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ピーナッツバタークリーム

「これ、是非食べてくださいね」
今日も誰かが、余りもののパンを誰かに宛てがう。まるで嫌な仕事をたらい回しにする時のように。はっきりNOと言えない私は、デスク間のアクセスも相まって格好の餌食。甘い菓子パンはその日のうちに無くなる癖に、米粉のパンや横切りの無味の昼食に出されるパンは子供向けのため、最低限の添加物で構成されたそれは傷みがとても早い。私と来たら、変に断ることも出来ずにパンを貰い続けた結果、あっという間に手元のパンが5つになった。タダより安いものはないし、朝食に米飯が喉を通らない自身の特性から決して迷惑とも言いきれない産物ではあるのだが、巡り巡ってこちらに回ってくるプロセスがあまりにも露骨。捨てるにも心が痛む、かといって有り余ってて食べないし?じゃあ人にあげればいいという腹の内が見えすぎて嫌になることがある。
一昨日は二学期初めの中間テストだった。週後半に雪崩込んだ爆弾低気圧が原因で明朝から体調が優れず、偏頭痛とそれを相殺する為の本能的な眠気が全身を襲う。早くに眠りにつきたくとも中途覚醒を余儀なくされた身体はボロボロの状態で、この頃は人の面倒を見られるような体調から徐々に遠のいている。先輩からの言伝をそのまま上に上げると、上司からチクチク注意を受けるのはどことなく不合理な気がする。面倒な仕事を押し付けられることと、何気なくパンを貰うこと。
かのアイザック・ニュートンが林檎の落果から万有引力の法則を導き出した話があるが、それほど大それたことではないにせよ日々の小さなことから、背後にあるものに気を向けてしまって必要以上に疲れてしまうのだ。

何事も仕方がない、で済ませている。ファスナーの締まらない通勤用バッグから、5つのパンが顔を出す。小雨を避けて少し張り出した校舎の下を駆ける瞬間が、この頃の楽しみだ。
近所のスーパーでピーナッツバターを買った翌日から、貰うパンの個数に伴ってかさを減らす。仕事の為に目を覚ましたというのに生憎の曇天雨天、冷蔵庫のパンにピーナッツバターを塗る。パンは温かい状態で、ピーナッツバターは冷たいままで、柔らかい生地と歯ごたえの残るバターのコントラストが丁度いい。

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