エッセイ】 運転講習とみえこさんと豪華弁当
某トラックメーカーの研修センターに来ました。
ギッチギチにパイロンが張り巡らされている構内を、2トントラックでS時と坂道とクランクを何度もハンドルを切り返して走らされました。
さっきまでニコニコしていた好々爺な教官のお爺さんが、ずっと僕を睨んでいる。
ちょっとでもパイロンにトラックが接触すると、けたたましく笛をピリリーと吹かれ、
「伊茶君、ちゃんとこのパイロンが視界に入ってましたかぁ!」
と怒鳴られる。
パイロンなんかプラスチックなんだから当たったって大した事ないのに……。
人の家の壁だと思えってさ。
ほぼ車幅とかわらい隙間を縫うように走らされ、教官に睨みつかれ、どんなにトラックを切り返してもクランクを脱出できないプレッシャーに押しつぶされる。
いっその事、全てのパイロンをなぎ倒し、そのまま公道に飛び出し、ナンバープレートのないこのトラックで海までドライブしてやろうかと思った。
「何が、トン・トン・トン・ヒノの2トンじゃああ!」
と海に向かって叫びたくなった。
※どこの会社の研修センターかのヒントがでましたっ!
あと、この女の子が道の角っこに配置されていた。
みえこちゃんと言う。
スカートを履き忘れた(ワンピースの丈が短かすぎる説もある)そそっかしい女の子が、やたらと道から飛び出してくる。
トラックドライバーからしたらモンスター級に恐ろしい生き物。
まだ、熊とかの方がまし。熊は撥ね殺しても叱られない。
むしろ褒められると思う、良く熊を退治してくれたってさ。
みえこちゃんを跳ねたら世界中を敵にまわすよ、ホント。
家の娘たちには、「ちゃんとスカートを履いて、右、左を見てから、渡りましょう」ときつく言い聞かせようと思った。
運転講習で唯一良かったのは、お昼の弁当が豪華でした。
こんなに多種類のお昼を食べれるのは随分と久しぶりだった。
彩りも素晴らしく、品性を感じるお弁当でした。
1週間前に食べた、会社の防災訓練の時のお弁当と比べたら雲泥の差だった。
白米の上に糊がひき詰められ、ちくわと白身魚の揚げ物があるだけのお弁当。
「これってなんの魚なんだろう……」
何の味もしない魚を口に入れたときに僕がボソッというと、同僚が、
「これはあれやね………ブラックバスやな!!」
と言った。
湖で釣れたブラックバスをイタズラに揚げて食った時のヤツとまったく同じ味と食感らしい。
一気に弁当が食べづらくなった。
「て、事は何かい? 俺らに外来種を食わしてんのかぁぁ、この会社はぁぁ!」
普段のうっぷんも含めて、与えられた弁当に文句を言う、他の同僚。
「犬でも食わないよ、こんな弁当」「ベティグリーチャムをくれってんだ、まったく」「チュールたべたぁ~い」
どんどんと食べづらくなっていく弁当。
でも、本当にブラックバスだったとしたら、そんなに悪くないな……とも思いながら、完食しました。
今、目の前にあるこの豪華なお弁当は、3×3の9マスに仕切られている。
もしかしたら、この一マス分の値段と、あの防災訓練の弁当の値段は同じかもしれない。