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「カナレットとヴェネツィアの輝き」レポート
18世紀、ヴェドゥータ(景観画)の巨匠カナレットを紹介する日本初の展覧会「カナレットとヴェネツィアの輝き」がSOMPO美術館で開催された。カナレットのことは美術検定で知り興味があったので行ってきた。グランド・ツアーとの関係性や18世紀におけるお土産の在り方に関する知見が得られたのでレポートを書いていく。
1.カナレットとは?
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ジョヴァンニ・アントーニオ・カナール、通称カナレット(1697-1768)はヴェネツィアを拠点に活動したヴェドゥータ(景観画)画家である。父ベルナルド・カナールも画家であったため、区別するために「小さいカナール」を意味するカナレットをアーティスト名にし活動した。
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カナレットの作風はヴェネツィアの街並みを細部まで正確に描きこんだ点にある。彼はスケッチにカメラ・オブスクーラを使用したとされており、「カナレットとヴェネツィアの輝き」では本物が展示されていた。
2.お土産画としてのカナレット
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カナレットが活躍した18世紀ヴェネツィアは観光の街であった。当時イギリスの富裕層の間でグランド・ツアーが流行しており、若者が古典教養教育の総仕上げとしてヨーロッパを旅した。そしてイギリスにはない風景や歴史を感じられる場所に感動した。今や想い出の外部化としてスマホで写真を撮って保存したり友人にシェアしたりできるが、18世紀にはそんなものはない。当時の人々はその土地での感動をどうやって形に残したのだろうか?
ここでヴェドゥータに需要が生まれる。正確に街を描写し、時にはその土地の人間活動の躍動感を伝える絵画がお土産として人気を博するのだ。
カナレットはイギリスの大商人ジョゼフ・スミスに発見され、1730年代頃から売り込まれるようになる。しかし、1740年から始まったオーストリア継承戦争によってイギリスがグランド・ツアーどころではなくなると、ヴェネツィアの観光客が激減しヴェドゥータが売れなくなる。
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そのため、カナレットは1746年5月にロンドンへ渡り、そこでヴェドゥータを描くようになった。
3.「カナレットとヴェネツィアの輝き」レビュー
「カナレットとヴェネツィアの輝き」は日本初の展覧会ということもあり、ヴェドゥータの歴史から当時のカナレットの位置づけを図る流れとなっており、入門として最適な構成であった。
ヴェドゥータ前史として15世紀における線遠近法の説明と共にヤコポ・デ・バルバリ「ヴェネツィア鳥観図(初版の複製)」が提示される。そして海外領土を失い、海上利権もなくなったヴェネツィアであったが、グランド・ツアーの行き先としてヴェネツィアが選ばれ観光都市となっていきヴェドゥータへの需要が高まった当時の流れが解説される。
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ヴェドゥータはどれも「映えな風景画」に見えてしまうため、段々と鑑賞者を退屈させてしまいそうなのだが、本展では的確なたとえや鑑賞者のアクションを促す展示が行われていた。
「サン・マルコ広場」を例にする。一見するとサン・マルコ広場を正確に捉えた作品に見えるのだが、実はこの角度からこの光景を見ることができない。なぜならば、この位置には別の建物があるからだ。対象を魅力的に捉えるためにフィクショナルな位置から描くアプローチは現在におけるマンション販売のイメージ図に近いと解説されており慧眼であった。
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サン・マルコ広場からリド・ディ・ヴェネツィアまでボートで漕ぎ、金の指輪を入れることで「海との結婚」を祝福するセンサの祭りを描いた
「昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ」(1738-1742)
「昇天祭、モーロ河岸のブチントーロ」(1760)
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には約20年もの開きがある。展示ではそれぞれの作品の比較をするよう促している。前者ではボートを漕ぐ者や布の赤が強調されており、右下から赤いトーンがサン・マルコ広場へと伸びていくアプローチとなっている。人の運動が街を彩る様をテーマにしているように思える。
一方で後者では、ヴェネツィアの街全体を捉えるためにトーンが落とされており、サン・マルコ広場がより強調されている。「人がいて街がある」構図から「街があって人がいる」構図へと変わっているように感じた。
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カナレットは現場で素描を描いているのだが、建物の名前や窓の数などといったメモを残している。彼の緻密な作風のルーツを本展で知ることができる。特に「サン・マルコ大聖堂の内部」は建築に携わっているのかと思うほどに精密である。
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カナレットは外観だけでなく内観のヴェドゥータを描いており、ロンドン時代には今でいう遊園地のような施設ロトンダの様子を描写した作品を残している。
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カナレットの版画展示では2枚の「ドーロ風景」の違いを鑑賞者に見つけてもらう試みがされている。しかしながら、サイゼリヤの間違え探し並みに難しく分からなかった。
3.カナレットと同時代の画家について
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「ヴェネツィアのカナル・グランデ サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂を望む」
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後半ではカナレットと同時代の画家の作品が紹介されている。カナレット同様、開けた場所でのヴェドゥータを描いている画家が多い中、私はウィリアム・エティの「溜息橋」に惹きこまれた。水の都ヴェネツィアは入り組んだ水路が街のシンボルとなっている。その陰にフォーカスを当てた作品がこれである。建物を縫うように光が差し込む。鑑賞者の眼差しは上から下へと辿れるよう導線が引かれている。やがて光が届かぬ死角へ到達するわけだが、そこには処刑された囚人がこっそり運ばれる姿が映し出されている。グランド・ツアーで訪れる観光客が恍惚に浮かれている裏にある翳りをスキャンダラスに描いている本作は「カナレットとヴェネツィアの輝き」中で最も異質なヴェドゥータだったといえよう。
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最後にはクロード・モネ、ポール・シニャックと印象派/新印象派の巨匠がヴェネツィアで描いた作品が展示されていた。どちらも水の揺らめきと躍動感を強調するように青と赤を織り交ぜた作風となっており、情熱滾るものを感じた。
最後に
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「カナレットとヴェネツィアの輝き」はカナレットのことだけではなく、18世紀当時のヴェドゥータの役割を能動的に追うことができる導線作りがされており非常に面白かった。特に「昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ」「昇天祭、モーロ河岸のブチントーロ」を比較するセクションは、素通りしてしまいそうな似た作品を分析するきっかてとなっていたので良かった。風景画に興味を抱いた展覧会であった。
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