星々の昔話 〜エピソード2〜
星々の昔話 〜エピソード2〜
月ナギホ(ちぇこ)
●広い宇宙の中、水色の小さな二つの星々が、お互いに向かい合って、高速で回り合っている。
弟:まったく嫌んなっちゃうよ!
兄:何がだってんだ!
弟:何で死んでまで、兄さんと顔向かい合わせてなきゃいけないのさ!
兄:おいおい、つれないな。
弟:死んだら星になるとは聞いてたけど、こんなの、あんまりだ!双子だからって!
兄:僕は死んでまで、揃って一緒にいられて、幸運だと思うけどな……。
弟:そんなこと言えるなんて、兄さんは死んでもなお、僕の気持ちがわかってなかったんだ!
兄:お前の気持ち?なんだよ、言ってみろよ。
弟:兄さんは良い人生だったろうよ!人が良くて、頭が良くて……。だけど病気だから、ベッドに寝てりゃ、みんなちやほやしてくれたんだから!
兄:本ばかり読んで、つまんない人生だったけどなあ。
弟:僕は勉強ができなくて、みんなにバカにされた!母さん達にまで……。兄さんはあんなに出来が良いのに、お前は似てるのは顔だけの、出来損ないだってさ!それで、兄さんがベッドにいる間、ずっと働いてたんだ!
兄:僕も働いてみたかったな……。
弟:コックの下働きなんて、何が楽しいと思うってんだ!
兄:お前そんなことやってたのか!?すごいじゃないか!
弟:はあ?
兄:僕は、外国語もできなくていいし、哲学書も読めなくて良かったんだよ。どうせ役にたてられなかったんだから。お前は人の役にたてたじゃないか。羨ましいよ……。
弟:僕は人の役にたてなくたって、何ともなかったんだ。それより楽して、幸せに生きたかったんだ!
兄:僕が幸せだったのは、物語を読んで、違う世界に思いをはせてるときだけだったよ……。辛くても構わない。外に出たかった。人の役にたって、生きていていいんだって、思いたかった……。
弟:兄さんは生きてて良かったじゃないか!寝てて、ニコニコ笑ってるだけで、母さん達までにこにこさせてたんだから!僕だってそんな風に、楽して可愛がられたかったよ!
兄:母さん達は、かわいそうな息子を可愛がって、良い人でいる気分を味わいたかっただけさ。それに利用されるてるときの惨めさったらないよ……。それよりも、本当の意味で、人に必要とされたかった……。
弟:……外の奴らだって、おんなじだよ!やな奴ばっか!そんな奴らから必要とされても、嬉しくないね!そんな思いしなくて、やっぱり兄さんは幸せだったよ……。
兄:……ははは。お前は折れないね。でもこんな僕たち、二人一緒になったら、完璧だったんじゃないか?
弟:僕と兄さんが?兄さんだけでいいじゃないか!
兄:いや、僕だけじゃ、何も起こせない。お前が一緒になってくれたら、何か起こせたかもな。その健康な身体と利発さで……。なあ、知ってるか?
弟:……何が?
兄:お互いがお互い衛星同士の、回り合ってる二つの星は、遠くから見ると、一つの星に見えるんだ。みんなに見えてる僕たちは、一つなんだよ。
弟:えいせい?何がなんだかわかんないけど、僕たちは外から見たら、一緒にされてるってこと?
兄:そうだよ。これでこそ、完璧だ。僕たちは完成された、理想の存在なんだよ。二つで一つとなってね……。
弟:どこが完璧なんだよ……!どうせ一緒になるなら、生きてるうちが良かった!まさか僕たちの寝てる部屋に、爆弾が落ちるなんて……!それで一緒に死ぬなんて、あんまりだ!
兄:いや、それでこそ僕たちだ。どちらが残ってもいけないのさ。二人で一つ。そう運命づけられていたのさ……。そしてそれが必然なんだよ……。