血まみれ小学生 vol.1
森末慎二さんがロス五輪の鉄棒で金メダルを獲りました。
僕が小学生の頃の話です。
30年前の話ですね。
「みんなでオリンピックやろぉぜ!」
馬鹿なクラスメートの提案で昼休みに鉄棒をやる事になった。
「お前、イタリア…お前は西ドイツ……」
リーダー格の奴が一人一人に適当に国籍を決めていた、僕はメキシコ。
メキシコ人っぽい鉄棒を演じなければならなくなったって訳か…。
『鉄棒に登る』→『鉄棒で回転』→『鉄棒から飛び降りる』
この3アクションを競い合う事になった。
審査員は女子。
国籍にちなんだ名物を大声で言って着地するルールも付け足された。
例えば中国人だったら両足を地面に着けたと同時に「ラーメン!」とか言う。
メキシコの名物って何?
当時はWikipediaとかないから、何一つ思い浮かばなかった。
みんな、逆上がりから、前回り、そしてクルンと一回転をして、有名人を言っていた。
当時はキン肉マンが流行っていたのでイギリス人だと「ロビンマスク」とか言っていたのをなんとなく覚えている。
それを見た女子が、7点、8点、6点、8点とかそん時の気分で評価していた。
鉄棒が得意な大倉君は、なんか背中回転する登り方をしていた。
片膝を引っ掛け、何回転もしている。
1回転だけでいいのにグルグルグル。
そして、両足の後ろ(ひかがみって言うらしい)を鉄棒に引っ掛け、両腕を胸の前で組んで鉄棒の上で座っている。
手を組む→俺は鉄棒なのに手を使わないんだぜ!っていう意思表示なんだと思う。
頑固おやじが鉄棒の上にいるイメージを持っていただければ……。
そのまま背中から回転してくるっと一回転し、綺麗に着地しながら「スパゲッティー」って叫んだ。
10点、10点、10点、10点!
満票の演技だったイタリア人の大倉君。
羨望の眼差しと拍手をみんなに貰っていた。
次は僕の番。
頭とお尻がバカでかいので、鉄棒が大の苦手。
逆上がりが出来ないので、ジャンプして腕力だけで鉄棒によじ登り、おざなり程度の1回転。
そこで、しらけている審査員の女子の目が気になった。
やったったろうじゃん、大倉スペシャルを!
のたくそと鉄棒の上にひかがみを乗せて腕を組んだ。
ざわつくギャラリー。
まぁ、勢いに任せて1回転すれば、自然と足から着地するもんだろうと思い、一気呵成に後ろ回転させた。
砂場に頭のてっぺんから落ちました。
うわっこいつ死んだ!と呟いた審査員の女子の顔が、逆さまに見えた。
なまじっか腕を胸に組んでいたため、受け身もとれなかった。
僕はゆっくりと立ち上がり、みんなに言った。
「……痛くない…」
全然、痛くない。だからこれは、こうゆう着地の仕方なんですよ、
という事が言いたかったんだと思う。
斬新でしょう! と。
でも実際の僕の心は、「今すぐ、救急車よんでぇぇぇ!」と思っていた。
「名物は」
審査員の女子に言われた。
「へっ?」
「いや…だから、メキシコの名物…」
サディスティックな目で僕に言ってくる女子。
「あっ………そうか…えーっと、………シチュー……」
しちゅゅうぅ?
審査員たちから、メキシコってシチューだっけか…という疑問の声が…。
雪深いメキシコのやま奥でコトコト煮込んだシチューって有名だろうよ……。
イメージ沸くじゃん。
2点、1点、1点、1点…………。
辛口な採点をする女子たち。
今大会最低得点を獲ってしまった。
頭のてっぺんから落ちる着地の芸術性と(しかもまったく痛くない)、メキシカンシチューを知らない無知な女子たちのせいで。
続く。