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三島由紀夫恋人福島次郎『剣と寒紅』ネタバレ感想レビュー



ーーーーこの話はゲイがテーマでもなく、リョナやショタの是非でもなく、自分の劣等感をどうのりこえるかって話なのかもしれないーーー



1 ヘンタイにして至高の貴公子三島!


よくよく福島次郎を読んでみたけど
。。。。

やっぱり!私は!三島由紀夫の方が好きだ!

三島由紀夫には確かに何から何まで芝居がかった点はあるけど、

特にゲイを隠して女と偽装結婚した件は女性として背筋に冷や汗出るくらい本当にイヤなんだけど、

あと、切腹リョナ趣味高じて男女の切腹恋愛小説書き&映画撮り、さらに飽き足らず偽名でゲイ切腹エロ小説を書き、それでいて右翼闘士としてけっこう説得力のある右翼思想を掲げて自衛隊の施設を占拠して若い男と本当に切腹心中G殺するとか

なんだよそれその3つを全部実行した実行力がいくらなんでも味わい深すぎだろ!とか

あと福島次郎との久々の再開の時に九州にやってきた際の三島ファッション、い革靴にパンツ、そして上半身はスケスケ網タイツ素材の半袖に胸毛ぼうぼうムキムキの肉体を包んでいたらしいが、もしデートでそんな人に出てこられたらどうしようとか(ウホッ…解ったよ、もし三島様と一緒に歩ける僥倖を賜れるのならそれでもいいわ…その三島様と…歩くわ…街を…とか…)

とにもかくにも色々とハチャメチャなんだけど、

その行為の善悪はともかく、

熱意と根性で、現実の方をムリヤリひっくり返したるぜ!という三島のその凛々しい心意気がダイナミックで、でも可憐で、心から清々しい。

やっぱりねえ、出自だけじゃない、中身が、生きざまが本物の貴公子ですよ三島は!いやまあイカレてますよ!でもなんというか、世俗の細々した私利私欲を超越して『素晴らしきもの』になろうとしたその心意気…

気品がありますよ!もう神々しさすらありますよ!
いやまぁ割と困った人だけど…でも…とにかく突き抜けてて素敵じゃないですか!

三島って、なんかもうこの人、太陽に届こうと蝋で作った翼を作って太陽に近づいたけど太陽の熱で翼が溶けて墜落して4んだイカロスじゃない!それやると4ぬけど!そして実際無茶して4んだんけど!

愚かしさも含めて、やっぱり三島は格好いいよ!

2 こじれにこじれたラブレター


反対に福島…

なんというか、書いてあるひとつひとつの事実には嘘ではなさそうなのは、感じる。

三島のゲイカミングアウト小説『仮面の告白』『禁色』に心底感動していた福島にとって、数年足らずで三島がそれを覆しゲイを隠蔽して、偽装結婚までしていったことに対し、ゲイとして強く失望し立腹しているのも解る。

だが、振った側のくせに…付き合ってた頃は三島に定期的におこづかいまで貰って置いて…

あまりにも三島を恨みすぎなのがどうも『不自然』なのだ。

三島と寝た事実や三島がゲイであった事実を書くのはいいのだ。

ゲイは恥ずかしいモノじゃない!隠すな!晒せよ三島!って福島のその気持ち、そして、どうだ三島みたいな凄い小説家もゲイだったんだぞ!ってのはマイノリティとして世界に叫びたい知らしめたいその気持ちもすごく解る。

あと三島文学を理解する上での一級資料を提示するという意味とかあるしね。

実際私も福島のおかげで霧が晴れたように三島の面白さがすんなり理解できるようになったんですよ!

3 キモさを強調する必要ある?

だが。

だが!

福島があのようにしつこく繰り返し、たとえばベッドでの三島を福島の身体に這い上がってくる気味の悪い蜘蛛にまで例えて、生理的に不快な相手だったことをやたら強調するのが、どーしてもよくわからん!

