[2023/05/16]本日の日記「僕らは好きに選んでいいんだ」
読了。ということでネタバレ回です。
桐谷遥が強くなれたな、と思った。
何を言っているのか?と言われるとめちゃくちゃ難しい話でもあるんだけど、遥さん、かなりアイドル以外のことはドライな印象があったんですよ。割とずっと。
遥自身、本人が「希望を届けるアイドル」を掲げている以上、相手個人をぞんざいに扱うことなんて絶対にしない、まさに「絵に描いたようなアイドル」そのもので、そこに理由がない。
しかも非常にストイックで、周囲にそのストイックさを求めるでもなく、ただ己の課題にいつでも向き合っている強い奴。
それが桐谷遥に抱いていた強さのイメージだった。
だがそれは、あくまで「アイドル」だった場合の話。
かつて雫が不安視していたこともあるが、その努力への姿勢は人から見ればやり過ぎの域に近く、逆にアイドルが関係なくなったメインストーリー序盤では、その熱意を向ける場所もなくただ鬱屈と日々を真面目過ぎるほどに生きてきたような危うさも覗かせる性質がある。
こいつがアイドル関係なく心置きなくはしゃげる場所ってちゃんとあるんだろうか?とどうしても思ってしまうのだ。ペンギン好きとかそこら辺とは関係なく、気軽に友人と遊んでないと危う過ぎる。
遥のアイドル外での交流を見ると、なんとも不思議なことか。宮女同学年のメンバーと、杏しかいない。
宮女メンバーの交流も、ちゃんとした交流があるのはMORE MORE JUMP!のメンバー(アイドルとしての交流)と、クラスメイトの一歌と咲希くらい。
杏も心置きなく言葉を交わせる友人同士だが、どちらかといえば高め合うライバルの関係に近い。
躊躇いなくアイドルが関係ない『桐谷遥』自身の弱さを曝け出せる場所、あるのか?
そんなことをずっと考えていた。
それで、前回のイベントで遥は「もっとたくさんの人に希望を届ける」ために、普通科から単位制クラスへ移動することを選んだ。
このまま単位制に戻れば、遥は自分の弱さをますます押し殺し、いずれメインストーリー冒頭と同じように、どこかで壊れかねないのではないか?と思った。率直に。
なぜか、それは「アイドルとしてしか生きられない」課題は、ずっと未解決のままだったからだ。
結局メインストーリーでも、これまでのイベントでも、「桐谷遥はアイドルである」、という点のみが強調されている。
芸能界にいる期間の長さからメンターの立場にいることも多く、誰かを頼ることはあっても誰かに甘えてくることはなかった。
言うなれば、桐谷遥は「アイドル」という一本槍で走り続けている、アイドルマシーンになりかけている。これはASRUN時代からずっとそうだ。
ただし、この「アイドルである」という一本槍が貫けるなら、遥は一度アイドルを辞めていない。
この一本槍を貫けるほど強くないのだ。桐谷遥のメンタルは。
今でこそみのりや仲間の支えでなんとか立ち上がっているが、またいつその槍が折れてもおかしくない。
そんな時、ASRUNにその槍を治せなかったように、MORE MORE JUMP!の仲間たちではその槍を治せないかもしれない。
だから、自分が弱さを曝け出しても問題のない、MORE MORE JUMP!以外の居場所が必要だと思っていた。
それが、普通科という環境であり、一歌たちクラスメイトだった。
それを捨てて、こいつはそのまま歩いていけるのか?
