと思ってやってます。
鹿さんも、根っからの職人ではないじゃないですか。アイディアだったり、企画力だったり、そういったことも僕と通じることがあるな、と思っています。
チーズとワインの定期便とかもいいですよね。
――チーズは、前菜にもメインにもなっていろいろアレンジができるんですよ。だけど、ソーセージって主張が強くて副菜にならないと思っていて、苦労もあるんじゃないですか?
.commの商品は、1商品1商品が”重い”んですよね。定期便とかサブスクをやっていないのはそこで、.commのソーセージの立ち位置としては、日常食ではないと思うんですよ。サブスクもビジネスが安定するからやった方がいいですよっていってくださるかたもいるんですが、あれは日常使うものだから毎月送られてきてもいいわけですから。最近、ギフトが多くなっているのは、そういう使われ方なんだろうな、と思いますね。
もしやるなら.commの日常用のソーセージを作らないといけないと思っています。その方が、今のラインナップも際立つんじゃないかと。だから、定期購入するなら、なんとなく食べちゃいそう、良過ぎないなものを7月に出します!
――おおー、出すんですね。冷凍庫にソーセージがあると、うれしいですよね。今日は、肉ではないけど、ガッツリしたものが食べたいな、という日があるので、そういうのがあるとうれしいですね。
ちなみに今は、ハンティングしているんですか?
ハンティングは全然していないです。実は、1回目の伊勢丹のときが免許の更新だったんですが、更新に行けなかったんです。それで今は免許がない状態。もういいやと思って、クラファンのリターンの時に持っていた鉄砲を出そうとしたんですけど、さすがにキャンプファイヤーさんのほうでダメだということで却下されたんですよ(笑)。
――それはさすがにダメでしょう(笑)。
それからは免許のとり直しもしていないので、今は、そのうちやりたいかなくらいですね。
広島の食材にこだわっているわけではない
「好きな人から仕入れたい」んです
――.commとして今製造しているのは、ジビエのソーセージがほとんどですか?
そうですね。広島県産のジビエを9割使っています。だからといって、広島県産にこだわっているというわけではなくて。どちらかというと、食材は近い産地のものがいいという考え方なので、たぶん福岡に移転したら、福岡の食材を使うと思うんですよ。
だから、せっかく広島でやっているんだから広島の食材を使いたいね、ということだけだと思っています。
それよりも、「好きな人から仕入れたい」という思いの方が強いかな。顔が見える生産者といってしまうとどこでも聞くような話しになってしまいますが、できれば知り合いから買いたいし、こっちの方が安いとか、そういう理由では買わないですかね。
だいたい知っている人からの仕入れで、業者さんはほとんど使ってない、となった結果、仕入れはほぼ広島産になるという感じです。
――ジビエを素材に使うということについてはどうですか?
野生動物自体がナチュラルですからね、あるものを食べているし。だから肉として栄養価がいいと思います。だけど、ジビエは高タンパク・低脂肪だから食べましょうね、という売り方はしたくない。そうではなくて、おいしいしから食べる。そういうことを全面に出していきたくないと思っていた結果、「.commのソーセージを食べたら、こんな人間になるよ」というのを感じてもらえたらと考えたら、ああいう男2人の半裸のショップカードになったという。ほとんど伝わってないと思うんですけど、そういうメッセージがあるんですよ(笑)。
実は、裸のショップカードには飽きていて、今は花札のショップカードにしているんですよ。
――花札にも何かメッセージがあるんですか。
それこそCHEESE PAPERのように買ってくれた人と紙の媒体でつながるという思いと似てるんです。
花札には、48種類の絵札があります。12月の季節ごとに4枚ある。それを48種類ショップカードを作ったら、リピートで買ってくれる人にも毎回違うショップカードが届くわけです。さらに、それを48種類コンプリートできたら本当に花札ができるっていうのにしたいと思っているんです。
何が届くのかというコレクター心をくすぐるというか。僕は、買った人に何を渡したかなんてメモしてないので、完全にガチャ的要素ですよね。 今は、8種類できていて、次が10種類目がでます。48種類揃うのが楽しみです。
「ココ壱番屋」さんのインド出店がすごく響いた
――.commは、コアなファンが多いですよね。ファンの方と一緒にやっていることとかはありますか?
ああ、してないですね。僕自身があまり人付き合いを増やしたくないというのもあって。コミュニティを作ると、僕の場合は、そこに時間が割かれてしまうっていうのがあって、あえて作らないようにしているっていうのはありますね。その分、考えたり発信する時間ができるし。
だからたまに少人数の仲間と、飲むとかくらいです。それは広島にいて、いいところかなとも思っています。
――.commとCHEESE STANDでリアルイベントやりたいですよね。ソーセージ焼いて、チーズかけたり、ホットドック作ったりとか。
やりたいですよね! どっちも遠い福岡とかいいですよね、お互い関係ない場所がいい。
――.commが2点目を福岡に出されたのいいなと思っていて。僕らも支店を出すなら、今は福岡が良いって思っているんですよね。
実はまだ福岡は苦戦していて年内は、福岡店をもっと盛り上げていきたいかなと思っています。
あとは、もう少し中長期で見たら、ソーセージでいけるとこまでいきたいって思っています。
メディアとかに聞かれて、半分本気で半分夢みたいに話すんですけど、ドイツに出店したいですね。カレーの「ココ壱番屋」さんがインドに出店されたニュースがすごく響いていて。ソーセージだったら、ドイツで修業された人が日本に来て店を開くという流れがあるなかで、広島・観音で勝手に作り出したものを、本国ドイツで出せたらロマンがあるなと思います。
そのためには現地の協力者が必要かな。ドイツのこと知らないといけない。あとは、イチからブランドを作るのは難しいから、ドイツですでにあるソーセージ屋さんと一緒にやってみるとか、事業継承をするとか、そっちの方が時間はかからなそうだなぁとか、ぼんやり考えています。
それこそ、広島で50歳までやってドイツに渡るというのは、体力的に辛いと思うんです。だから行くなら40歳までにはと思っています。だからあと4年です。
アジアの出店はたまにいわれるんですが、アジアを経由してからドイツに行くと、多分行くだけで一生終わってしまうと思うんですよ。だったら1発大きいところ、本丸を狙った方がいんじゃないかと思っています。
――ありがとうございます。1時間、こうやってお酒もなしで話すのはすごい貴重ですよね。とても濃密な時間をありがとうございました。
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CHEESE STAND のオンラインショップ「FRESH CHEESE Delivery(オンラインショップ)」でも、.commとコラボした商品「のびぃるモッツァレラソーセージ」を販売しております!
文・構成=江六前一郎
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