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吉田初三郎を見に、府中へ
吉田初三郎さん、という絵師。すみません、「推し活」したいくらい、大好きです(笑)!
その初三郎さんの展覧会が、何と我が家の近く、府中市に来ていると聞いたので、これは行くしかないと思い、行ってきたのでした。
■吉田初三郎さん とは?
吉田初三郎さんは、主に大正時代から戦前・戦中・戦後にかけて活躍した鳥瞰図を多数書いた方です。鳥瞰図といっても、例えば、私鉄の沿線の路線案内図のようなものを手掛けた方、と説明したほうがわかりやすいです。約1600点といわれる、多数の作品を手掛けた方、として知られています。
で、どんな絵なのか?というのが知りたい方は、是非こちらのHPをご覧ください。
この中の、「京王電車沿線名所圗繪」の一部を見てみることにしましょう。
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この絵、何がすごいかというと、あくまで「主役」はクライアントである「京王電車」と「その沿線」と「売り込みたい名所・旧跡」です。四谷新宿(今の新宿追分付近)の駅のビルや、明治大学、そして京王閣が、これでもかというくらい誇張して描かれていて、あくまでも京王電鉄の線路は、はっきり、まっすぐ描かれています。それだけかと思ったら、その背景に、富士山が描かれているだけでなく、伊豆、箱根、名古屋、大阪、門司、そして朝鮮、台湾、ハワイ、サンフランシスコまで描かれています(笑)。そんな鮮やかなくらいの世界観を持った鳥瞰図のコレクションが、府中で見ることができたので、行ってきました。
■府中市美術館へ
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せっかくなので、先ほどの鳥瞰図で、府中付近を拡大してみましょう。
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当時東府中駅はまだなく、「八幡前駅」が最寄り駅でした。
実は、東京競馬場への最寄り駅は、当初東府中と府中の駅の間にかつてあった、「八幡前駅」でしたが、八幡前駅から競馬場までは、結構急な坂(国分寺崖線と呼ばれる崖)を昇降しなくてはならず、車でアクセスすることができませんでした。そこで、新たに少し離れた東府中駅ができ、そこから崖を斜めに昇降する車道ができ、競馬場への玄関口が東府中駅に移り、最終的には八幡前駅が廃止される、という経緯を辿ります。さらに、戦後になって、東府中駅から、競馬場線が敷設され、最寄り駅は「府中競馬正門前駅」に変わり、現在に至ります。そのあたりの経緯は、過去に歩いた街歩きの記事に記載しているので、そちらをご覧ください。
さて、東府中駅から、美術館を目指しますが、駅前にちょっとしたモニュメントを発見しました。
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昭和39年から約20年かけて終末処理場まで繋げた事業の完成記念。
実は、駅前のこんな場所に、土木なスポットを発見したので、ちょっと嬉しくなりました。
東府中駅から、北側に向けて歩きます。
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何だか工事中。老朽化した庁舎を建て替えようとしているそうです。
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こちらも閉鎖されていました。
美術館に向かう途中にある2つの施設がどちらも工事中で仮囲いの中、という、いつもに無い光景を目にしながら、たどり着くのが・・、
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そしてそこにあるのが、お目当ての・・
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富士身延鉄道の沿線案内図の鳥瞰図です。
館内は撮影禁止なので、学んだことを、この富士身延鉄道の沿線案内図をモチーフに見てみましょう。
こちらのサイトに保存されている鳥瞰図を少し拡大したものがこちら。
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①対象となる(見せたい)ものがはっきりしている
この鳥瞰図は、あくまで、「富士身延鉄道(今のJR身延線)」の沿線案内図兼路線図として書かれているので、まずはその路線がわかりやすく描かれることが第一条件となります。この鳥瞰図では、富士身延鉄道の路線が一直線上に描かれています。勿論、この鉄道線路は地図上では湾曲していたりするので、その分デフォルメされて描かれることになるのです。川下りであれば、川がまっすぐ描かれるなど、その用途に合わせて描き方を変えているとのことでした。
また、この地図でひときわ大きく描かれているのが、富士山です。ある意味、この鉄道は、富士山の山麓を走っていることが沿線観光の目玉、であることが言えると思われ、それをわかりやすく描いています。
②後ろのほうのものは、「立てて見せる」
この鳥瞰図で言うと、富士山の裏側は、恐らく山があったりすると、平地は見えなくなってしまうでしょうが、ここはあえて、後ろのほうを立たせるように描くことで、「見えないものを見せる」ようにしています。そうすることで、富士山の裏にはどんな街があり、そこにどうつながっているのか?ということを、視覚的に知ることができるのです。
③意図的に「あるもの」を描く
そして、吉田初三郎さんの一つの特徴として、「あるもの」をいろんな鳥瞰図に描いているとのことです。それが、
富士山
です。たまたまこの絵では、富士山は主役ですが、例えば関西や九州を描いた鳥瞰図にも、富士山を意図的に登場させることにより、見ている人に、「富士山がここにあるってことは、東京はこのあたりかな」とか、この地へのアクセス方法のことなどを読み手に知らせることができるのです。同様に、東京や、青森・函館、下関・門司、台湾・朝鮮半島など、線路の先や海の先につながるもの、見えるものを意図的に描くことで、空間の広がりを表現しようとしているのです。
④きめ細やかな修正を繰り返してできた鳥瞰図
そして、この鳥瞰図は、初めから構想通りに完成させているのではなく、ラフな絵を弟子たちと一緒に創り上げ、情報を入れていくようにしてできたものだそうです。細やかな修正メモがあり、バージョンアップしながら、鳥瞰図を完成させていったのですね。
そんなことを、学びながら知ることができる、とても楽しい展示でした。そして、今と違う駅名、路線、名所、世界観などが手に取るようにわかるので、何だかとても面白い情報をその絵の中に見出すことができるのです。そんな展覧会を、楽しむことができました。
■終わりに
吉田初三郎さんの鳥瞰図。一度見ると何だか釘付けになってしまう魅力が満載です。現代にもその技法が受け継がれ、最新バージョンとか、あればいいのに・・、と思うのですが。地元・京王線の沿線案内に、アジアまでを描いて見せるような、そんなダイナミックな作品が、電車に掲載されていたら、とても素晴らしいと想像しながら、美術館を後にしました。