今日も香箱びより3
僕の名前は『かりんとう』
今日もお気に入りの場所で香箱(こうばこ)を組んで考えごと。
これは
僕と僕の家族の、普通の日常のお話。
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伝えたい気持ち
すっかり寒くなって、今年もテレビの横にクリスマスツリーが現れた。
たくさんついた丸いキラキラがどうしても気になって、つい触って揺らしてしまう。
うまいこと床に落ちたらラッキーだ。
キラキラを転がして僕も床にごろんごろんと転がりながら遊ぶのが最高に楽しい。
だけどクリスマスツリーには
苦い思い出がある。
それは
僕の届かない棚の上に飾ってある
てっぺんの星が少し曲がった小さなクリスマスツリーだ。
とても可愛いけれど、あれを見るたび僕の胸がギュッとなる。
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あれは2年前。
テレビの横にクリスマスツリーが現れてすぐの頃。
せんべいくんが、工作で小さなクリスマスツリーを作って帰ってきた。
おかあさんに自慢げに見せると、おかあさんも
『わぁ!すごい!上手にできたね!!
これぜんぶ1人で作ったの?すごく素敵!』
ととても褒めていた。
大きな松ぼっくりを木に見立てて、
飾りがひとつひとつ丁寧に付けられていて、てっぺんに小さな星がついている。
確かにとても上手にできていた。
せんべいくんらしい、優しいクリスマスツリーだ。
『みんなが見えるところに飾っておこうね』
とキッチンカウンターに置いた。
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それから何日か経ったある日、
事件は起きた。
夕飯の支度をするおかあさんにいつものように話しかけて、キッチンカウンターから降りようとしたその時。
ガシャーーーン!!!
と音がしてハッとした。
振り向くとせんべいくんの作った あのクリスマスツリーが床に落ちて
飾りのついた松ぼっくりの破片と、
てっぺんの星が取れてバラバラに落ちていた。
僕のお尻が当たって落ちたらしい。
しまった。どうしよう。
ちょうどリビングにいたせんべいくんが来て
落ちて壊れたクリスマスツリーを見た途端、
声をあげて泣き出してしまった。
いつも穏やかなせんべいくんが
『かりんとうが落とした!
かりんとうなんて嫌い!
ずっとかりんとうのおうちに閉じ込めてよ!』
と怒って泣いていた。
おかあさんもびっくりして、落ちたツリーと破片を拾い集めると
せんべいくんを抱っこしてなだめた。
『かりんとうが通るところに置いたおかあさんが悪かったよ。
かりんとうもわざとじゃないから嫌いにならないでね。』
と言ってくれた。
ぼくは本当に申し訳ないことをしたと思って
少し離れたところからせんべいくんに
『ごめんね、ごめんね』と謝るけど
ぼくの言葉は相手がそれを聞こうと思わないと伝わらないのだ。
せんべいくんはしばらく僕の言葉を聞こうとしなかった。
こんな時、僕にもみんなと同じ言葉を話せたら良いのにって思う。
『ごめんね』と言って抱きしめて、ツリーもきれいに直せたら良いのに。
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それでも僕はせんべいくんに毎日毎日話しかけて、クリスマス当日には せんべいくんもまた心を開いてくれた。
『もう!気をつけてよね!』
と言って撫でてくれた時は嬉しくて喉がゴロゴロなった。
抱きしめるのと ツリーを直すのはおかあさんが代わりにしてくれた。
『ありがとう』と言うと、
『いいんだよ。
でも君は自分が思うより身体が大きいからね?
すり抜けようとするときは気をつけて』
と釘を刺された。
う。気をつけます。
みんなが寝た後のトレーニング、また始めようかなぁ。
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そんなわけで今年も
少してっぺんの星が曲がった小さなクリスマスツリーが飾られている。
せんべいくんみたいな優しいツリーだ。