SHIGURE UI 5th Anniversary Live “masterpiece”(配信)レビュー

2024/10/2(水)パシフィコ横浜 国立大ホールにてイラストレーターでもありVTuberでもあるしぐれういさんのソロライブSHIGURE UI 5th Anniversary Live “masterpiece”が開催された。

VTuber活動5周年を飾る大きな企画。個人勢にもかかわらず5,000席近いチケットは完売し、TLでは落選を悲しむ声が挙がるほどの大盛況であった。私は、最近新しい会社に転職したばかりで有休が使えず別の意味で悲しんでいたのであったのだが、ありがたいことにSPWNでの配信チケットも発売されていたので後追いで鑑賞した。

「VTuberしぐれうい」を観ていると、本業イラストレーターであることを思わず忘れてしまう瞬間があるのだが、本公演は時折「つよつよイラストレーター」であることを思い出させてくれ、ヴァーチャルとしてのギミックの面白さはもちろん、リアルイベントならではの面白さが詰まった内容であった。

今回は軽くレビューをしていく。

※以下ネタバレあり

「楽しいね、ね、ね、ね、ね、ね?これから錯覚しようよ」

これは『ハッピーヒプノシズム』の冒頭である。「私は俯瞰しできるからできないことをやっていないの」といいつつも、楽しいことをひたすら追い求めていくなかで高みに到達し、そんな彼女の別領域を錯覚してしまう。そんな「VTuberしぐれうい」を象徴するフレーズが流れ、“masterpiece”の世界へと誘う。

しぐれういさんの古参オタクから最近ハマった人までここパシフィコ横浜へ集まる者を祝福するように前半ではキャッチーな楽曲でウォーミングアップを行う。だから、2曲目は『トウキョウ・シャンディ・ランデヴ』のカバーであり、2曲目はショート動画で舞元啓介さん迫真の生声つきコール&レスポンス動画にて予習資料を出していた『うい麦畑でつかまえて』と繋げていく。

事前の配信では、しぐれうい(9さい)は出さない的なことをいっていたような気がしたが、ファンの期待に応え『粛聖!! ロリ神レクイエム☆』が披露される。牢屋の背景には我々客席が映し出され、リアルライブとしての観客とのじゃれ合いが強調されたものとなっている。

ここまでは想定内だったのだが、その次の楽曲が始まると度肝を抜かれた。暗がりから、再びしぐれうい(9さい)のシルエットが映し出される。王国のような場所、玉座に座りながら

「愛のネタバレ『別れっぽいな』人生のネタバレ『死ぬ』っぽいな」

と歌い始めたのだ。

そう、『神っぽいな』である。

しぐれういさんは以前、犬山たまきさんと本楽曲の歌ってみた動画を出したことがある。この時は、シスターを意識したようなお姉さん的質感で歌われていた。今回は、対照的にロリの音質で観客を煽るようなライブ限定の歌い方を披露した。玉座に座っている設定なため、上半身しか動かせないものの、マシュマロノックさながらの手慣れた感じで豊かな表情と細かい身体表象により、改めて《ロリ神》であることを我々に突き付けたのであった。開始30分で高カロリーなセトリとなっているが体力は問題ないのかと思うほどに畳みかけてくる。

VTuberのライブは、生身のライブと比べると自由度が高く、毎回驚かされる。今回も、しぐれうい(9さい)と我々がインタラクティブな会話をしていると思いきや、「しぐれうい」本人が登場する。メタ的技術的な話にはなるのだが、この場面でのしぐれうい(9さい)は録画映像だろう。「しぐれうい」本人の登場により「この1分のやりとりは誰と会話していたんだ?」とゾクゾクさせられる仕組みとなっている(仮に、別人が代理で声や振る舞いをやったら秒でバレるはずだから)。

先日、発売された彼女のアルバム「fiction」は、パッケージデザインも含め「しぐれうい」の多層性が強調されたものとなっている。ライブも同様に、モニターに映っているものもレイヤーが意識されており、『勝手に生きましょ』では背中合わせに映るもう一人の「しぐれうい」とのデュエットたる演出となっている。

併せて、本ライブで興味深かったのは来場者との生対話であろう。中盤に、団扇コンクールが開催される。事前に投稿してもらったオタク団扇を彼女が紹介していくのだが、突然「会場に来ていますか?」と挙手をさせ、本物のパスタを使った団扇を作ってきた方と対談を始めるのである。通常はチャット欄を使って掛け合いをするわけだが、リアルイベントとして観客と直々に話す。これはライブとしての良さが出ているだろう。いきなり話すことになった人の緊迫感は凄そうではあるが。

演出面でいうと、後半はアンコール含めたら3つのパートで分かれている。

最初は、『rainy lady』『太陽少女』『Pris-Magic!』天気をベースとした作品群だ。個展「雨を手繰る」でも観られた傘を持ったしぐれういさんの、「雨=憂鬱」の方程式を覆すアンニュイさとリラクゼーションさのバランスに長けた楽曲を愛娘・大空スバルさんの『太陽少女』で挟むユニークなセットリストとなっている。

これまでは、どちらかというとお茶目さやんちゃさが目立つ楽曲が多かったのだが『限りなく灰色へ』『1000年生きてる』『勝手にいきましょ』では、大人な落ち着いた表現力を発揮する。この3曲は背景演出が秀逸であり、『限りなく灰色へ』が終わり彼女が腰かける場所がキャンバスなのだ。シームレスにいよわ氏ゾーンへと入っていく流れの華麗さには唸らされた。

アンコールでは、彼女の新衣装が発表される。VTuberとして、アイドルとして「しぐれうい」を観ていたわけだが、「私がデザインしました」と言ったとき思い出す。

《つよつよイラストレーター》であったことに。

アイドルマスターが好きだと公言している彼女は、アイマスの世界に寄り添った衣装をデザインし、身にまとい自らがアイドルとなる。楽しい探求者の極地を観た瞬間であった。

彼女は止まることを知らない。来年には音声創作ソフトウェア「VoiSona」から、ヴァーチャルシンガー「雨衣」を生み出すと発表した。YouTubeのチャンネル登録者も200万人まで秒読みである。

凄まじいクリエーターの活動にひたすら圧倒されたのであった。

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CHE BUNBUN
映画ブログ『チェ・ブンブンのティーマ』の管理人です。よろしければサポートよろしくお願いします。謎の映画探しの資金として活用させていただきます。