田中一村

その存在を知ったのは図書館のリサイクル本だった。ルソーのような絵だと思った。暫くして、彼のNHK日曜美術館の再放送を偶然見た。晩年52歳で奄美大島に移り住み、貧困の中、69歳で孤独死する。生涯独身。将来を嘱望されながら、その性格故に、人生の坂を転がり落ちるように島に流れ着いた。とことん写実にこだわった精密な描写。絵から奄美の多湿な森の匂いが漂ってくる。森の向こうに見える岩や一羽の鳥は、島で超然と暮らす自身の姿のメタファーようだ。貧困の中にありながら、毎夜どんな思いで床についていたのだろう?誰にも真似できない絵を描くその執念が生きる糧だったのか?カビ臭いあばら家に移り住んだ直後、一人そっとこの世を去っていった。

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