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地球的な規模

私は静岡県に住んでいる。緯度はおよそ34.8度だ。緯度というのは知られているように、地球の中心からこの場所を見上げた時の角度だ。だから赤道は水平の0度、北極は真上の90度になる。34.8度というのは大雑把に言えば、水平と真上の間を3つに分けた一つ目くらいの感覚だろう。たいした角度ではないとも言えるが、自然界の中では結構な急勾配だ。スキーゲレンデで34度といったら、絶壁のように見えるだろう。上級者向けの斜面だ。
さて、北極星という星がある。真北の方にあるわけなので、北極から北極星を見上げたら真上に見えるし、赤道から見たら水平線と同じようなところに見える。つまり北極星はその場所の緯度と同じ角度で見上げるということだ。だから静岡県から見ると北極星は34.8度見上げたところにある。水平から真上の間の3分の1くらいのところである。
私は3年前にデンマークのロンデという街にあるフォルケホイスコーレに留学した。日本よりかなり北にあるので、相当寒いだろうと覚悟していたが、暖流の影響だろうか、そんなに雪国を思わせるところではなく、気温は低めだが普通ののどかな町だった。言葉も習慣も家並みも日本とはずいぶん異なるので、確かに海外に来たことはわかるのだが、当初は日本から8000km、地球の半径よりも遠く離れた場所という実感が今ひとつ湧かなかった。それでもフォルケホイスコーレの新鮮な体験を繰り返し、週末にはビールパーティで騒ぐという流れを楽しんではいた。ある週末、そのビールパーティの最中に、夜風にあたろうと庭に出た時のことだった。強い風で雲が飛ばされたのか、天の川が見えるほどの星空だった。隣にいたあるデンマーク人の学生がデンマークの柔道教室で練習して国内大会で入賞したなんていう話をしてくれて、へえすごいねえと相槌を打ちながら、しかしこの星空もすごいなあと上を見上げていたら、真上の方に北極星がある。そうなのだ。ロンデはおよそ北緯56度。つまり北極星は56度の角度で見上げることになるのだ。水平と真上を3つに分けた二つ目にかなり近い位置だ。その北極星を挟むように北斗七星とカシオペヤを見つけたとき、初めて地球規模の移動をしたこと、遠くへ来たんだということを実感したのだった。

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