鉄の心臓
義母は出歩くのが好きだ。うちに遊びに来たときも、ちょくちょく散歩と称して外に出ていく。
実は、ただのウォーキングではない。ヨモギ等の食べられる野草を探したり、誰かが回収所に古着を置いていってないかチェックしたりして、ただで手に入れられる物を探す「狩り」なのだが、それは本人は絶対に言わない。
ある日、義母は長女(2歳くらいの頃)をベビーカーに乗せて散歩に行くと言い出した。近くに景色の良い公園があるので、そこに行くのだろうと思い、お願いした。その間に、私はスーパーへ買い物に行った。
買い物袋を下げて家に戻る途中、前方を見てぎょっとした。
車道の真ん中を、堂々と歩く人がいる。見覚えのある後ろ姿だ。ベビーカーを押し、のしのしと片側一車線をふさいで歩いている人物は、なんと義母だった。
そこにバスが後方からやってきた。少し先がバスの終点である。義母が道を空けようとしないので、運転手がけたたましくクラクションを鳴らした。振り向いた義母は、腕を大きく振った。
「反対側の車線を通って行け」
というジェスチャーだ。
確かにここは車通りが少なく、そのときも対向車は無かった。それに歩道は車道より高く、ベビーカーを持ち上げて歩道に上がるのは難しい。それでも、自分は端に寄ろうともしないで、バスに迂回させようとする強心臓に呆然としてしまった。
バスの運転手と義母の怒鳴り合いが始まるのではとハラハラした。しかし諦めたらしく、バスは迂回して反対車線を通っていった。
それからは、義母が孫をベビーカーで連れ出すときには私もついて行った。義母が子守をしてくれる間に私は家事を片付ける、ということができなくなったが、仕方がない。
「狩り」をするには私の目が邪魔なのだろう。「なんでついてくるの?」と言われたこともあった。結局、「ベビーカーで孫を連れて行くと嫁までついてくる」のが恒例となり、義母は散歩に一人で行くようになった。