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日本列島チーズ工房リレー 第6回 高秀牧場ミルク工房
高秀牧場を訪ねる
千葉県いすみ市の高秀牧場ミルク工房を訪問させていただきました。
東京からアクアラインと圏央道を使用して約1時間半、茂原長南ICを降りて、
20分ほど車を走らせたところに高秀牧場はあります。
その日は目の前に広がる満開の菜の花畑が、私たちを迎えてくれました。
高秀牧場は1983年に創業し40年続くいすみ市を代表する牧場です。
この牧場のミルクから、高秀牧場のチーズはつくられています。
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2代目のチーズ工房責任者の大倉典之さんにお話しをお聞きしました。
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牧場では循環型の酪農に取り組みながら、現在約200頭の乳牛を飼育しています。
牧場でのチーズ製造の他、いすみ市内の他2軒のチーズ工房にも生乳を卸しています。
循環型酪農とは
牛の糞や尿を堆肥に変え、資源として無駄なく利用してゆく酪農です。
「排泄された糞尿→堆肥にする→農地に還元する→牧草や作物の栄養源になり、それが牛のエサになる→再び排泄される」このような循環が繰り返されています。
昨今、酪農危機が騒がれるなか、やむなく離農を選択する酪農家が増えています。
その要因のひとつが海外飼料の高騰です。
高秀牧場では自社の畑だけではなく地域の稲作農家と協力して、自給飼料を生産しています。地域全体で循環型農業に取り組むことにより、現在では飼料のおよそ7割を賄えるようになりました。酪農家の多くが海外飼料に頼るなか、いち早くその危険性に気づき課題と向き合ってきた高橋社長の先見性は素晴らしかったと大倉さんはしみじみと仰っていました。
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濃厚飼料のうち、米の比率が高いのが高秀牧場の特徴です。
どのように堆肥にするのか
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ある程度溜まったら別の場所に運び、発酵をさせて堆肥にしています。
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綺麗な池のように見えますが、ここでもおよそ1年かけて、液肥を生産しています。
主に稲作農家に届けられ、飼料用の稲WCSや玄米の生産の他、食用のブランド米がつくられています。
高秀牧場の牛
ホルスタイン種の乳牛を約200頭飼育しています。
牛はともに生活している大切な家族という気持ちで愛して、できるだけストレスをかけないよう、環境や餌などさまざま工夫されているとのことでした。
広い清潔な牛舎にはふかふかの藁が敷かれ、牛たちはリラックスした様子で、人懐っこく、大切にされている様子が伝わってきました。
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酪農体験
高秀牧場は酪農体験にも力をいれています。
牛乳は身近な飲み物ですが、それができるまでの過程はほとんど知られておらず、観光牧場ではない高秀牧場ならではの本物の酪農を体験し、食と命の繋がりを感じてほしいという想いで行っています。
牛舎を見学して、牛を触り、世話のこと、餌のこと、牛の一生などを学び、乳搾りをして、最後に新鮮な牛乳をいただきます。
牛のお話や、ふれあう温かさから、食べ物は「命」であること、「食べること」は「生きること」だということ、「いただきます」の気持ちなど、大切なことに気づいてもらえるきっかけになることを願ってやっています。
子どもだけでなく、大人にこそ体験してもらいたい貴重な酪農体験だと感じました。
牧場のショップとカフェ
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2012年にチーズ工房が稼働し、2016年にはミルク工房がオープンしました。
手作りチーズをはじめ、搾りたての牛乳、牧場のミルクを使ったジェラートやスイーツ他、ピザやハンバーグなどの軽食がいただけます。
ショップの中に入ってまず目についたのは、牛について、酪農についてなど、イラストでわかりやすく説明されたポスターです。
いたるところに貼られ、興味深く学ぶことができます。
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酪農家が大切に育てた健康な牛のミルクが 多くの人の手にかかり、美味しい牛乳となって私たちの食卓に運ばれるということがよくわかります。 夏休みの自由研究にもぴったりです。
カフェ店内の様子
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きっと心に残るハンバーグになることだろうと思います。
高秀牧場のチーズ工房
2012年設立
初代の工房責任者は現在haruフロマジュリ・カフェを営んでいる吉見さんで、大倉典之さんは2代目です。
