CHE BUNBUNの #2020年上半期映画ベスト10
おはようございます、チェ・ブンブンです。
あっという間に2020年も半分が過ぎました。2020年代の幕開けとなる今年は、東京五輪が控えている記念年になるはずだったのですが、現実は『AKIRA』や『麻雀放浪記2020』のように東京五輪が開催されない世界軸を爆走することとなりました。今年の初めからイランとアメリカが戦争になる緊迫感が漂い、そして2月から新型コロナウイルスが蔓延し、世界は決定的に変わりました。日本でも緊急事態宣言が発令され、STAY HOMEの名の下に映画館は休業となりました。
なので、今年は劇場公開作品の中で上半期ベストを作るのは不可能となりました。本記事の読者が、私よりも素晴らしい環境でこれらの傑作に出会えることを祈り、CHE BUNBUNの2020年上半期映画ベスト10を発表します。
尚、下線の引いてある作品は詳細レビューへ飛べます。
新作ベスト10
1.アンカット・ダイヤモンド(サフディ兄弟)
2.JEANNE(ブリュノ・デュモン)
3.透明人間(リー・ワネル)
4.Greener Grass(ジョサリン・デボール、 ドーン・ルーブ)
5.Chained for Life(アーロン・シンバーグ)
6.アリスと市長(ニコラ・パリゼ)
7.DAU. Natasha(イリヤ・クルザノフスキー、Jekaterina Oertel)
8.SWALLOW(カーロ・ミラベラ・デイビス)
9.サイコビッチ(マーティン・ルン)
10.Ne croyez surtout pas que je hurle(フランク・ボヴェイ)
今年は歴史が決定的に変わってしまった年である。映画業界は新型コロナウイルスで製作、配給、映画館、映画ライター全滅の危機に瀕した。日本では基金MiniTheaterAIDが発足し、29,926人、331,025,487円の寄付が集まった。しかし、一方で困窮するミニシアターの代弁者としてメディアの最前線に立ってきたアップリンクの浅井隆がパワハラで訴えられる事案が発生。パワハラセクハラが横行していた映画業界に暗雲が立ち込める結果となった。
世界を見渡すと、 #BlackLivesMatter運動 が激しさを増し、黒人差別描写がある『風と共に去りぬ』の配信が一時停止された。
さて、今回の選出は必然とそんな時代を反映した作品が立ち並ぶこととなった。昨年から、社会問題を扱った作品、それを深層批評で安易に褒め称える風潮に疑問を抱いている。
例えば、2016年の『ゴーストバスターズ』から増えてきた、男女を入れ替えたリメイク作品群がある。意識的or無意識的男尊女卑に問題提起し、強い女性像をメインに打ち出したこのリメイク群は作られるべくして作られたジャンルではあるが、それは単純に男女を入れ替えただけなのでは?と思うところがある。それでは差別を裏返しただけなのではないだろうか?
日本に目を向けて観ると、貧困や苦境を扱えば賞が獲れる状態となっている。『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』や『半世界』のように評価が高い作品でも、個人的にはあざとさが見え隠れし、また映画的面白さが欠落している作品だと思った。
そのように考えた際に、1位には『アンカット・ダイヤモンド』を置くべきだった。昨今の映画が、なんでも社会問題にコミットしないといけない状態。それ以外のアート映画は低予算なイメージが付きまとうのだが、このオパールのように魔性の色彩を放つアートエンターテイメントには度肝を抜かれた。アルフレッド・ヒッチコックやハワード・ホークスのように空間を巧みに使い、常時借金取りに追われながら奪われた宝を取り戻す。サフディ兄弟は『グッド・タイム』でも通俗映画でありながら、目線の動きを駆使したユニークなショットの連続で圧倒的存在感を魅せたのだが、それを遥かに超える作品がこの『アンカット・ダイヤモンド』であった。
2位には私の敬愛するブリュノ・デュモンの『JEANNE』を位置付けた。オールタイムベスト映画である『ジャネット、ジャンヌ・ダルクの幼年期』の続編にあたる本作は、出る杭は打たれるがごとく、子どもが大人の矛盾と欺瞞に潰される過程を、神話的に語られがちなジャンヌ・ダルク譚を民話へ落とし込むことで普遍化させた作品だ。本作を観ると、ビリー・アイリッシュやグレタ・トゥーンベリを巡る論争を彷彿させ、今の映画を感じさせる。それでもって、徐にスタンド使いのようにジャンヌの横に透明なおじさんが重なったり、不思議な合戦場面が描かれたりと視覚的に面白い描写で満たされているので、大満足でありました。
3位の『透明人間』(7/10日本公開)はDV問題を透明人間に重ね合わせる問題作。リー・ワネル監督は、這いつくばったら天下一品の演技を魅せるエリザベス・モスのジタバタ演技で手汗握るアクションを描きながらも、DV被害者の理解させない叫びというものを捉えた。社会問題を映画にコミットさせるならここまでエンタメに振り切っていなくてはと思った。2020年代娯楽作品の手本と言えよう。