そんなこと書いてもゲイの地位が上がるわけでもないんだし…。

自分は三島には全く興奮しなかった、一度たりとも勃○しなかった、とまでネチネチと強調して書いているのを見るとむしろすご---く不自然なものを感じるのである。

しかもこれだけ暴露しておきがながら、『亡き三島さんに、今はすべてを許していただきたい心境なのである』(『剣と寒紅』P382本の最後の言葉)とか書いている様子が、

まるで自分側が三島に凄い酷い事された被害者で、だけど、三島を許してあげますよフフ、とでも言いたげな態度なのである。

そして、本を読んでも読んでもそんなディスりを三島に許してもらえると信じてるその被害者面してる根拠、がイマイチ解らなかったんだよね…

『振った側』『貢がれた側』の福島がなんでここまで三島のベットでのキモさをディスる?

しかもそれだけキモがってるくせに、別れて十数年後に三島が九州に行ったときに再び福島はのこのこホテルについて行って三島に再び身体を許しちゃうんですよ!

まあ(ひょっとして自分の小説の出版社を紹介してくれるかも…)ってエサにつられてる要素もあるんだけどそこには文書どころか口約束もなく、別に三島は明確にそれを餌に福島を騙したってほどでもないんですよ!

福島、馬鹿なのか・・・?それとも・・・キモいとディスりつつも本当はHしたかったのか・・・?

ひとつひとつの具体的事実には嘘はないにせよ、なんだかまるで『振られた側』がヒステリーで相手をディスってるくさいんですよね。

4 ゲイを隠すってそんな悪い事?

そもそも『三島が途中から自分のゲイ性癖を隠蔽したこと』だってさ、別になんも悪い事ではないと思うんですよ。

別にノンケだって、世間や会社には性的なことなんかカミングアウトしないでしょ。

だから三島が途中でゲイであることを隠し始めたとしても、それは三島の個人的な事情であり

(いやまあ奥さんだけは気の毒だがそれは三島が奥さんに結婚前に自分の性癖をどれだけ説明したのか?奥さんは三島に惚れての結婚とはいえ、女よりも男に、つまり自分とは別の相手の方に常に性的に惹かれ続ける男の元に嫁いでしまう事を本当に納得していたのか?みたいな『三島と奥さん間』の『結婚と性の問題』であって本質的にはゲイとは関係ない)

ゲイであることを隠すことに何の問題があるだろうか?いやない!それはただの現代社会で生きるための生活の知恵であって、それは卑怯なことでもないし、ゲイ同胞への裏切りでもなんでもない。

まあ堂々とカミングアウトしてゲイについて書くのは格好いいですし同じゲイにとって励みと参考にはなるので、三島みたいな有名人が途中からノンケぶり始めたのが福島的にとってメッチャ残念なのは解りますが、

性的少数派のゲイであることを恥じずに誇り高く生きることと、生活の知恵としてゲイを公表しないことは、十分両立しますよ。(世間の無理解と無駄に戦う必要もないし、性生活は原則公開しなくていいプライバシーだと思う)

5 何が不満だったか

で…くり返し読み返して…そしたら…やっとわかってきたけど。

要するにこの人が言いたいのは『俺には才能があったのに、三島は自分のゲイを隠蔽するために卑怯にも俺の文学デビューの道をわざと潰していた、俺はそれに気づかずに三島を師と尊敬したまま散々身体だけを弄ばれた被害者、俺は人生を無駄にした』ってことなんだろう。

しかも長年の間その疑念を『いやいやいや三島さんはもしちょっとでも俺に才能があれば引き上げてくれる気満々な親切な人なんだ、でも単に俺の作品が絶望的にダメだから俺の作品をやたらと無視しただけさ…』と過剰に自己卑下することで長年押し殺し続けていたんじゃないかな。

で、晩年になって芥川賞の候補になった瞬間に、

!!!やっぱり自分には才能があったんじゃないか!!!やっぱり三島は俺の文学の道をわざと邪魔してた!俺を文壇に紹介すると自分のゲイがバレるのが嫌だから自分のゲイ隠しのためにわざと俺を抹殺したんだ!俺に、ゲイ小説を書くな、とくり返し止めた!俺に出版社だって紹介出来たのに頼んでもわざと無視した、送った原稿も読んでくれなかった、それでいて結婚後も、嫁に隠れてさんざん俺の身体を弄びやがった!互いにゲイとはいえ、本当に、本当に、本当に三島は俺のタイプとは真逆で心底キショいのに頑張って性のご奉仕まで務めたのに!!!

