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憧れを現実にした女性

父の所属する蕎麦の会つながりでご主人が型彫りをされて、奥様が紅型と絞染をされていたご夫妻を仲間と訪ねました。

テーブルセンター、ランチョンマット、コースターなどの藍染めされた手作り作品、繊細で立体的な型紙の創作に囲まれて生活の中に藍がある暮らしを楽しんでおられました。

ご主人は定年前に型彫りを55歳からはじめて十年間されました。小松川の先生に江戸型彫を習いに行かれました。
毎晩夕食後に二時間彫ってその後に晩酌を楽しんだそうで、コツコツと努力をされた結果の数々でした。
二匹の鯉の目線を意識してそれぞれが陰と陽に渦をまいたような迫力があるもの、浮世絵をそのまま再現したような世界、星屑の中に花が咲く宇宙的な作品に圧倒されました。
江戸時代には、多くの伊勢形紙職人が江戸にやってきました。伊勢の流れを受けながらも、引き彫りと呼ばれる技法や思い切りのよい大胆な構図など、江戸ならでは独自の進化を遂げたのが江戸型彫です。

奥様のされていた有松絞りは、愛知県名古屋市の有松町・鳴海町地域でつくられる木綿絞りの総称。布をくくって染める絞りの技術で、さまざまな文様を描き出す手法です。
紅型も習っておられて、その出会いは1962年の雑誌ミセスでした。一目見て載っていた紅型の先生に習いたいと思って阿佐ヶ谷まで通っていました。その当時の雑誌が大切に保管されていました。
沖縄にある紅型のような鮮やかな色合いでない本土の日差しにもしっくりくる紅型の色合いに惚れ込んだそうです。
天然染料にこだわって経年劣化しても色あせない、何年にもわたって毎年出作りされた紅型の年賀状を見せていただきました。
色は朱(赤口と黄口がある)、藍、黄土などの五種類の顔料から自分で組み合わせて色を生み出していきます。和紙に型を糊置きして、和紙を洗って干して、窓ガラスに張り付けてまっすぐにして、新聞紙に包んで水分を飛ばすというとても手がかかった工程でした。
紅型の特徴である、隈取りという色挿しの終わった柄に濃い色でアクセントをつけ、立体感を出すことを知りました。

ご自宅で藍染めをされていた時期は毎日甕を手入れしなければならず、旅行は別々に行っていたそうです。ご夫婦で旅行に行けるようになったのは、藍染めをやめてからでした。
私がやっている本建て正藍染の建て方をお話すると、毎日攪拌しなくていいことに驚かれていました。また、ウールや絹が藍に染まるということも初耳だと言われました。

伝統工芸を趣味に持たれた仲睦まじいご夫妻に出会えて、ほっこりしました。


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