しぐれうい個展「雨を手繰る」レポート
8月30日(金)より六本木ヒルズ カフェ/スペースにて、イラストレーターのしぐれういさんによる個展「雨を手繰る」が開催されている。しぐれういさんといえば、ホロライブの大空スバルさんやぶいすぽっ!の千燈ゆうひさんのデザインを手掛けるだけでなく、個人勢VTuberとしても活動しており、2024/9/10現在でチャンネル登録者数が197万人もいる大御所である。
可愛らしい声とは裏腹に、辛辣で高速なツッコミを通じた視聴者との掛け合いが特徴的であり、一度観ると癖になる配信となっている。また、配信画面の作り方はVTuber界隈の中でトップクラスに洗練されており、パソコンの画面を意識し、随所にパロディが散りばめられた通常の配信画面はもちろん、扉越しに話しかけている風などといった独特な構図の画面で視聴者を驚かせている。
また、2023年に発表した楽曲「粛聖!! ロリ神レクイエム☆ / しぐれうい(9さい)」は、国内外でミームとしてバズり、YouTubeにて1億回再生とVTuber界隈の中で前代未聞のヒットとなった。
そんな、彼女は今年VTuber活動5周年を迎え、様々なイベントやグッズ販売を行っているのだが、そのひとつが「雨を手繰る」であった。イラストレーターとして、そしてVTuberとしての想いがつまったであろう個展に足を運んできたのでレポートを書いていく。
■物質的な手触りを手繰る
中へ入ると、SHIGURE UI 5th Anniversary Live “masterpiece”のイラストが具現化した特大の彫刻がお出迎えしてくれる。我々が、VTuberの配信を観るとき、アニメ鑑賞とは違った感触を受けるだろう。アニメ的フィクションさはあれども、実際には配信者がインタラクティブに我々視聴者の言葉を拾いながら、まるで知り合いと話しているかのような親密な距離感が生まれる。2次元から、物質的な3次元へと飛び出してきそうな奇妙な感触を抱く。これは一般的なYouTube動画を観る時の体験とも異なる。
そこに生まれる多層的な交わりが、このイラストの具現化によって強調される。まるで、a-ha"Take on Me"のMVでのできごとが、まさに我々の眼の前にあるような空間となっている。
これより、先は実際に訪れて体験してほしいので、写真なしで書いていく。奥へと、進むと彼女の得意とする女子高生や、大空スバルさんなどといった彼女の生み出した方々の肖像画が並ぶ。ただ、ここであることに気づく。どの作品も立体的なのである。近づいてみると、層が分かれており、各層に異なった演出が施されているのである。
たとえば、傘を差している女子高生の肖像に着目すると、傘のビニールの質感、そこに滴る雨粒の質感、そして女子高生、それぞれに異なった素材や技法が用いられているのである。
奥へ行くと、ダミアン・ハースト「生者の心における死の物理的不可能性」を彷彿とさせる、区切りのある直方体と遭遇する。一定間隔でアクリル板が貼っており、そこに背景や、イラストを配置することで、正面から見ると立体的に見えるギミックとなっている。
個展とは、アーティストがコンセプトを立てて展示するもの。ここで、しぐれういさんのコンセプトがくっきりと浮かび上がってきた。それは「イラストレーター、VTuberとしての本質」である。どちらも共通して、様々なレイヤーを積み重ねることで作品や配信画面、文脈を編み込んでいく活動である。物理的イベントである「雨を手繰る」では、非イラストレーター、非VTuberの方にも伝わるように「多層」を強調した展示となっており、ほとんどの作品が、物理的に層を積み重ね立体的に見えるようになっているのだ。
よく、美術館へ行くと、油絵における色の積み重ねによって生まれる隆起などといった躍動感に圧倒され、書籍やインターネットで観るとは決定的に異なる体験がある。PCを使ったイラストレーターの場合、この差を生みにくいイメージがあったのだが、このような演出工夫ができるのかと驚かされたのであった。
ちなみに、しぐれういさんの多層的演出は「雨を手繰る」以外にも確認できる。2ndアルバム「fiction」の初回限定盤を開けると、2枚のシートが付属しており、しぐれいうい/タイトル/水たまり/地面からパッケージが構成されていることを意識させられる仕様となっている。このアルバムについては、別の機会に書くかもしれない。
■イベント情報
・イベント名:しぐれうい個展「雨を手繰る」
・会期:2024年8月30日(金)~9月22日(日)
・場所:ヒルズ カフェ/スペース(六本木ヒルズ)
・入場料:無料
・公式ページ:https://5th.uishigure.com/amewotaguru/