ってずっと溜まっていた疑念と不快感があらためて怒りとなってむくむくと湧き上がったんだろうね。

・・・・・。

・・・・・。

6 馬鹿ね、大切にされてないと悟ったら引き返せばよかったのよ…

えーーーっと。

凄い仕事が出来る美人の不倫女性に時々こういう不幸な人がいますわな。

若くて何も分からないうちにやたら偉い人と不倫関係になり、全てを捨てて別業種で再出発するのも難しく、だから仕事出来るのに出世できず、最後は会社からも追い出され、奥さんには慰謝料まで払わされ、でも上司は上手く奥さんとより戻すOR上司は別の飛び切り若い愛人を見つけて自分は貧乏くじ…みたいな人。

福島ったら、馬鹿な子よね、

そんなにイヤな夜のお勤めだったのなら、三島なんかとヤらなきゃよかったのよ!

無理して美意識に反するおべんちゃらも言わなきゃ良かったのよ!

思い切って完全に別れるべきだったのよ!

7 お金が絡むとむしろ辛そう

福島が言うには、

三島は福島と肉体関係を持った直後から、福島に会うたびに結構な金額のお金をあげていました。

名目上は軽作業の対価なのですが、それはちょっと風呂敷に本を包んで本屋に運ぶとか三島の父の庭仕事を2、3時間手伝うとか、どう考えてもほぼ意味がないようなさして重要でないアルバイトで、15時ごろから半日にも満たないおそらく2,3時間もかからない軽作業をして毎回三島から300円(当時の大卒=結構なエリートの初任給が月給3000円の時代に一日300円だから、3時間ぐらい軽作業して今の価値で2-3万円?)貰ってそのあとさらに必ず三島に銀座で夕飯を奢られるという生活を始める。

会うたびに高めのBAI春ワンナイト分ぐらいのお金+贅沢な外食を貰ってたワケですね。

ほんで福島は『もっと多額の金を、無造作にぽんとくれればいいのにと思ったこともある。』P87とか、なかなか図々しい事を書いていて、おいおいおいおーーーーーいって感じである。

でね。

そこだけ読むとすっごく楽ちんでイージーな話に見えますが、晩年にこんな本を書かざるを得なくなった福島の鬱屈具合を見ますと、いやはやつくづく思いますが、BAI春とは一見イージーに見えて凄まじく割に合わない仕事だとマヨコ思うんです。

(結構な額を貰って、絶対妊娠もしない男性の身体で、そして殴り合えば必ず勝てそうなひ弱な小柄な相手にマッチョな大男が、BAI春ではなく恋愛ですともいえるていどのあいまいな形で身体を売った場合ですらここまで何十年も自尊心が傷ついてるとは…!)

凄く尊い側面もある仕事だというのは解るし、仕方なくせざるを得ない人もいっぱいいるでしょうし、そのサービスを受けることで魂を救われるヒトもいるでしょう。だからそういう行為を100%否定する気はないのですけど、可能な限り止めて置け!やってたらなるべく足を洗え!

いい悪いじゃなくて単にお前自身が損しそうだから心配して言ってるんだよ!

と若い人に言いたい。

だからわたくし、エ口を掲げつつも自分の名前に『貞節』のとか入れちゃってるしBAI春することも不倫することも、ナムパ男とセッソスするのも全力で非推奨なのね。

(百戦錬磨のナンパ師とどうしても関わるなら、わたくしのように自分『だけ』は決してそいつとはセッソスしない、なのに友人でえす、というエゲツナイ立ち位置を取り、そんでわたくしみたいにナムパ師とは青汁の話とか確定申告の話とかふるさと納税の話をするに留めておきなさい。『いい歳でありながら百戦錬磨ナムパ師と自分だけセッソス抜きで親切されてる女』という立ち位置ならば自己肯定感は削がれないからネ!)

