EXP
還暦を過ぎてだいぶ長いこと生きてきたように思うが、達観とか悟りとか、そういう境地からはどんどん離れていくような心持ちだ。年月とか時間がくれるものはEXP、経験値だ。生きている限りこのポイントだけは上がり続ける。それがどのように活かされるのかは、還暦近くなったらデンマークのフォルケホイスコーレに行ってみればわかる。EXPはいわば神様が今まで生きていたことに対するご褒美をくれたのだとも言える。
そのご褒美は実は次のEXPをもらうための種になっている。経験を積むことが次の経験への導入になるのだ。結果が次の原因となってまた結果を生む。そのサイクルは途切れることがない。風が吹けば桶屋が儲かるという。風が吹くとゴミが舞い、目に入ると失明して盲人が増え、三味線で生計を立てるので猫の皮が要る。猫が減るとネズミが増えて桶をかじるから桶屋が儲かるという話だ。それはたとえ話でも極端なことで、そんなことはありえない思ってしまう。だが、世の中、世界はアナログだ。限りなく小さい可能性が許されている。たとえば今私がちょっと背伸びしたことで体の重心の位置が変わり、それが限りなくゼロに近い量だが、地球の軌道に影響を与えているかもしれない。その結果100年後に地球に衝突するはずだった隕石の事故が回避されたかもしれない。そのくらい世界はつながっているということなのだ。だからいくらじっとしていても自分は世界に影響を与え、世界から影響を与えられ続けている。つまりEXPは増え続けるのだ。失敗しようが回り道しようがやってきたことは無駄にはならない、なんらかの結果になるということだ。
ところで、ちょっと気になることがある。それは世界的なデジタル化の流れだ。デジタルというのは簡単に言えば、数字にする、つまり、どこかで次の数字に変わる瞬間があるということだ。いままで5だったものがある瞬間に6に変わる。5と6の間は飛び越えてしまう。この間にあるものは決して見えてこない。これでは風がいくら吹いても桶屋は決して儲からないことが起こりうる。いつまでたってもEXPが上がらない可能性がある。数字を1だけ押し上げる変化がなければEXPが上がらないからだ。
これは高齢者に年齢が近づかないとわからないだろうし、自分も今までわからなかったが、EXPは必ず増え続ける。じっとしていても貯まるのだから、動けばもっと貯まる。決して減らない。そして必ずそれを実感する時が来る。だから思い切り貯めておけば良いのだ。それが、別の言い方をすれば自分の人生に意味をつけるということだ。考え行動し結果を受け止めるという体験が間違いなくEXPとして人生の意味になって行く。デンマークのフォルケホイスコーレが教えてくれたことは実はそういうことだった。デジタル化はもしかすると初期のうちはこのEXPを全て捉えることができないかもしれない。そこはちゃんと押さえておいて、しかしEXPは生きている限り貯まり続ける。そのことだけでも生きててよかった。
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