そんな不安を抱えていた。
そんなことを考えていたのが自分(プレイヤー)だけだと思っていた自分の浅はかさを恥じている。
そんなの、当の本人が気にしていないはずはなかった。
遥からしても普通科で得た日々は特別なものであり、できることなら失いたくないかけがえのないものであった。
全然、等身大の人間でいたい気持ちは持っているものだ。
心の底からよかったと思う。安心だ。一歌も咲希もいるんだから。
そして驚いたところが、一歌の「どうってことない」という言葉。
いくつかの別れを乗り越えた一歌らしくもあり、出会った全てがかけがえのないものだとしている一歌らしい。
なんというか、強いな。一歌は。
もちろん、一歌も咲希もこの後遥が単位制に行くことは知らないけど、それでも関係なく、そもそも友達に距離は関係ないことを説いていくという構図は、ほんのり遥が気にしていた「自分も周囲との距離を感じるようになってしまうのか」と言う不安を杞憂にした。
Leo/needの物語は一度断たれた絆をもう一度繋ぎ直したところから始まっているので、経験に裏打ちされた言葉なのが素晴らしい。
ギクシャクした関係って悪意がきっかけでなければ大体なんとかできるし、本当に離れて終わりになってしまう関係なら繋ぎ止めればいい。
一歌は2度の離別の危機を経て、ちゃんと人間関係について考えるようになっていた。
何よりも一歌はいい奴だ。遥に限らず、目の前で誰かが苦しんでいる素振りを見せたら一緒に戦ってくれるし、虚勢を張ってでも守り抜こうとする。
結果的に遥がファンサービスをする形で回避したバレ問題も、一歌はすぐに動いていた。
守ろうとしたんだ。『遠足中の高校1年生・桐谷遥』を。
その後も水上バスに無理矢理連れ出す形で、遥のことを守る選択をとり続けている。
過去イベント「Live with memories」でも、怪しい勧誘から花乃ちゃんを守るべく真っ先に飛び出して行った経験があるし、そういうみんなのために真っ先に行動する姿勢は、幼馴染でもクラスメイトでも関係ないんだ。すごい行動力だなと改めて思う。
そしてその行動力に救われていたことも、遥は気がついていた。
実際、遥が後に「中途半端だった」と自省しているように、ショッピングモールでの遥の行動は結果的に間違いを生んだ。
『遠足中の高校1年生・桐谷遥』として行動していたはずなのに、気づいた子供に『アイドル・桐谷遥』として接してしまったが故に、より人を集めてしまい、『アイドル・桐谷遥』から逃げられない状況を作ってしまう。
そしてそれを察した一歌たちは、ショッピングモールで変装グッズを探すという行動をとった。
遥からしたら、『本来しなくていいこと』を一歌たちにさせてしまった。その後の水上バスの件も、そこに繋がってくる。
自分のせいで迷惑をかけた上に、これから自分は意図せず一歌たちを突き放すことになってしまう(単位制に行く=今まで通り関われない)かもしれないなんて不安を抱えるの、あまりにもいい子すぎるけど。
一歌はその不安を、「どうってことない」の一言で一蹴した。
一歌たちからすれば、別に迷惑がかかったとは思っていない。遥が有名かつファンサービスを欠かさない人間だということはわかりきっているし、変装グッズを探していたのも遥が楽しめるように工夫したに過ぎない。
別にアイドルだからそうしたわけではなく、『桐谷遥』のために何かしたいと思うことは、絶対に間違っていない。
もしこれが今生の別れの前だったらそれはまあ残念かもしれないが、だからといってこの班の団結が崩れたわけではない。
ちょっとの失敗くらいで台無しになる関係じゃないし、そんなの気にすることじゃないよ、というメッセージ性が「どうってことない」に詰まっている。
そんな素敵な関係を、桐谷遥は既に築けていた。
最後に「みんなで勝手に修学旅行行っちゃおうよ」と咲希が言い出したのも、実現するかはさておき、「そもそも遥が単位制に行くなどは関係なく、この5人はバラバラになるかもしれない」、「でも今日の思い出は特別なものだから、この5人でもっと思い出を作りたい」という「次につながる言葉」だ。
遥の考えていたことは、一人だったからこそ思ったことだったのだ。
前回のイベントで愛莉が抱えていた葛藤は、失ってしまったという過去への後悔だ。
愛莉はそもそも、アイドルとは関係なく接してくれる、学校も違う友人(絵名)がいるので、存外自分のアイドルとしての活動が友人に迷惑をかけるとは今なら思っていないはず。
しかし、あゆみとの過去は消せないからこそ、「そういうこともあり得るから慎重に考えろ」というメッセージを送った。
これは、そもそも最初から一人ではなかったから起きた問題でもあった。
遥はどうだろうか。
ストーリー開始時点で、杏以外でアイドル関係なしに見てくれる人間なんてほとんどいない。みのりですら、盲目的にアイドルの遥を求めたくらいだ。
故に、関係ない時の自分をうまくイメージしきれていない以上、アイドルとしてではなく、個人としての「これから先」はなかなか想像が及ばない…というのが今の遥だ。
そんな「これから」を気づかせてくれた一歌たちとの関係を特別なものだと認識できた以上、遥はまだまだ、アイドルとして、1人の少女として折れることはまだしばらくはないだろう。
今までとも少し違う、「大切な気持ち」を手に入れたのだから。