現在約15種類のチーズをつくっています。海外や日本のコンクールで賞をとった看板商品のブルーチーズ「草原の青空」やセミハードの「まきばの太陽」をはじめ、日々新しい商品の開発をしています。
3年前に熱心な女性職人の加藤さんが入られ、彼女の視点でドライフルーツを使ったデザートタイプのチーズが多く作られるようになったそうで、ショーケースはとても華やかでした。
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大倉さんと加藤さんは月に数回、チーズを取り寄せた試食会や勉強会をしてチーズの探究や新商品開発をしています。取り寄せすぎて食べる方が間に合わないこともあるとか(笑)
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試食させていただいたチーズ
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(左から)
まきばの太陽
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フランス ルブローションつくりかた。 塩水でしぼった布で磨き、酵母とリネンス菌を
生やして旨味を引き出す。
いすみの白い月
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生地はシルキーで爽やかな酸味がある。
草原の青空
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外皮が青かびで覆われている。 食べ慣れていないかたにも召し上がっていただけるよう、
塩分を控えめにして穏やかな風味にしている。
フロマージュ・ブラン
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素材を活かしたシンプルなおいしさ。
ホエイを使ったチーズ
最近では循環型酪農の考えかたをチーズにも置き換えて考えるようになりました。
貴重なミルクを無駄にせず使い切るということは勿論ですが、チーズの副産物として大量にでるホエイもまた、大切な「資源」です。ホエイは栄養価が高く、毎日廃棄することなく牛に飲ませていますが、糞尿を堆肥や液肥に変えて価値を高めるように、ホエイにも付加価値をつけたい。そこで、ホエイの有効活用としてポピュラーなリコッタ製造からはじまり、今では、より日持ちするホエイジャムやブラウンチーズという商品もつくるようになりました。
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① ホエイジャム
ジャムにすることで日持ちがよく、運搬しやすく、より便利に使っていただけると考えています。つくり方により、淡いゴールドからオレンジ、さらに深みのある茶色とさまざまな色になり、味わいもヴァラエティーに富んでいます。美しく、さらりとしたテクスチャー、軽やかな酸味、控えめな甘さで大変美味しいホエイジャムでした。
チーズに添えると非常によく合いましたが、蜂蜜感覚でさまざまなお料理に使っていただけると感じました。
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② ブラウンチーズ
ホエイに生クリームを添加して6時間ほど煮詰めることで、まるで塩キャラメルの様な茶色いブラウンチーズが出来上がります。
ブラウンチーズはノルウェーのイエトストが有名で歴史のあるものですが、
最近は日本でも多くの工房でつくるようになり、コンクールで賞をとるものもでています。
大倉さんのブラウンチーズはお砂糖を使っていないとは思えない甘さがあり、ひとつひとつキャンディーのように包まれた形状をしています。
手に取りやすく、口に入れやすいキャンディー型のブラウンチーズは、子どもはもちろん、ご病気の方やお年を召した方など多くのかたに召し上がっていただきたいものだと感じました。
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職人の労働
観光地として有名な「いすみ市」ですが、お客さんの数は時期によって大きく波があるので、繁忙期では製造に追われて疲弊して、閑散期は逆に暇になって労働力が余ってしまうことが課題でした。この状況を改善するため、数年かけて日持ちするチーズとフレッシュチーズ両方の商品化を進めてきました。アイテム数は徐々に増え、現在では約15種類になっています。商品が増えたことで、閑散期はセミハードやブラウンチーズ、ホエイジャムなど日持ちのするものを予め仕込めるようになり、繁忙期にはリコッタやモッツアレラ、デザートチーズなどのフレッシュタイプを多く作れるようになりました。以前は、GWやお盆時期などチーズを欠品させてしまいお客さんをガッカリさせてしまうこともあったのですが、いまでは、欠品させることなく販売できるようになりました。また、万が一売れ残ってしまう事態にも備え、チーズを使用したジェラートやスイーツ、フードメニューの開発にも力を入れてきました。お陰様で食品ロスが無くなり、精神的にも安心して製造ができるようになっています。
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大倉さんのチーズ職人としてのストーリー
