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友人Mとして


久しぶりに夕方から酒を飲んでいた。


というのも今日は小学校の同窓会で、

町の小さな居酒屋に赴いていたからだ。
 

「あぁ…やっぱり美味い…!」


となりで筒井が鳥皮を食べている。

本当に久しぶりに会うやつもいれば、
今でもしょっちゅう遊ぶやつ。

色々なやつが来ていた。

女連中は化粧を覚えて綺麗になっていた。

特に安藤なんかは見違えた。

あんなに可愛かったっけか…?

同窓会自体は2回目なのだが、
6年3組の担任だった原田先生も来ていた。

先生は相も変わらず声が大きい。

店員を呼ぶ声にも熱が入る。

でもすっかり老けてしまっていて、

短髪に白髪が似合っていた。

各人が思い思いにそれぞれの輪を形成し、
盛り上がっている。

まるで小学生のグループワークのように。

入店から30分。


話す近況も尽きてきた。

皆すっかり酒が回ってきて、

昔のアルバムを見ることにも飽きた頃。


急に木製のドアが軋んで大きな音を立て、開いた。

「久しぶり!待った!?」


そうやって勢い良く入ってきたのは木村だった。

木村は明るく、
どの学年でもクラスの中心にいた。

マラソン大会は6年連続の1位。

おまけに勉強もできる。

だから女にもモテた。

なのに嫌味のないやつだった。

あの頃のぼくにはスーパーマンに見えていた。

確か中学は私立に行ったからそれっきりだ。

だから…12年ぶりだ。

木村は全然変わっていない。

大人の身体にあの頃の頭を付けたみたいだ。

「神童がおいでなすったぞ!」


誰かが言った。

女性からの黄色い声。

男たちからのブーイング。

それらに包まれながら。

木村はきょろきょろと辺りを見回し歩いた。

そして空いていた僕の隣に座り、
間髪入れず、ビールを頼んだ。

彼は一息つくなり、


「久しぶりだな!眉村!今何してんの!」


ぼくは素直に驚いていた。

「よく僕のこと覚えてたね…あんまり喋ったことないのに…」

「そりゃあ覚えてるよ!友達じゃん!」

「今でもたまにアルバム見返すんだよ、あの頃は楽しかったなって…!」

「そうなんだ…」

「この前のは忙しくてさぁ…
来れなかったけど来たかったんだよ!マジで!」

「そっか、僕も会えてうれしいよ。」 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


「そういえばさ。かっつんは来てないの?」


「え?」


ぼくは一瞬反応が遅れてしまった。

知らないからだ、そんな子を。

小学生の頃だから、忘れしまっているのだろうか。

いたっけ?そんな子?

記憶が確かならうちのクラスに
苗字にも名前にも「か」がつくやつはいない。

酔っているから定かじゃないが。

「かっつん…?」

ぼくは困った顔をしていたのだろう。

「お前さ…酔ってるな?かっつんだよ!いっつも遊んだろ?」

「はは…」

薄気味悪く笑うことしかできない。

「マジで忘れたの?なぁ!筒井!お前は覚えてるよな!かっつん!」

筒井は机に伏していびきを立てていた。

木村は軽く息を吐いた。

そして立ち上がり、大きな声で言った。

「なぁみんな、今日かっつん来てないの?」


いきなりの大声に、

皆がそろってキョトンとした顔だ。

女性たちは顔を見合わせ、ひそひそ話す。

男たちは目を細め、口をへの字にした。

「かっつん...?誰それ…」


誰かが言った。

木村の顔色が変わる。

「お前ら…マジかよ!かっつんは友達だろうが!」

皆がさっきのぼくと同じ顔をしていた。

「忘れるなんて…人として最低だぞ!!!」

急に声を荒げるもんだから

見かねた安藤がアルバムを持ってきた。

「ねぇ…どの子がかっつんなの?」

クラス一人一人の顔写真が並んだページが開かれている。

先生はまだ黒髪だ。

「そりゃあ…!!」
「…あれ…いない…なんで…」


「途中で引っ越したとか…?」

ぼくはボソッとつぶやいた。

「そうかも…!アルバムにいないし…!」

「原田先生は覚えてますよね!かっつん!!」

木村は店の奥にいた先生に問いかける。

原田先生は眉間にしわを寄せ、

「そんな子はいなかったはずだ、
6年3組では引っ越しもなかったし…」


 
 
 






木村は少しうつむいた。

「そんな…じゃあかっつんは…誰なんです…?」


皆が黙り込んだ。

木村はそこからあまりしゃべらなくなった。

さっき大声をあげてしまったこともあるだろうが、
自分の思い出を失ってしまったからだろう。

「あの頃は楽しかったなって…!」

そう言っていた木村を思い出した。

飲み放題の時間が終わり、
皆が帰り支度を始める。

楽しかったね、またやろうな。

口々に皆が言っている。

筒井は結局最後まで寝ていた。


酔いのまわった体を動かして、

ぼくは帰路につく。

点滅する街灯を追い越して、

ぼくはドアノブを回した。

家に帰ってからもモヤモヤしていた。

何かを忘れているような。

結局かっつんとは誰なんだろう。


木村が小学生の頃に作り出した
イマジナリーフレンドというやつなのだろうか。

家庭環境は悪くなかったように思うが…

これも酔っているから定かではない。

ぼくは本棚の奥にあったアルバムを開く。

久しく開いていなかったから埃っぽい。

校歌のページを過ぎ、
6年3組の写真を見る。

安藤は素朴な感じだ。

これはこれで可愛いじゃないか。

木村は今日あったままだな。

筒井、思ったより太った…?

この頃から…ぼくは髪が長いんだな。

そんなことを思った。

やっぱり「かっつん」らしき子はいない。

クラスの集合写真、運動会、修学旅行。

パラパラとめくっていく。

アルバムの残りも少なくなってゆく。
 
 
 
 
 

そこで一枚の写真が目に留まった。


確かこれは…
田植え体験の写真だ。

そこには満面の笑みで、

 
 

教室で飼っていた蛙を
手のひらにのせた木村の姿があった。

 


”それ”が「かっつん」なのか、
ぼくにはわからない。