折り返し点の思い出
私は2019年8月~2020年1月までの秋のロングコースをとってフォルケホイスコーレに滞在した。その途中で2月~6月までの春のロングコースを追加したので、1月の終わりはちょうど折り返し点ということになった。その最後の日は1月29日。当時の日記を読み返してみるといろいろ思い出される。
ロングコースの最終日と行ってもメインの内容は12月のクリスマス前までで、1月に入るとプロジェクトコースという名前でほとんどの学生が入れ替わり、人数も100人程度だったのが50人程度になっていた。つまり私は5ヶ月通しのロングコースだと思っていたのだが実は12月までの4ヶ月コース+1月のプロジェクトコースだったというわけだ。ものすごい勘違いをしていたわけだが、当時は全然平気であった。そのぐらい勘違いの連続で過ごしてきたからだろう。変な肝の据え方をしたものだ。その1月のプロジェクトコースの最終日、無事にグループでのプレゼンを終えた翌日は、お別れの日である。朝の集会ではいつものようにホイスコーレの歌本で歌を歌い、その後共用エリアの掃除。掃除分担は予め決まっているので、掃除用具置き場から道具を持ってきて手際よく掃除できた。続いて自室の掃除。寮の各階に掃除用具入れがあり、掃除機や雑巾がけ、窓拭きなどをした。午後は集会があり、校長先生から修了証書を一人ひとり渡された。実は12月にも4ヶ月コースの修了証書をもらっていたので、これで2通目だ。1ヶ月とはいえ、一緒に学んだ学生たちをすこし近くに感じるようになり、彼らの明るい将来を願う気持ちになったのは年齢のせいかもしれない。しかしやはり50人もの学生とわずか1ヶ月の間に友達の関係を作るのは難しいことだ。そのため、この期間はかなりの頻度でグループで集まって話し合い、ともに行動するということが多かった。先の4ヶ月間でも事あるごとに「チームワーク」を訓練するような場があったと感じていたが、その時はこれは個人主義がチームワークをあまり主張しないからだろうと勝手に思いこんでいた。しかし後に個人主義は相互の尊重と平等が基本になっているということがわかり、チームワークそのものは日本と同様、普通のことだと気づいた。ただ私はチームワークといえば、「和を乱さず一丸となって」のようなイメージを持っていたのでこの「話し合いともに行動」するという機会の捉え方がすこしずれていたようだ。つまりこれは「自分を殺して全体を活かす」ことで成功を目指すのではなく、「全員で議論し役割と責任を共有し各自がベストを尽くす」ことで成功を目指すことを示していたのだ。
このようにあとになってわかってくることが多い1月だったが、その最後の日は思いもよらないこともあった。午後の集団ゲームの時間で5~6人で輪になって座り「この1ヶ月間で身についたこと、良かったこと、良くなかったことなどを順番に話す」というのがあったが、その中で「あなたのヒーローは」という問いに、私の隣の学生が「自分にとってヒーローは、私の祖父です。そしてAkioです。」と言ったことだ。なんと私は彼の祖父に並んでヒーローになってしまったのだ。こんなことを言われたのは生まれて初めてだったので少なからず感動してしまった。もし私に少しの機転が働いてくれたなら、「君もお孫さんのヒーローに必ずなれるよ」というべきだった。悔やまれてならない。また、その後学生の一人から突然「ピアノ弾いてよ」と無茶振りされたときも驚いた。今になって思い起こせば、「人間関係・信頼関係を作る」ということにどの学生も真剣に臨んでいたのだと感じる。なんであれ、その人を知るために行動を起こす。そうしなければ期間は無情に過ぎてゆく。。そんな気持ちを自分も他の学生たちも持っていたような気がする。私も自分をさらけ出す機会が少ないと思っていたところでもあり、彼女らのアクションには率直な感謝の気持ちが湧いたのだった。
折り返しの地点はこのようにバタバタと通過していったが、デンマークの生活、フォルケホイスコーレの生活に幾分慣れてきたことで気持ちに余裕が出てきたことは次の5ヶ月間に向けての目標を改めて設定する良い条件になったことに間違いはない。