NZアースソング ロビン・アリソンさん来日報告(2)<藤野来訪記+ミニ講演会>
ロビン・アリソンさん来日講演報告(1)では東京講演の様子をお伝えいたしましたが、引き続きEarthsong Eco-Neighbourhoodの立案者であり居住者でもある建築家のロビン・アリソンさん来日の際の様子をお伝えしたいと思います。今回は神奈川県北端の町・藤野からの報告です。
6月15日に東京で開催した講演会では夜遅くまで懇親会もあり、ロビンさんも通訳の神谷ユキさんもとてもお疲れなのでは、、、と心配していましたが、翌日は元気な様子で藤野にいらしてくださいました。
藤野はご存知の方も多いと思うのですが、東京都心から1時間半ほどのところにある山間の町で、日本初のトランジションタウンとして知られています。人口は約8000人、若い世代の移住組や芸術家も多く、ユニークで楽しい活動、イベントが盛りだくさんの地域です。
今回ロビンさんと神谷さんに来ていただいたのは、アースソングのミニ講演会(東京講演のショートバージョン)を開催し、藤野の皆さんにコウハウジングについて知っていただきたいという思いももちろんあったのですが、この魅力的な藤野のコミュニティーをロビンさんにぜひご紹介したいという思いもありました。そんなわけで今回短い時間にもかかわらず欲張って藤野にまつわるお話を聞くためにロビンさん、神谷さんとともに色々な場所や人を訪ねました。
最初の訪問先は「藤野電力」。早速藤野電力のT氏から、簡単な藤野の町の歴史、3.11後に藤野トランジションタウンの活動に参加していたメンバーたちが中心となって「自分達の電力は自分達でつくろう!」という掛け声のもと、藤野電力がスタートしたというあらましなどを聞きながら、芸術家などの作業場にもなっている建物(そこに藤野電力の事務所があります)を案内していただきました。
その日は月に一度開催している「ミニ太陽光発電システム」組み立てワークショップの日でもありました。小さな会場では5,6名の参加者の方が熱心に、太陽光パネルやバッテリーを配線で繋ぐ作業をされてました。ロビンさんは特にタイヤ付きの移動型ミニ太陽光発電システムが気に入ったようで、「このワークショップをアースソングでできないだろうか」と熱心にお話を聞いたり質問をされていました。
その後建築家の山田貴宏さんが、アースソングにインスパイアされて設計された「里山長屋」に移動。そこではトランジションタウン藤野の立ち上げ時からかかわっているお二人の方からこれまでのトランジションの活動とその広がりや地域通貨「萬」についてお話を伺いました。
地域通貨に関してはロビンさんも以前トライしたことがあったそうなのですが、自分の持つ技術やモノを提供できる人と提供できない人の間の溝が埋まらずうまく機能しなかったとのこと。通帳型の「萬」ではマイナスを「債務」と考えず、むしろマイナスの多い人ほど「萬」に貢献していると喜ばれるというお話をすると少し驚いた様子でした。あくまでも「萬」は人と人がつながるためのツールであり、「貨幣」としての役割に重きを置いてはいないところが長く続いている要因なのかもしれません。
お話の後は、山田さんに「里山長屋」もご案内いただき、地域の資源や昔ながらの技術を生かした建築技法、エコに配慮したパーマカルチャー的なデザイン・設計について説明を伺いました。ロビンさんは建築家ですので、建物に関してはやはり興味津々のご様子でした。
ミニ講演会の前には、山間にある小さな在宅緩和ケアクリニックを訪ねました。小高い場所にあるクリニックのお部屋の前には先生が患者さんにプレゼントするためにお花を作っている庭があり、窓の遠く向こうには藤野の美しい風景が見渡せます。一見クリニックとは思えない素敵な空間です。
こちらの先生は病気になってもこの藤野で最期を迎えたいという方のために、一人一人にあった緩和ケアを目指し、看護師さん、地域の人や施設、事業所と連携しながら医療活動を行っていらっしゃいます。ニュージーランドでは自宅で亡くなるという選択肢や医師の自宅訪問などはほぼないということで、日本とニュージーランドの医療体制の違いなどにも話が及びました。
