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夜型スイッチ

私は欲張りな方だと思う。誰でも一度や二度は「一日が30時間だったらなあ」と思ったことはあるのではないか。好きなことをずっとしていたい。興味の湧いたことをいろいろ手を付けてみたい。そんな気持ちが続いているときは、無限の気力体力が湧いてくるような気がして、結果、夜型人間になってしまった。そして、会社づとめになってもそのままの生活が続いた。夜型といっても、昼まで寝ているというわけではない。少し遅めだが仕事に間に合う時間には起きて、そして深夜に帰って寝る。睡眠時間を削るのである。完全に仕事中毒である。若いうちはそれでもなんとか持ちこたえてきた。しかし案の定、体を壊して仕事のやり方を変え、体調が戻ったところで退職し、体調管理しやすい生活に入ったわけだが、体に染み付いた夜型は隙あればつでも出てこようと狙っている。これは例えではなく本当に狙っているのである。以前、薬物中毒の患者は頭の中にスイッチができてしまい、それは一生消えないのでそのスイッチを入れないように注意しながら生活しなければいけないというような番組を見たことがあるが、私の頭の中にも夜型スイッチができているようだ。スイッチが入ると平気で徹夜してしまうやつだ。

私は2019年夏から10ヶ月間デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、言葉の壁や文化の違いに悩みながらも高齢者の尊厳ある生活と幸福とはどういうものかということを知ろうとして体当たりの体験をしてきた。この10ヶ月の間は実に見事に夜型スイッチはOFFのままだった。夜ふかしという選択肢が完全に削除されていたのだ。なぜなら、翌日の体調管理と準備に最善を尽くさなければ〔この歳の学生として、文化風習の異なるこの土地で、コミュニケーションの困難な中で」本当に生き残れないかもしれないという緊張感が常にあったからだ。0時前には必ず床につき、6時に起床するという生活を実践した。帰国直前にはそれが習慣にもなっていた。

夜型スイッチというのは私の場合、緊張感の少なすぎる場合と多すぎる場合の両方出てくる。スイッチが入ってしまうと、睡眠時間が足りなくなり、その結果気力も削がれて、ますますスイッチが入りやすくなる。適度な緊張感を維持してスイッチを入れないのが大切なわけである。デンマークの生活を思い出しながら、その適度な緊張感とはどういうものかを考えると、それは「戦略を立てて実践する」という緊張感であることがわかった。期限を切らずには手を付けない、根拠のない不安を相手にせず、不安を解決するための戦略を考えて期限を決めて実行する。この緊張感が私には一番効果的だということを彼の地の生活で教わったのだ。

しかし夜型スイッチはいつでも私を狙っていることは間違いない。これはもう仕方ない。仕方ない。

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