ようするに福島は『三島が作家デビューの後ろ盾になってくれる&一生奴隷のように貢いでくれるはず』と当初思い込んで、タイプじゃないけどその前提ならアリかな♥って嫌々身体を許してあげたのに、ふたを開けてみると意外と尽くしてくれなかった&むしろ作家デビューの邪魔をされていた!→せっかく捧げてあげた自分の肉体やら尊敬心やらを実は三島にとても安く見積もられんだ!→その屈辱感と騙されて貢がれた以上に性愛を差し出してしまった損した感の結果→(付き合ってた当時はギリ我慢していた)生理的な嫌悪が後後になって爆発して→いまさらすげー恨んでる的な…orz。

・・・・・。

えーーーーっと。

福島のそのねじれこじれ切ったど腐れ切った乙女心は少しは解らんでもないがしかし…


終戦直後、貧しい田舎の青年が、とんでもない金持ちのスーパーエリートと出会うことに成功してそして東京の贅沢な生活をふんだんに与えられて作家としての成功に導いてくれそうな手応えも感じてそして振り回されていったやむにやまれぬその感じもすこし解るがしかし…

そもそもそういう感じで打算で三島に身体を許す(売る)&真情を曲げた媚を売るのはアナタが損するだけだからやめとけばよかったんだよ?

と福島にいいたい。

8 BAI春の構造的欠陥


つまりネ『BAI春』には構造的な欠陥があって。

(話がずれてるw)

『あなたの身体にはこんなに身持ちの固い私が特別にタダで身体を許すほどの素晴らしい価値があります、あー気持ちいい気持ちいいえらいこっちゃ』という『大嘘』をいいかんじに魅せる仕事であり、その大嘘が上手なら上手なほど『クオリティが高いサービスを提供した』と判断されるわけです。

(特殊に反転した『大嫌いなのに感じさせられちゃう…ッ』みたいなサービス?も根っこは同じ)

つまり、相手のために頑張ってあげたつもりで生理的に凄まじく嫌な相手と嫌々致した場合、売る側は『史上最高にキツイ仕事をやり遂げた!これは特別料金を貰えるレベル!』と自己満しそうになるけど

買う側から見たら、酷く無礼な態度でおぞましいと思っているのが見え見えでつまんなそうにいやいやセッススされたわけで、それはつまり史上最低レベルなサービスを提供された訳なので『は?そんな低レベルな奉仕でお金もらえるとおもってんの?』となる。

かと言ってスゲー嫌なのに『あなたのセッソスは最高!』と魂を削りながら迫真の演技をしても『お前も楽しんだんでしょ?だったらタダでいーじゃん。なんで金払う必要あるの?』となる。

いやぁ…病みますよ…病みますよそんな仕事は…

しかも金銭の授受が難しそうだし…金銭の授受のタイミングで構造的な嘘が浮かび上がって気まずくなり揉めがちだし…

しかも非合法ですから警察にすら守ってもらえない。つまり不払い・暴力・騙しが蔓延する弱肉強食の無法地帯の異世界に転生したも同然の状態。

…割に、合わん!

(なんかどんどん話がずれてるなw)

つまり福島君よ、BAI春で稼ぐなら

①本当に心の底から性癖でなおかつ一生尽くしてくれそうな相手に『こ、こ、ここまで大切にされたのだから悔いなし!』レベルに尽くされてからはじめて身体を任せるか

(ただそれもうBAI春というよりもう溺愛結婚に近い状態ですネ)

②やる『前』に前金の形でさんざん貢がせてそしてやらずに逃げる峰不二子の術か 

(ただもうそれBAI春というよりも結婚詐欺とかデート詐欺ですよね)
(ちなみに福島がどうしても三島を転がすならこの②が良かったのかも)

ってことでなんかもうこの①②まで考えるとそもそも貢がせとかBAI春って一筋縄では稼ぎにくい割に合わない仕事の気がするんですよネ。

つうかそう思うのは単に摩詠子に個人的に

発達障害ADHD

の気がおそらくあり思った事が絶望的に顔に出ちゃう&嫌いなやつにおべっか言えない体質なだけかなそれもあるけどネ!

