見出し画像

漫画家かわぐちかいじ氏講演会

9月29日こがねい市民文化祭
講演会:漫画家かわぐちかいじ氏を囲んで

講演会、かわぐちかいじ先生講演内容メモ

・今朝、話すことをまとめた、その紙を持って来た
・難聴気味なので質問を聞き返したら申し訳ない

・漫画家の1日(ルーティーン)
以前は月7本描いていたが、現在は仕事をセーブしている。
5時に起きる→コーヒーを入れて飲む→新聞を読む→散歩を30〜40分する(その間に今日やる仕事を考える)→漫画仕事→夕方にはヘトヘトになる→21時頃眠くなる

・毎日同じこと、漫画を描く作業を続けるのがつらい時もある
現在のウクライナ情勢を見ると、もし戦争になったら?と考える。
毎日同じことが出来ない。毎日同じことをする幸せ。
仕事を続ける上で、毎日同じことを続けることは幸せであると自己暗示する。

・なぜ漫画家になったか
元々絵を描くことが好きだった。
双子の兄弟の存在も大きい。
双子の兄弟は競争相手であり、また感覚がそっくりでもある。
絵を描く、自分が納得する、それだけでなく人と共有したい気持ちがある。
兄弟で絵を描いて見せ合う、兄弟の方が絵が上手いと悔しい、その兄弟に上手いと褒められると嬉しい、絵のコミュニケーションになっていた、だから描き続けられた。
兄弟とは感覚がそっくりなので、言葉に出来ない部分を分かって貰えるのが嬉しい。
これが描くことのエネルギーの根本になった。

・最近尾道に帰った
尾道の風土、地勢、これは海があり市街地が広がり、山がある。
二次元ではなく、三次元的な地形になっている。
だから子供の頃は立体の世界で遊んでいた。
向井島(先生の出身地)から船で尾道に渡る、その動線、(尾道という地形は)俯瞰で見ることが出来る。
ストーリーを作る、キャラクターを動かす時に客観的視点があると作りやすい。
その客観性は尾道にいる時に培われた。

・母方の祖父
母方の祖父は墓を作る人で、絵が好きだった。
おじいさんが目の前で絵を描いてくれた。
筆で描かれた動物が本物に見えた、持ってる筆が魔法の杖に見えた。
(絵を描くという)影響を与えてくれる人がいた。

・漫画、何を描くか
ストーリーを作るポイントとして、自分が面白いと思う感覚を読者に伝えたい。
感覚は十人十色、だけど(自分の持っている感覚を)共有して貰いたい。
漫画は絵の力で読者に伝える、伝わる。

・絵を描いていてつらい時
描いているものを理解している時は、描いているのが楽しい時間。
護衛艦まや ← 分かる、強調したいポイントが分かる、描いていて楽しい。
護衛艦くまの ← 分からない、資料もない、不安で描いているから楽しくない。
歴史作品では、例えば女性の髪型がよく分からない、でも描かないといけない、興味がないものは調べてもよく分からないし描いていても楽しくない。
レオナルド・ダ・ヴィンチは人体に興味があった。
骨格、筋肉、血管、すべて知って描きたかった。
知った上で描きたい。
自分が楽しいと思ったことを共有したい、表現する。
どうして面白いと思ったことが伝わるか、演出する。
どうすれば伝わるか考える。
自分が面白いと分かっている時(対象を知っている時)は、どうすれば伝わるか分かる。
より良い演出が出来る。
分かっているということが大事。
面白いと思っていることを描いている本人が面白いと思っていないとダメ。

テレビ等を見ていて思うこと。
悲しい場面、ただニュースを見ているだけなのに(無関係の人間であるにも関わらず)悲しくて泣いてしまう。
本当に悲しいと思って泣いている、悲しさが伝染する。
共有してもらうために何が一番大事か。
本当に面白いと思っている、悲しいと思っている。
他人の悲しみを借りても伝わらない。
本気で自分が思っていることではないと、登場人物のセリフが浮ついてしまっていることもある。
気をつけて描いているけれど、失敗したこともいっぱいある。

・『アクター』という漫画を描いた
アイドルを描いた。
山口百恵と桜田淳子、同時期に出たアイドル。
山口百恵は歌が上手い、表現が伸びる。
彼女の能力によって作曲家、作詞家が集まってくる。
山口百恵の秘めている能力に色々な才能を引き寄せられる。
人間のリアリティに引き寄せられる。
桜田淳子は伸びなかった。
歌の能力の差。演出すれば何でも伝わるわけではない。
本質が出来を決める。
本質が色々なものを引き寄せていって豊かな表現になる。
演出(小手先)では伝わらない。肝に銘じている。

⭐︎かわぐちかいじ先生、ホワイトボードに絵。
空母いぶきGGの蕪木薫一佐。
髪から描き始めていた!!!
描かれた絵を写真に撮ってもいいかと聞かれ、どうしようと悩み少し絵を直す、写真に撮ってもいいと許可が出る。