死に向かう患者さんをどのように受け止め、ご本人や家族に寄り添っているのか、また先生とロビンさんそれぞれの死生観についても意見交換したりと、なかなか哲学的なテーマでのお話もあり、横で聞いている私自身も深く考えさせられました。
翌日は先生にご紹介いただいた「宅老所すずかけの家」も訪問できました。ここは、歳をとっても住み慣れた自宅や地域で暮らしたい、自分らしく老後の時間を過ごしたいという方のために、「通い」「訪問」「泊まり」の三つのサービスを組み合わせた介護サービスを提供する「小規模多機能型居宅介護事業所」です。施設として使われている建物は100年以上前に建てられた古民家で、スタッフと利用者の皆さんの明るい笑い声が響く、とても温もりのある介護施設です。
「すずかけの家」では近隣保育園の子どもたちと交流をしたり、コミュニティーガーデンやイベントなども主催していて、地域の人たちにも開かれた場所になっています。アースソングでは高齢になり自立的な生活が困難になった方は高齢者施設に移られることがほとんどなのだそうです。ロビンさん自身はできる限りアースソングに暮らしたいと考えているそうなので、「すずかけの家」や在宅緩和ケアクリニックの存在に何かヒントになるものを感じられたかもしれません。
長くなりましたが、最後に16日の夕方に行われたロビンさんのミニ講演会についても少しお伝えしたいと思います。当初はこの藤野でどのぐらいの皆さんがコウハウジングに興味を持ってくださるか未知数で、主催者の一人としては期待よりも不安が大きかったのですが、蓋を開けてみると、東京や長野など遠方からもいらしていただき40名以上の方が参加くださいました。
内容に関しては東京講演についての記事で詳しく触れていますので割愛しますが、参加者一人一人がとても熱心にロビンさんのお話に聞き入っていました。これまでコレクティブハウジング(コウハウジング)と言っても、なかなかクリアなイメージを持っていただくのが難しいと感じていましたが、ロビンさんのとても丁寧でわかりやすいアースソングのお話を通して、コウハウジングの運営、互助の仕組み、合意形成の方法など、皆さんにご理解いただけたのではないかと思います。
なかでも合意形成のお話の中で出てきたカラーカードについては講演後多くの人から反応がありました。そこで後日通訳をして下さった、同じくアースソングの住民でもある神谷さんにご相談したところ、早速ワークショップをしてくださるということになり、7月13日にはオンラインワークショップを開催しました。一見簡単なように見えるカラーカードですが、実際に議題を設けてやってみると、どのタイミングでどういう意思表示をするのがいいのか、何色のカラーカードを出すのが適当なのか、、、なかなか慣れないと難しいです!奥深すぎてこの場で語るとまた長くなるので、またカラーカードWSの詳細については別の機会にお伝えできたらと思っています。
ロビンさんは、今回の訪問先でのお話、そしてそれぞれ訪問先や講演会での出逢いにとても感動された様子で、最後は「藤野だったら住んでみたい!」とおっしゃってくださいました。制度や文化、考え方などニュージーランドと日本の違いもあるかとは思いますが、アースソングに通じるコミュニティーのあり方や考え方、人との繋がりなど共通点もたくさんあったように思います。
ロビンさんたちが今回の藤野訪問で出逢った人たちと今後さらに繋がって、アースソングと藤野の間で将来的に新たな動きや交流が生まれたらいいなと心から願っています。最後に、今回の訪問やミニ講演会は、このコミュニティーの繋がりや連携なくしては実現できませんでした。またロビンさんの訪問を機に、自分が住んでいる藤野について学び直すことができたことは私にとって嬉しい「ご褒美」でした。ロビンさんと神谷さん、そして藤野の皆さんに心から感謝したいと思います。(CHC 佐藤友紀)