しかも三島には金もあるし東京の有名なゲイバーに行って男を買い放題に買う事も出来るし、そもそも三島の理想って『とびきり若い美しいアホめシンプルな脳みそのマッチョ野生児』つまり割と別の人と差し替え可能な魅力なんですよ。

だから当時の福島が相当なイケメンでも、イヤイヤが見え見えで、いつも三島をみじめな気分に突き落とすようなセッソスしか提供しない、エロい事を誘うといつも鬱々不愉快そうな態度、そんなんじゃあどうしようもないですよ、

私が三島ならそんな面倒くさい福島なんかにいつまでも貢いだり追いかけるより、

それならもういっそ割り切って、ワンナイトで歯の浮くような嘘のおべんちゃら言ってくれる男の子をお金で雇って毎日違う男の子を買いまくりますね。

しかも三島は福島の外見『長身ガッチリ濃い眉色白むっちりマッチョでやや丸顔の九州男児な見た目』はおそらく相当にドストライクではありましたが、

福島の内面『クヨクヨ、ネチョネチョ、ナヨナヨした劣等感の強い文学青年』は三島の好みの真逆なんですよ!

9 皆も蟻地獄には堕ちないでね!

晩年に芥川賞の候補になるくらいだもの、福島がもし下手に三島にさえ出会わなければ、福島が若いうちから作家になれた可能性は…むしろある。

なのに、むしろ、三島に出会ってしまったせいで、たしかに、福島は人生を誤ったね。

きっと福島は、三島に出会った時

『これはすごいチャンスだ、三島に師事して三島の弟子になるしか文学をする道はない、他に方法はあるわけない』

って思い込みをして、終戦直後の、pixivもTwitterもYouTubeもない時代、自分の思い込みに振り回されてしまったんだろう。

だが三島は福島に会ってすぐにゲイのテーマを完全封印して、さらには数年後に結婚までしちゃった。

(たださ…福島が三島をひどい態度で振ったことは三島の結婚した一因になってるとは思うよ…?…失恋続きだった三島を凄まじい洒落にならない態度で完膚なきまでに叩き潰すような形で振ったから…)

福島はある種の蟻地獄に堕ちたように見える。一部の不倫女性が時々ぽろっと嵌るおぞましき蟻地獄と同じタイプの穴に…

結構才能もあったんだから、福島はさっさと完全に三島と決別して若いうちから別のペンネームで小説を応募しまくれば良かったのにねーーー。

だから晩年になっていまさら芥川賞候補になった後の福島は、今まで我慢していた三島への鬱屈が溢れに溢れ出して

三島の狡さ・卑小さ・三島への生理的な気色悪さ・そして自分が生理的に反応しなかった事をこれでもかこれでもかと書かずにはいられなかったんだろう。

うん。おる。おる。そういう女、よくおる。

10 無駄に自分を苛めることを手放す

福島は本当に三島に嘘つかれて騙された、っていうよりも、三島に出会うという事件をきっかけに、自分の中の誤った劣等感によって、自分で自分をおかしな蟻地獄に引きずり込んでしまった気がするんだよね。

福島の三島へのこじれたうらみ憎しみってさ、

三島への正当な非難だけじゃなくて『自分で自分を必要以上に卑下したことによる無駄な苦しみや無駄な被害妄想』を無意識に三島に八つ当たりしている要素がかなりあるとマヨコ思うんだよね。