10分休憩

・映画、ドラマ、漫画、面白いと思うポイント
登場人物に本当の人生を感じる、リアルだなと思う。
嘘じゃない人生が出てくる物語は面白い。
リアルであるということは本物。
どんなに奇想天外な作品でも人物にリアリティがあると本物に見える。
人物が嘘だと面白くない。
人は「面白い」と言う代わりに「リアルだな」と言う。
『空母いぶき』は連載を始めて5年くらいになる。
その間に世界情勢、ウクライナ情勢も大きく変わった。
『空母いぶき』の世界を作る時にロシア、北海の情勢を描こうと思った。
2月26日にロシアがウクライナに侵攻して本当に戦争になった。
描きづらくなった。
『空母いぶき』は架空のお話だから本当に人が死ぬわけではない。
でもウクライナでは本当に人が死んでいる。
物語は現実に左右される。
描くのをやめようか悩んだ。
しかし、現実を超えたフィクションを描いて読者に伝える。
本当に描きたいことはこれだと、読者に伝える。
終わりまで描き続けたい。
最後まで見届けてほしい。

○質問コーナー

・リアリティのある作品
本当であるかどうか、人物が切実であるかどうか。
真剣に考えているか。
こういう場面の時にこの人物がどう動くか、その動きの切実さ。

・作品を通じて訴えたいテーマ
自分が面白がっていることを伝えたい。
『沈黙の艦隊』は日本が持っていない原子力潜水艦を持ち、海江田艦長が“大和”と名付けて国家として独立する。『沈黙の艦隊』はSF作品、当時はソ連が崩壊し、将来的に日本も原子力潜水艦のような武力を持つ必要があるのではないかと議論されていた。
日本はアメリカの核の傘の中にいる、それが非常にストレスだった。
(作品の中で)日本は“大和”と同盟を結び、国連に大和を預けるとした。それは、国連の平和維持軍の中に核の武力を持つということ。そうなると、日本は核の傘の中から抜け出せる。アメリカ大統領ベネットも“大和”に動かされる。
日本は被爆国、核兵器をどうにかしたい、そういう思いで作った作品。
部屋の本棚に置いてあったので読んでみたが、自分で読んでも面白い作品。
日本を核の傘から抜け出させることに成功する、そういう作品は他に無い。
海江田艦長の設定を超える人物、現実の政治家にもまだいない。
だからまだ作品が生きている。

・壮大なストーリーの中の魅力的なキャラクターたち、モデルはいるか
身近にいる人は良いところも悪いところも知っている。
悪いところとか、本気で描いてやろうと思う。
『沈黙の艦隊』を描いていた当時の雑誌モーニングに名物編集長というのがいた。大好きな人物。
編集の頭の上で(編集を飛ばして)編集長が直接原稿に口を出す。
普通はやらない、編集としては面白くなかったと思うが、楽しかった。
『沈黙の艦隊』をすごく好きでいてくれた編集長だった。
その編集長をモデルにした部分がある。
自分がのめり込むくらい好きな人をモデルにする。
芸能人とかプロのスポーツ選手に(思いを)託す人は多い。

司馬遼太郎はノモンハン(ノモンハン事件)で昭和を書こうと資料を集めた。
明治・大正と書いたので昭和も書こうとした。
しかし書けなかった。
思いを託せる人物が一人もいなかった。
明治なら例えば坂本龍馬、自分の思いを託せる人間がいる。
ノモンハンでは自分が良いと思う人間がいなかった。
小説の主人公になれる、自分がいいなと思う人がいなかった。
身近に(思いを)託せる人がいたほうが描ける。

・『沈黙の艦隊』『空母いぶき』は軍人ドキュメンタリーであるのに対して、『ジパング』がヒューマンドラマな理由
自衛隊をモデルにしているフィクション作品。
『空母いぶき』は現実感に近いものを描く。
『沈黙の艦隊』は核兵器。
『ジパング』はこの時代のことを描いてみたいと思った。
父は海軍の船に乗っていた、父から戦時中の話を聞いていた。
いつか描きたいと思っていた。
過去の話として、1930−40年代の話として描く。
(描くにあたって)歴史的事実を描くより、今の若者が当時をどう見るかというほうが面白いんじゃないかと思った。
タイムスリップという古典的な手法を使った。
今の艦艇や兵器をタイムスリップさせた場合、戦闘の面白さだけになってしまう。
「if」、もし戦ったらどうかというだけの話になったら面白くない。
未来の中にいるみらい乗員、角松や菊池、尾栗たちがどう感じるかを描いた。
ヒューマンドラマと感じたなら伝わったかなと思う。

・主要キャラたちはとても頭がいい
組織と個人。
艦長のような立場のある人、登場人物をどう動かすか。
この人は本物だと感じるキャラを描けたら、他も全部本物に感じる。
嘘に付き合うと全部嘘になる。
(でも上手く描けなくて)本物にするために(良いアイデアが浮かぶのを)ごろんと寝転んで考えていることもある、閃きを待つ。
本物かと問い詰める。とことんまで問い詰める。
ストーリーの流れが出来る。
無能の世界で生きている自分がつらいので(ひたすら)考える。
ストーリーで何を訴えたいか、何を感じ取って貰いたいか。
これが分からないとダメになる。

・『空母いぶき』の終わりかたは他のどんな作品にもない終わりかた、いつ終わりを決めたか
最初から決めていた。
戦闘は終わったけれど、終わっていない。
日本の自衛隊と中国兵は初めは撃ち合うけれど、最後は撃ち合わずに「お疲れさま」と言い合って一旦は幕を閉じる。
最後に引きの場面を入れた、日本と中国が隣地であることが分かる。
地政学上、今後も付き合っていかなければならない。
その時代、その時代で付き合いかたを考えなくてはならない。

⭐︎最後にホールにいた全員でかわぐちかいじ先生と記念撮影
二時間の講演会があっという間でした!
とても楽しい時間でした。
かわぐちかいじ先生、貴重なお話をありがとうございました。