
ヤンテの掟を味わうーー日々の尊厳
デンマークには伝統的な戒律〜ヤンテの掟がある。といっても、小説の中に登場した10の掟である。モーセの十戒と似ている気がしたが、十の掟全てがほぼ同一のことを言っているのが異なりもするし、特徴的だと思った。
どんな内容かというと、ざっくり、
「自分は特別な人間だと思ってはいけない」
ということだ。
シンプル。
人間関係をフラットに扱うデンマークらしい感じがする、が、十も言葉を変えて同じことを言っているということは、実にそうしなければいとも簡単に人は自分を特別扱いするものだと看破しているのだとも言える。
さて、具体的には何と書いてあるか? 〜の後は自分なりにこれらの文を受け止めたものである。
【ヤンテの掟と受け止め】
1. 自分がひとかどの人物であると思ってはいけない
〜自分の為したことを以て自分は人から立派だと言われる人物であるわけがない。
2.自分が我々と同等であると思ってはいけない
〜自分が周りの人々と対等に渡り合えるくらいの見識や実績を持っているわけがない。
3.自分が我々より賢明と思ってはいけない
〜自分が周りの人々より頭がよく、彼らより物事が分かっているわけがない。
4.自分が我々より優れているという想像を起こしてはいけない
〜自分が周りの人々よりもうまく物事を進めることができていると想像している暇などない
5.自分が我々より多くを知っていると思ってはいけない
〜自分が周りの人々より物知りであるわけがない
6.自分が我々を超える者であると思ってはいけない
〜自分が周りの人々より卓越した何者かであるわけがない
7.自分が何事かをなすに値すると思ってはいけない
〜自分は立派なことをすべき人間なわけがない
8.我々を笑ってはいけない
〜自分が周りの人々を見下せるわけがない
9.誰かが自分のことを顧みてくれると思ってはいけない
〜誰かが自分を気にかけてくれるわけがない
10.我々に何かを教えることができると思ってはいけない
〜自分は周りの人々に教えられるほど素養を持っているわけがない
どうだろう。鬱になりそうである。自分をそんなに否定しなくてもいいだろうと思うし、デンマークのフォルケホイスコーレでこの文章を紹介された時にもやはり「ネガティブすぎるけど。。。」とのコメントがあった。
「出る杭は打たれる」というのは、日本の社会的規範に照らして分不相応に突出せずその分の中でよく振る舞えという、共通認識(外圧)のようなものを感じるが、ヤンテの掟は「分」という社会の共通認識ではなく、あくまでも個人の、その人の認識(内発)として「周りから飛び出さないで!」と言っているようである。
どちらも人間社会の中でうまく生き抜いてゆくための知恵なのだろう。
個人主義では個人が好き放題をするのではなく、集団主義では誰もが金太郎飴ではない、そんな知恵があるように感じたところだ。