4位は、お笑い芸人のジョサリン・デボール、 ドーン・ルーブ監督が放つセンスの塊のような作品『Greener Grass』だ。中産階級の本音と建前を風刺した本作は、息子が習い事に嫌気が差し、突然犬になってしまったとしても家族はそれを逆手にマウントの素材としようとする狂気を描いており、ジョン・ウォーターズが昨年のベストテンに挙げなかったことが不思議に思う作品でした。現代人なら、朝起きて虫になっていたとしても、SNSでバズる素材にされてしまう。そんな社会を笑い飛ばした怪作でした。
丁度『エレファント・マン』が、公開40周年を記念して4Kリマスター版が劇場公開される今年にオススメしたいアップグレード版『エレファント・マン』こと『Chained for Life』を5位に配置した。本作は、健常者から観る障がい者に対する無意識な拒絶というものを、演技と現実の境界線の往復でもって描いた作品だ。『グレイテスト・ショーマン』で感じた浅はかな多様性描写に本作を突き刺したいものがある。
6位にはフランスの『アンカット・ダイヤモンド』こと『アリスと市長』を選んだ。リヨンの市庁舎に配属された女性が、出社するや否や、ポストが消滅したことを告げられ、右から左から現れる不条理に対処していくコメディだ。サラリーマンをしていると常に不条理の交通整理に悩まされる。概念ばかりが宙を飛び交い、何も解決しない様は観ていて親近感を覚えた。『アメリカン・ハニー』同様、新入社員に観てほしい作品の1本だ。
7位にはバケモノプロジェクト《DAU》ユニバースの1本『DAU. Natasha』を選んだ。本作はウクライナ・ハルキウに創られた1930~1960年代ソ連を完全再現したセットの中で14本もの作品を作り上げたイリヤ・フルジャノフスキー監督狂気の1作目である。第70回ベルリン国際映画祭では芸術貢献賞を受賞した作品であるが、監督のパワハラ・セクハラ疑惑が問題となった。昨今、監督の人柄と映画の中身は切り離すべきか?という論争が巻き起こっている。ウディ・アレンのように新作『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』が封印されそうになったり、アブデラティフ・ケシシュの『Mektoub, My Love: Intermezzo』が昨年のカンヌ国際映画祭でお披露目後一切公に出ない事態となっている。個人的には、作品の内容と監督の思想は切り離すべきだと考えている。町山智浩のように深層批評と表層批評をバランスよく使い分けるプロならまだしも、我々素人が容易に一色単にまとめると、その刃はいずれ自分に向く、右も左も動けなくなるからだと考えている。『DAU. Natasha』の場合、『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』に近い抑圧の社会を版画のように浮き彫りにさせた2時間半飽きることのない世界が広がっていた。そこを評価した。
8位は、トラウマホラー映画『SWALLOW』。夫の飾り物として存在する妻が、その虚無に耐えきれなくなり、異物を飲み込み始める作品だ。ビー玉や画鋲を飲み込んでいく様子の痛々しさは直視しがたいものがある。抑圧された女性の痛みを映画言語に翻訳した凄まじい傑作である。
9位は、ノルウェーの青春きらきら映画『サイコビッチ』だ。トーキョーノーザンライツフェスティバル2020で上映された本作は、学校の問題児と優等生の関係を描いた作品で、押見修造の『惡の華』を彷彿とさせる修羅場修羅場の釣瓶打ちが面白い作品だ。近年、『最高の人生の見つけ方』を始め、グローカルリメイク企画が増えているのだが、本作は日本でもリメイクできるのではと感じた。
さて最後の10位には、異色ドキュメンタリー『Ne croyez surtout pas que je hurle』を選出した。映画監督のフランク・ボヴェイが人生の停滞を、400本の映画のフッテージとナレーションを用いて語る私的作品だ。これはコロナ禍で家に引きこもり、刺激のない生活を強いられた我々に刺さる作品だ。鬱状態に陥り、大好きであった映画であっても消費すらできない状態を赤裸々に語り、不器用なフッテージの結合を通じて無意識下にある恐怖を投影させた本作は、退屈、駄作と貶すのは簡単だが、映画監督が撮りがちな自分の映画史映画の中で最も退屈な引用を捉えた重要作だと言える。それこそ、『失われた時を求めて』で、他人の人生を生きていると思っている「私」が使命を見出し、小説を書く瞬間を捉えたような作品でした。
旧作ベスト10(おまけ)
1.Electra, My Love(1974,ヤンチョー・ミクローシュ)
2.イグジステンズ(1999,デヴィッド・クローネンバーグ)
3.OLD JOY(2006,ケリー・ライヒャルト)
4.4:44 地球最期の日(2011,アベル・フェラーラ)
5.KETEKE(2017,Peter Sedufia)
6.ファイナル・カット(2012,パールフィ・ジョルジュ)
7.花に嵐(2015,岩切一空)
8.ロック・ハンターはそれを我慢できるか?(1957,フランク・タシュリン)
9.心と体と(2017,イルディコー・エニェディ)
10.THE GRAND BIZARRE(2018,ジョディ・マック)
旧作評は割愛します。年間ベストの時にじっくりお話しします。
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