ヨコシマ相談室 #5. 男は何デシベルで喘ぐべきか?(相談1通め-2)
古き猥談師は天を指しておっしゃった。いわく、大切なのはあなたのうまい棒ではなく、あなたの脳である、と。己の技で女を昇天させたくば、あらゆる技をすべて捨て、ただあらんかぎりの声であえぐべし、と。若きナンパ師はイミフすぎる教えに言葉を失ったが、古き猥談師は構わず続けた。恐れるな。わたしはあなたとともにいる。たじろぐな。わたしはあなたの猥談師である。私はあなたを強くし、あなたを助け、あなたを支える。
〜ヨコシマ書41章10節〜
摩詠子は、iPhone plus の無機質なガラス画面に向かって、目をきらりと輝かせ、満足げにうなずいて続けた。
「テクニックなどすべて捨てて、ただひたすら手放しで、女に心から感じ、その喜びを全力で伝えてお上げなさい。本当はそれだけが、それオンリーが男が女に究極の快感を与える一番のテクニックなのよ。女に心底感じてくれるエリンギが名…名…え?これどういう呼称?名…名…?
めいぼう(名棒)?
なんだか、わたくしってつくづく恥ずかしいヒトよね…」
と、熟女はほほを赤らめて顔に手をあてた。
「ちょ…こんだけ語ったあげく、どうでもいいところで急に恥ずかしがるな。いいじゃん!名棒、黒砂糖系列のそぼくな九州銘菓みたいで。」
「そぼくな九州銘菓にお謝りなさい」
「ご、ごめん…うっせぇわ!でも確かに、その主張はとことん気が狂っているようで、もしかしたら一理あるかもしれない。まとめると、声はともかくとして、何らかの形で男だって女に向かってガチの喜びを表現することが必要だ、ということか…」
「そうよ、そうなのタロウちゃん。わかりやすく『声』と言ったけど、女性に感動が伝えられれば声にこだわる必要は無いの。無言でも、とにかく何らかの形で伝わりさえすればいいの。要するに女は、『殿方が私という存在に心底本気で感じてくださる』ことに感動するの。女にとって、これ以上の悦びはないわ…。
港区のタロウは、目をきらきらとさせて微笑む船橋の摩詠子をiPhone越しに眺めながら、ここでふと疑問が湧き上がってしまった。
「そういや、世の男ってベッドの上でどんぐらいの声出してんだろ…?てゆか世の男ってそもそも声、出してんの、か?全く想像がつかないぞ。だってその手の話は男同士でなんかしないしさ。…あのさ、摩詠子はデカい声であればあるほどいいなんて雑に言うけど、ここだけの話…」
「何?仰いなさいタロウ」
「その…ぶっちゃけさ、どれくらいのデカい声まではアリだと思うの…?ホラ、そういうのむしろ嫌がる女の子も…その…いるだろ?」
「そうよね、『大声』だなんて漠然としすぎだわよね。あなたはこう言いたいのね?『俺たち男は論理的な知的生命体なんだから、ちゃんと知的言語で具体的に伝えないと解らないぞ?』って」
「そこまでは言ってないけど、そう!」
「では殿方にわかるように言いかえますわ」
船橋の熟女は、シルクガウンのままベッドサイドの椅子に座り、少しだけ背筋をただす。対して港区の男、窓から見える眩い都会のビル群を眺めながら、返答を待った…。10秒ほどの沈黙…。
「57デシベル!これが最低限よ!」
「ファあッ?!?!?!」
「具体的には…おうちの中のもので例えると、静音設計の紙パック掃除機、日立のCV-PF900かるパックくらいね。解るわ、そうね、階段が多いとか毎日数分だけ掃除機かける派ならdysonのスティック一択だけど、片付いた広い家で週末にまとめて30分以上とか掃除したい人ならやっぱりコード式の方が断然吸引力あるし本体は引きずってるだけで重くないからむしろ楽なの」
「異常なまでにピンポイントな数値と具体例を出されたのに、途方もない非論理の渦に巻き込まれている感ーーーーッ!」
イミフ過ぎる刺激でタロウの心臓にへんなキリキリとした痛みが走った。
「この表をご覧になって。右端の方、昔ながらの業界最大パワーの掃除機の65デシベルまでいくとさすがにやり過ぎかな?よほど特殊なプレイ中でもない限りちょっとわざとらしいわ?お隣さんにもかなり迷惑な騒音になってしまうしね。だからね。相談者の彼はね、深く考えず、ただ、脳のリミッターを外して喘ぎ声を57デシベルぐらいまで上げればいいの!左の掃除機のようにね!そうすれば彼女さんだって、『いいんだわ…ベッドの上ではアホになっていいんだわ!彼があそこまでアホになってくれてるんだし、私ももっとアホになりたい!』ってなって、お互いメッチャ盛り上がるわよ!ね、すっごく簡単でしょ!」
「な、なにを言っているのかわからねーと思うが、俺もなにが起ったのか分からなかった…頭がどうかなりそうだった…ってゆうかオイ!!!さっきから真面目に聞いてたのに良い加減にしろよ摩詠子!!」
「1ミリもからかってなど居ないわ…これはガチに本気なマジな真剣な話よ…?」
(つづく)