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○○のはなしに思う観光列車の限界

先日、東萩→下関で観光列車「〇〇のはなし」に乗車してきました。
そこで感じたことがいろいろあるので、書き連ねたいと思います。

〇〇のはなしはいい観光列車です

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早速タイトルと矛盾するはなしですが、〇〇のはなし自体は観光列車として完成度が高いと思います。
〇〇のはなしは全車普通車指定席の快速列車、つまり貧乏旅行の決定版「青春18きっぷ」に指定席券を追加すれば乗車できる列車ながら、

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座席の下に何か黒いものがありますね?そう、コンセントです。
〇〇のはなしは約3時間半(新下関行き)の乗車時間。インターネットに接続して即時情報をシェアするこの時代、大変ありがたい設備です。

そして、何より観光列車の楽しみ、車窓に広がる景色も文句なしです。

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乗車日はそこまでいい天気ではありませんでしたが、それでも山口の海の透明度を至るところで満喫できます。
また、東萩発は東萩→長門市(運転停車)→仙崎→長門市(客扱い)→人丸…と、乗り鉄にとって美味しいルート取りをします。

地元資本としっかり連携

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阿川駅では、停車時間を利用して「はなし」(萩・長門・下関)の会社が手を組んだセットを注文できます。
コーヒーは持ち帰って、旅の余韻に浸りながら楽しめるという心遣い。

案内されても行けない観光スポット

で、じゃあどういうところで限界なのかというと、観光列車を走らせることで乗客にどのような出口をもたらしたいかが見えないということです。

例えば、人丸駅到着前には元乃隅神社(長門市油谷)の案内がなされます。確かに鉄道で訪れる場合、直線的には最寄り駅は人丸になるでしょう。
しかし、公共交通の二次アクセスがありませんゼロです。本当に何もありません。タクシーを呼ぶしかないです。
長門市駅からならバスとかあるんじゃない?と思うかもしれませんが、ありません。これは事実です。それを示すように、案内では「車で20分」と告げられます。
で、人丸駅はタクシーが常駐しているような駅ではありません
つまり、ものすごく悪い言い方をすれば、「人丸が最寄りだから。あ、てめえらで適当に行けよ」ということになります。

散策時間で向かう場所

仙崎駅では約30分の停車時間が設けられており、徒歩5分の商業施設「センザキッチン」で買い物することが推奨されています。

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センザキッチンは確かに地域の特産品やその他美味しそうな食べ物も手に入るいい商業施設ですが、道の駅です。
あと、新下関行きの時間ではなかなか海鮮ものが手に入りにくいですし、駅からの徒歩を差し引いた実質20分間(実際にはもう少し少ないと思われる)で買いたいものを絞り込んで的確に購入するのは、かなり難しいのではないかと思います。

素晴らしい景色の手前に広がるもの

また、徐行するしないにかかわらず、沿線には日本海・響灘などの素晴らしい車窓が広がりますが、

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多くはこのように、手前に道路が見えます。

・・・車でよくない?

と、正直「車でよくない?」と思わせるのに十分な場面に出くわします。
小串以東は都市の住民の感覚で「列車が非常に少ない」と思うに十分な本数と運転間隔。案内された観光スポットへは公共交通で辿り着けない。道の駅での買い出し休憩は慌ただしい。道路からの方が車窓は良い。
山陰線沿線を除いても、著名観光地が駅からは歩いて行けないことがほとんどという山口県で、乗客にどのような体験をさせたいかがいまひとつ見えてきません。多分、純粋な観光目的で乗って、案内を受けたら「次はレンタカー借りよう」が自然な感想ではないでしょうか。

はなし=Story?

「〇〇のはなし」とは、「ぎ・がと・ものせき」と、沿線にまつわる「はなし」をすること、列車や沿線での経験を他人に「はなし」て欲しいという三重のミーニングとのことですが、停車駅での物販のあり方、「話」というところに、下関から海峡を渡ってつながる鉄道会社の雰囲気を感じます。
その鉄道会社では、世間的に観光列車と呼ばれているものを正式にはDesign and Story=「D&S列車」といい、車内外におけるデザインの力と、それに付随させたストーリー(必ずしも沿線とは完全にリンクしない)で乗車体験に付加価値を提供する取り組みが行われています。
多分にインスパイアされていることは想像に難くないですが、鉄道が圧倒的不利な環境下において、沿線自治体と協調して観光客を入り込みさせるには、という思考のひとつの答えであるのではないかと思います。

つまり、始発の萩を除けば徒歩観光は困難で、単なる沿線資源の再発見では需要を創出できない環境では、デザインやストーリーの力を借りて、少なくとも移動手段だけでも「再定義」する必要がある。
このことへの、今のところのJR西日本の答えが〇〇のはなしではないかと思います。

鉄道の移動ついでに景色を眺めるのが目的であればこれでいいのでしょうが、純粋に山口県内の観光を楽しみたいのであれば、各停車駅の先に広がる「はなし」に全くタッチできないのが、何ともやるせない。
仙崎から橋でつながる青海島へも、先述の元乃隅神社へも、角島へも、駅からはかなり距離のある川棚温泉へも、「鉄道旅行では行けないね、残念。次は車で来ようね」としかならないことを再認識させるだけだなあ、というのが正直な感想です。

鉄道の旅に求められるものを突き詰めて、得られるものは何か

鉄道0-29車、9回裏の鉄道の攻撃が始まったところ。
何とか一矢報いたい。それにはやはり、鉄道の旅でしか提供できないものは何なのかに立ち返る必要があるんじゃないかと思います。
阿川駅で購入できる上記のセットは、〇〇のはなしの乗客しか買えないようになっています。
この間のダイヤ改正から発売されたところなのでまだ需要を論じられる段階にないでしょうし、現実にはハイシーズン以外の乗車率は芳しくないと想像されますが、私自身はこの施策はいいと思っています。
乗らないと得られないサービス・価値をもう一度深耕するところに、1点を取るポイントがあるのではないかと思っています。

でも、1点を取るのに必要なコストって、どれぐらいなんだろう。

そう思うと、やはり、観光列車は地域の起爆剤になり得ないなあ、と思ってしまいます。

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