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#2 隣のリハ室

 アマチュアの市民ダンスクラブを編成してから、今年で丁度20周年である。夏の記念コンサートに向けて、スケジュールバラバラの団員さんをまとめていかなければ。しかし、単純計算でお年寄り2割子供3割弱ということもあり、多くを求めすぎてはいけないことも辨える必要がある。
 ところで、我がダンスクラブは金欠のために、練習場所を確保するのもなかなか大変なのである。そこで、この頃は県庁所在地のホールまで出向いて、そこのリハ室を借りての練習となっている。大人数で集まって合わせる頻度は、月に3回あるかないかというところだ。

~団員M弘の日記~
 今日は、久々の通し稽古だ。当番の順番を考えると、今日はカウンターで鍵を借りに行く日だろう。カウンターに少し並ぶ間、壁に貼られた予約表を眺める。うちのクラブ使うリハ室の隣のリハ室Cに、新生劇団らしき団体の名が記されている。へえ、と思いそれっきり、興味関心も沸かず、鍵を受け取って、リハ室に移動する。

~団員L香の日記~
 リハ室は、相変わらず殺風景としか言いたくないような部屋だった。靴を履き替え髪を結いながら、鬼ごっこに夢中の小さな子供たちを見つめ、転んだりぶつかったりしないかとハラハラするばかりである。しかし、そんなことは起こらず、子供たちは俊敏に動きまわり、タッチをかわしていくのだ。

~団員Sの日記~
「何をさせているんですか、子供たちに。親御さんもいらっしゃるでしょう。そこのところ、もう少し注意されてはいかがかと思いますが。」
 外の廊下から、怒鳴り声とも抑揚の無い声ともつかない、ウジウジしたというのか変わったトーンで苦情を言う人が見える。団長さんは、苦笑しながら頭を下げ、心底申し訳無さそうに…見える。

~団員Yの日記~
 耳がいいと、いつも耳障りだなあとか、聞いちゃいけなかったよなあとか、思ってしまう。聴力っていまいち褒められないけど、自分の場合はダントツにいいから、学校なんかでは一躍有名になったことがある。だから、鬼ごっこの中にポツンと立っていても、恐らく隣のリハ室を使うであろう人の小さな声での苦情も、実はかなり聞こえていたりいなかったり。聞こえるけれども。お隣は、確か広告を見かけたっけ。N劇団というらしく、今年のデビュー公演のために張り切っているのかもしれない。

 通し稽古を始めると、隣のリハ室Cから、「違うでしょー!」「やり直し!」「やる気ある?」など、聞いているだけで気まずくなるような怒号が飛んでくる。思わず、自分たちも足音丸聞こえなのかと、防音壁が欲しくなる。壁1枚隔てて、未知数であり良さを未だ見いだせない、よその団体とひとつ屋根の下、我がダンスクラブはこれからも本日の練習をしていかなければならない。


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