『しゃべるピアノ』
「そこはキューと弾いてな、そんでチャチャってやんねん! ちゃうがな自分、もっとキューっと!」
祖父が買ってくれたピアノに、音声指導付きという機能が搭載されていた。
最初は、品のある、優しそうな女性の声で教えてくれていた。
だけど、小学生の弟がイタズラしていじくったせいで、関西弁のおじさんの声に変わってしまい、元に戻せなくなってしまった。
「ブワァーと弾いてからボワーンやって、シュとやんねんで」
説明が雑なんだよな、この先生。
分かんないって、そんなノリだけで説明されても……。
ただ終了のボタンを押した時に、
「ホンマよう頑張ったやん、またやろなぁ」
と言われた時は、「うん」と自然に言ってしまう。
ピアノの発表会の時、緊張でガッチガチだったのだけれど、椅子に座って指を鍵盤に添えた瞬間に、
ほな、始めようかぁ、
という声が脳内に流れてきて、いつもの練習通りに弾けた。
誰なんだろう、あの関西のおじさん。
すっかり馴染んじゃったよ。