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恋をしている君の隣で僕は君に恋をしていた
『それでね、昨日も2人で遊園地に行ってきたんだよ!それでね、あとは、えっと…』
「優、一旦落ち着いてから話そっか」
今日も僕は大学の空き教室で幼馴染である優の恋バナを聞いている
優とは小中が同じ幼馴染
高校は別々だったが大学で再会した
久しぶりに会った優は中学の頃から垢抜けてとても綺麗になっていた
そんな彼女に僕は一目惚れしていた
だからこんな話は本当は聞きたくない
なんならこの場で"君が好きだ"と告白してしまいたい
だけどそんなことをしたら優しい君を困らせてしまう
迷った末に僕が辿り着いた答えが
"自分の想いを隠し優の背中を押す"
というものだった
だから今日も優の恋バナを聞き、何か自分に出来ることがないかを考えている
『それでね!私からまた今度一緒にどっか行かないって言ったの!そしたらなんて言ったと思う?』
「なんて言ったの?」
『それがね!いいよって言ってくれたの!』
目を輝かせながら話してくれる君を見れば見るほど僕の心は締め付けられていく
だってその笑顔は僕に向けられたものでは無いのだから
「確か次のデートが3回目だよね?」
『そうだけど、それがどうしたの?』
「3回目のデートなら告白しちゃえば?」
少しでも君の背中を押すことが出来ればいいな
そう思い告白することを勧めてみる
『え〜もし振られちゃったらどうしよう…』
「優なら大丈夫だよ」
『う〜ん…告白か…』
両腕を組んで頭を傾けう〜んと悩む君
しばらくすると何かを閃いたらしく急に目を大きくしてこちらを見つめてきた
『いいこと思いついちゃった!』
「急にどうしたの?」
『フフ…これは名案だよ!』
「んでその名案って?」
『〇〇で1回告白の練習をするの!』
「なんで…?」
『〇〇なら緊張しないで告白の練習が出来そうだから!』
悪気のないキラキラとした目で僕を見つめる優
人の気持ちも知らないでなんて事を言い始めるんだ
確かに君の恋の為に出来ることがないか探してはいたけど…
まさかの告白の練習相手になるとは思いもしなかった
あと、"僕だったら緊張しないって"ってちょっと複雑だな…
「どんなシチュエーションを想定してるの?」
『えっとね!まずちょっといいレストランで食事をして次に…』
相変わらずのマシンガントークで告白プランを語りかけてくる
それだけその人のことが好きなんだろうな
その相手が僕だったらどんなに幸せだろうか
「落ち着いたらまたLINEで教えてくれれば大丈夫だから1回整理した方がいいよ?」
『分かった!また後でLINEするね!』
「その時に集合場所とかも教えてね?」
『うん!じゃあ明日よろしくね?』
「了解」
…………
家に帰りさっきの優との会話を思い出す
まさか告白の練習をしたいと言われるなんて思わなかったな…
練習とはいえ告白された時に自分の気持ちを抑えることが出来るかな…
そんなことを考えていると優からLINEがきた
『明日の件なんだけど…』
そこには当日のプランが事細かに書かれていた
それによると夕方、駅前に集合し、
ディナーデート→バーでお酒を楽しむ→近くの夜景スポットで告白
という流れらしい
とりあえず優に了解と返信をする
携帯を机に置きベッドに飛び込む
「きっと優は告白を成功させて幸せになるんだろうな」
「お相手さんが羨ましいな…」
誰もいない空間で心の底に封じた本音が漏れる
自分で背中を押すと決めたくせに、まだ優のことを諦めきれていない自分が情けない
背中を押すと決めた以上、ちゃんと最後までやるべきことをやらなきゃ
そんな事を考えているうちに僕は眠りに落ちていった
…………
翌日
目を覚ますと、部屋の電気も暖房も付けっぱなしだった
どうやら昨晩あれこれ考えたまま寝てしまったらしい
1度シャワーを浴びた後、朝食を済ませる
そして今日の優との外出時の格好を考える
普通に考えれば服装はいつも通りで問題ない
だがこうやって優と2人きりでどこかに行くのも最後かもしれない
せっかくならオシャレな格好で行きたいな
そう考えた僕は行きつけの美容室で髪を切ってもらい慣れないワックスまでして髪を整えてもらった
そして家に戻り精一杯のオシャレをして待ち合わせ場所へ向かう
待ち合わせ場所の駅前へ向かうと既に優がベンチに座って待っていた
「ごめん待った?」
『大丈夫!私もさっき来たところ!』
「じゃあここからは優に任せていい?」
『うん!』
こうして告白のデモンストレーションが始まった
当日行く予定のレストラン・バー、そして告白を予定している夜景スポットを巡り、各場所でどんな話をするかも打ち合わせをした
こうして一通り流れを確認し待ち合わせ場所の駅前に戻ってきた2人
『今日はありがとう!』
「この位なんてことないよ」
なんてことない訳がない
本当はすごく複雑だし
"僕が優の彼氏になりたかった"
そんな本音を飲み込み笑顔で返事をすれば
『私、告白頑張るね!』
眩しい程の笑顔で返事をしてくれる君
その笑顔に惹かれたんだよなと思いながら
「優ならきっと大丈夫だよ」
君への隠した想いが見つからないように当たり障りのない返事をする
『じゃあね!』
そう言い帰っていく優
そんな君の背中を見ながら
最後まで自分の気持ちを隠しながら背中を押すことが出来たかな?
心の中で君に語りかける
そして彼女に背を向けながら
結局好きな人の話ばっかりで僕の服装や髪型には気が付いてくれなかったな…
空に向かってそう呟き僕も家に向かって歩き始めるのだった