栃木県那須塩原市出身
2003年東海大学農学部入学
(熊本県)阿蘇キャンパスにて、チーズ研究で有名な井越敬司教授の研究室に所属したことが「チーズ」との最初の出会いです。室長をすることになり、教授のお手伝いをするなかで日々チーズの面白さについて教えられ、気づけば研究漬けの日々を過ごしました。主にチーズの機能性(抗酸化作用、ガン細胞殺傷など)に関わる研究をしていましたが、そのなかで健康に関わる様々な効果があることを知りました。乳酸菌やまとっているカビの種類、熟成期間の違いなどで効果が変わることもわかり、気づいたらチーズにはまっていました。
この時の経験がチーズつくりの原点です。
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2007年タカナシ乳業株式会社に就職。
10年にわたりチーズの製造や商品開発に携わりました。入社してからの8年間を北海道で過ごしましたが、工場では主にフレッシュチーズの製造に関わりました。製造をする傍ら、休日は道内のチーズ工房巡りをすることが楽しみでした。訪問先は徐々に全国へと拡大し、10年間で150工房ぐらいは訪問したと思います。そのなかで酪農家が自ら搾った乳でチーズを作る、いわゆる『農家製チーズ』は作り手の人柄や風土がよく繁栄されており、個性があってとても面白いと感じていました。縁あって南フランスのロックフォール・シュル・スールゾン村にいくツアーに参加したことがありますが、地域が一体となったチーズつくり、テロワールに圧倒されて興奮したことを覚えています。
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実はこの旅行中に同僚から本社がある横浜へ辞令がでていることを伝えられました。色んな意味で記憶に残るフランス旅行になりました(笑)。
横浜では、主にチーズの商品開発に関わりました。ここでは商品ができるまでの一連の流れを知ることができ、賞味期限や食品表示、包材や価格設定の考え方などを学びました。ここでの経験は今でも本当に役に立っています。
2017年高秀牧場のチーズ工房に就職。
高秀牧場でそれまでチーズ工房を担ってきた前任者が独立するということで後継者の募集をしていました。この情報を見つけたときは横浜に住んで2年目でしたが、直ぐに牧場へ電話をかけていました。
というのも、横浜にきて間もない頃、いすみ市にチーズ工房が沢山あるという情報を聞きつけ、「チーズマップinいすみ」なるものを片手に工房巡りをしたことがありました。高秀牧場はその時に訪問した一つであり、ここで購入したブルーチーズ「草原の青空」がとても美味しかったので記憶に残っていました。2015年、このチーズはフランスで行われた国際コンクールにて当時、日本人として初めて最高賞を獲得したことでチーズ業界が少しざわつきました。こういう職人から一度でいいからじっくりとチーズつくりを学びたい、こういうチャンスは人生においてそう巡ってくることはないだろうと思いました。
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高秀牧場の社長から、一度直接会ってお話しましょうとなりました。当時の私は独身ではなく、妻と0歳の子供がいて絶賛育児中でした。このタイミングで大きく生活環境を変えることは厳しいかなと想いながらも家族を高秀牧場へ連れていきました。一通りの話しを聞いたなかで、道中でのいすみの風景、社長家族の人柄や牧場の雰囲気、牛乳やチーズの美味しさなどを感じて安心したのか、妻も私の転職に理解を示してくれました。就職することが決まってからはもうバタバタで自分でもよく時間軸を覚えていません(笑)
約1年間の引継ぎ期間を経てチーズ工房責任者として現在に至ります。
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何度もお話を伺い、大倉さんのチーズつくりは大学生の時の研究から始まる科学的な視点、大手の乳業メーカーでの経験、そして高秀牧場へのリスペクトが基礎にあるのだと感じました。特に運命的ともいえる高秀牧場との出会い、いすみに移住するという決断は大きいものだったと思いますが、大倉さんがご家族を大切にしているからこそ、奥様の「ここならば安心」という太鼓判に繋がったのだと思いました。
高秀牧場のチーズはそんな大倉さんのチーズへの情熱と周囲への愛そのもののように感じます。これからさらに進化、深化する大倉さんのチーズ、これからもずっと楽しみにしています。
購入したチーズ
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もっとたくさん購入すればよかったと後悔
■高秀牧場ミルク工房
住所:〒298-0106千葉県いすみ市須賀谷1339-1
電話:0470-62-6669
営業時間:10:00~17:00(ラストオーダー16:00)
定休日:木曜日
公式HP:https://www.takahide-dairyfarm.com/
■牛かうばっか~高秀牧場のじぇらーと屋さん
〈アンテナショップ〉
住所:〒260-0015千葉市中央区富士見2-11-1
電話:043-239-9136