たしかに福島は幼少の頃から、性的少数派である事で、もしくは賤しいとされるような出自であることで、色々なすさまじい否定を受けたであろう。

マヨコも別件でならそういう体験はあるのでそれで根っからのイジケ体質になってしまう感じはすごくよくわかる。

ところが、同性愛も、真っ当な結婚でない形で産まれた子である卑しいとされる出自も、…世間はテキトーに色々言うにせよ、なにひとつ否定される要素のない、なんの恥ずかしいこともない、ただの個性なんだよね。

なのに(これ以上世界に否定されたくない・いじめられたくない、と思い詰めるあまりに)(本当は福島自身も自分でも悪いと思ってないし実際に何か悪いことをしたわけでもないのに)福島は自分から自分を曲げて

『はいはい自分はゲイで未婚の親のこどもだから自分は劣った人間です!悪い人間です!恥ずかしい人間です!みじめな人間です!そうですそうですはいはいはいはい!

自己否定して自己卑下して自己嫌悪するという生き方を続け過ぎた。

世間に受け入れられるにはそうするしかないのだろう世間はみんなそう思ってるんだきっとと思い真実を曲げて自分から率先して自分で自分を根拠なく誤った理屈で攻撃し続けたので、そのうちに無理が来て、反動で

世界に対して憎しみが溢れてしまったんだろう。

で、それ、Aさんに言われた侮辱をAさんに怒ってるというより、漠然とした世間の批判に対して身を守ろうと自分から自分を卑下して、自分で自分を攻撃して、そしてそのスタイルが身体に染み付いて仮面が顔に張り付いて取れないようになってしまい、でもそこには大した根拠もないので実はちっとも納得ができないからすさまじい怒りが湧いてそして、

その、元々は幼少期にAさんに否定された怒りを、先回りして自分で自分を卑下する事で増幅させ、そして手近にいて非難しやすい別のBさんに過剰にぶつけてるんだよね。

そしてその別のBさんとは例えば三島由紀夫なの。

本当に福島をいじめたAさんに向ける怒りがずれ込んじゃって、むしろ比較的福島をかわいがってくれてたBさん=三島由紀夫に、苦しみを吐露し縋りつきたい想いがねじくれて溢れてきて、最終的には、そこに攻撃が向かって行ってしまう。

つまり福島は三島由紀夫に八つ当たりしてるんですヨ。

例えば三島由紀夫とセッススしてどうにも噛み合わなくて破局になりつつある翌朝に、三島由紀夫が腕時計を無くして探す場面。

福島は時計を盗んだと疑われたことに傷付き、普段は金持ちで気前のいい人間を気取ってる三島がいつまでもせこせこと時計を探す姿を軽蔑する場面があるんだけど、そして福島はただぶすーっとして手伝いもせず無言でそれをみているのだけど、

そもそも時計無くしたら人は探すやろがい!

それだけを見て、福島の産まれが卑しいから物を盗むような人間だと三島に疑われたんだ侮辱されたんだとと思い込んで深く傷つく、って、やっぱりね、被害妄想だと思うな。いや、実際に三島が福島が盗んだと疑ったかどうかじゃねーのよ、

どうせ完全破局場面だし、ムカついたならそこでちゃんと面と向かって思った疑念を言えよ文句を言えよ、三島に!ってこと。

それを、口に出さずに、ねちょーっといじけつつ、『不貞腐れた顔でいつまでもいつまでも手伝わずに三島を見守る』という態度で傷つきを表現するって…

なんというしちめんどくせえ、めめしい、いじけた反応…。

それなら『俺は貧乏人だがそんな盗みはせん!むしろそれを疑うお前はいいとこの金持ちのボンボンだけど俺より卑小でゲスくて貧しい性格してるぜ!』と言い放ってやればよかった。

いっそ『キッショいオマエにあれだけ我慢してセッソスしてやったんだから腕時計くらいプレゼントしやがれ迷惑料だこの野郎!』でもいい。

ちゃんと思いをハッキリぶつけてやれよ!

