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乳癌になって ①

   お疲れ様〜、目、覚めた?
 その声に誘われるようにゆっくりと目を開けた
 そこはさっきまで居たはずの手術室ではなく長く続く病室への廊下をストレッチャーで運ばれている道中だった
 口から麻酔を吸い込んだ途端、点滴が刺さっている腕がキンキンに張るように締めつけられて痛くて
   んー、痛い、痛い
 と珍しく口に出して喚くと
   痛いねー、ごめんねー
 って優しく腕をさすってくれた手にホッとしてからの記憶がない

 あっという間としか言いようがない数時間は、タイムスリップでもしていたようだ
 ただ眠っていたし、夢も見ていなかったと思うくらい何も分からないまま 
 傷口は多少痛むけれど、前回子宮体癌でざっくり切った時を思えば大した事はないと思える自分はおかしいのだろうか? とさえ思うからホント不思議!

 バイタルだの何だのと看護師さんが言っているのは聞こえていたが、さっきまで気管に管が入っていたせいか、声もほとんど出ず、小さく頷くのみの私に構わず一通りが終わり、ようやく静けさに包まれた
 繋がれた機械の音と自分しかいないような錯覚の中、そっと指先を伸ばしたのはいうまでもなく失った左胸だった
 硬い帯の様なものに阻まれて直接は触れられなかったが、あったはずの膨らみは確かに消えていた
   ああ、ほんとに無くなったんだなぁ
   今までありがとう
 って呟くと自然と涙が目尻を流れ落ちていった

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