「熟議」か「即断即決」か
トランプ大統領誕生!
今年は、米国大統領にドナルド・トランプ氏が就任する。それに対して、我が国の一部には、彼がどのような難題を突きつけてくるのかと身構えたり、昨今の少数与党が野党の意見を丁寧に聞く「熟議型意思決定」では、付いて行けないのではないかと不安視する向きがある。その背景には、「熟議」は、即断即決のためには、「無用の長物」、いわば「悪」であるとの捉え方がある。
だが、はたして本当にそうであろうか。
トランプ大統領誕生は、日本の好機
そもそも、世の中にトランプ氏を「独裁者」呼ばわりする傾向があるが、それ自体があまりに短絡的ではあるまいか。彼は一期目の際、日本との関係においても、安倍元首相と友情的交流とも呼ばれる程、良い関係を築き、在日米軍駐留費においても日本の主張に聞く耳をきちんと持って実行したと言われている。実際、米国民が再び大統領に選んだことは、その多くが彼を「独裁者」などではなく、「頼りになる強いリーダー」と捉えている証左だ。日本も、そうした彼の「強いリーダーシップ」を上手く活用し、世界における発信力を鍛えることができる好機と捉えてはどうか。
元来、デジタル化が急速に進んでいる現代では、国レベルに留まらず、会社であれ、どのような組織であれ、意思決定に至るスピードを早めなければ、競争の中で勝ち抜くことができない。意思決定に「優柔不断」、「組織内対立」は、一番の禁物なのだ。その意味で、トランプ氏の再登板は時代の要請ともいえる。
「急がば回れ」文化を育てることがリーダーの役割
だが、ここでわれわれにとって大事なことは、トランプ型の全てを真似ることではない。そもそも、「強いリーダーシップ」とは、議論をすっ飛ばして良いとか、リーダーの独断独裁で良いという意味ではない。トップリーダーが最終の意思決定を即断即決するために重要なことは、むしろ、それに至るプロセスには、丁寧にエネルギーを割くことなのだ。つまり、組織の構成員同士が互いの考え方を日常から理解、尊重しあい、懸案のメリット・デメリットについて、丁寧に議論し合い、トップに上げる文化を作っておくことだ。それがあって初めて、トップリーダーは、最終判断をスパッと正しくできる。よって、「熟議」と「即断即決」は、対立概念ではなく、「連動概念」なのだ。まさしく、「急がば回れ」である。同時に、その議論のプロセスや最終決定について、組織の内外を問わず、情報を開示できる体制を普段から築いておくことも重要だ。
「熟議」こそが「強い組織」を生む
組織の大小を問わず、こうした「熟議」と「オープン」な情報公開の不断の努力こそが、あらゆる難題に対しても即断即決できる「強い組織」を生むための最良の特効薬なのだ。よって、日本の少数与党の「熟議」せざるを得ない状況も、むしろ、政治の本来のあるべき理想の姿であり、与野党一致の決定事項として、メッセージを発信できるという点においても、真に「強い政治」のモデルケースを作りあげることができる好機と捉えたい。
今こそ、われわれは、あらゆる場面で、「熟議」で強い意思決定を実行していく文化の価値を噛み締め、自信を持って習慣として根付かせていくべき時である。