福島は自分で自分を卑下して攻撃するのを手放せば→他者を憎まないで済み・攻撃しないで済み→結果的に他者に憎まれないで済んだような気がする。

福島のそういう必要以上に相手の考えを侮蔑だと想像するネチョネチョ・ネーーーチョネチョした被害妄想部分が、福島の告白本がイマイチ世間に賛同を得られなかった原因であり…

そしてこの『剣と寒紅』が三島の遺族の逆鱗にメチャクチャ触れた原因であり…

…そして割とどうでもいい箇所まで徹底的にほじくり返されて、そして割と言いがかり的な根拠でプライバシー裁判に負けて出版差し止めになって賠償金払わされた理由であり…

そして…最終的に福島が作家として葬られてしまった遠因であるような気がしてならない。

11 死せる三島嫁、生ける福島を走らす

(福島も出版社も、あのめんどくさい三島の奥さんはちゃんと死んで3年経ってるからきっと大丈夫だ3年経てばさすがにあの嫁でも生き返らんだろうゾンビ映画じゃねーんだからと踏んだのだろうが、あの奥さんはね…マジただ者じゃないんですよ。夫婦の不和も繰り返し噂されてたし、奥様の肉体は女なので肉体的な意味での性生活は三島とはうまくいってなかったかもしれませんが、あの方はそもそもが一方的に熱烈に三島に惚れて結婚した三島大好き人間ですし、三島★劉備を守る関羽というか孔明と言うか…いやむしろ女張飛か。なんか…メチャクチャ強いんですよ。三島が永遠にあこがれ追求してきた『自分のエゴではなく、ただただ可憐な他者を守るために命を殉じて死ぬ漢の中の漢だけが持つ右翼エロス』みたいなものが、一体全体どうした事でしょうか…見合いで結婚したはずの小柄な可愛い系の見た目の嫁からビンビン匂うんですよ。漢の中の漢な奥様と、内面的に可憐な乙女が住んでいる三島には、きっとナヨナヨ福島には想像もつかないような、奥様騎士と三島姫的な、深く堅い特別な精神的なプラトニックラブ的なナニカが案外あったような気もするんですよネ。きっと奥様は永遠に三島を守るためにいろんな策やシステムを子孫に残してから亡くなってるんでしょうね、死せる孔明、生ける仲達を走らすゥゥゥ!の巻ですね…)

12 我々の全く知らない新しい美の世界

最後に

ロリショタはともかく、リョナ切腹心中はともかく、ゲイはなにも悪くないのだ。

同性愛は太古の昔からある、人以外の生物にも存在する健全な性嗜好である。群れの和の維持とかそういう意味で大きな意味での種の保存にも寄与するからいろいろな生物の間で連綿と続いている極めて自然で健全なものなのではないかと思う。

福島のくよくよ・ねちょねちょした自己卑下や謙遜とか、やたらめたら遠回しの屈折した自己卑下にまみれたわかりにくい自慢とかはたしかにうざいのだが

彼の小説内の描写は非常に独特にして本物かつ斬新な美意識が感じられて、良かった。

たとえば、

風呂が嫌いで垢じみてて、日焼けのしすぎて赤く金太郎みたいな肌色になってる少年の美しさ(?!)に惚れて、教師と生徒のくせに深い関係になってしまい、そんである日少年の船に自分が乗り込んで船の仕事を手伝うと、普段は先生である福島は、船の操作が慣れてなくて下手過ぎていつもはおとなしい少年に大男の自分がメチャクチャに怒鳴られて、普段は先生として少年を学校で叱ったりしてるは自分が、この船の上だけでは、たくましい漁師の気弱な情婦になって叱り飛ばされているような、あべこべな倒錯感にゾクゾクして、少年に叱られながら燦燦と太陽の照る船で言われるがままに船を操作しながら、凛々しい少年に言いなりに従う幸福感で酔いしれる、とか、

なんかこう、独自の美意識で我々の全く知らない新しい美をバァンと突きつけてくる感じが、新鮮で素敵だった。

この人にもっと開き直った堂々とした調子で独自の美意識をもっともっと突き詰めてもっとパンクな小説を書いてもらいたかったなっ!

どっとはらい。


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