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"Si Antes Te Hubiera Conocido"の7か月—カロルGがつくるラテン音楽の新時代
発表から7カ月後のいまなおSpotifyのラテンジャンルを席巻しているのが、コロンビア出身の歌手KAROL G(以下カロルG)と彼女の楽曲"Si Antes Te Hubiera Conocido"です。この曲が異例のロングヒットとなった背景を探ります。
Spotifyで記録を打ち立てる "Si Antes Te Hubiera Conocido"
Spotifyは世界最大の音楽ストリーミングプラットフォームであり、その市場シェアは2022年時点で33%を占めます。このストリーミング時代の中かかで、カロルGの"Si Antes Te Hubiera Conocido"は記録を塗り替えています。Spotifyのラテンジャンルで27週間トップ200にランクインし、ラテン系楽曲としては史上最短で10億回再生を達成する勢いです。
国別の統計値を見ましょう。2024年9月の1週間をとると約636万回の再生回数を記録。この数字はメキシコ(19.55%)、スペイン(15.79%)、アメリカ(11.44%)、アルゼンチン(7.28%)といった国々の貢献が大きいことを示しています。
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一方、日本、英国、ブラジルといった主要市場では2025年に入っても1万再生を超えず、未だ広がりを見せていないことも特筆すべき点です。(特にブラジルにおいては、スペイン語音楽に対する独自の距離感が存在しています。文末の参考※)。
現代のストリーミング環境がどのような地域の音楽も瞬時に全世界に行き渡るという意味での”民主化”と同時に、ある種の”分断”あるいは”地域化”をももたらした現象を象徴しています。
カロルG—その人となり
1991年、コロンビアのメデジンで生まれたカロルG(本名:カロリーナ・ヒラルド・ナバロ)は、父ギリェルモ・ヒラルド(愛称:パパG)の影響を受けて音楽の道へと進みました。15歳で音楽活動を開始し、2024年現在33歳。彼女はすでに18年以上のキャリアを持つベテラン・アーティストです。
2018年にはラテン・グラミー賞最優秀新人賞、2020年にはラテン・グラミー賞で4部門ノミネート、2024年には、ビルボードの「ウーマン・オブ・ジ・イヤー」に選ばれました。
カロルGの家族とのつながりは、彼女のキャリアに大きく影響を与えています。父ギリェルモは現在もマネージャーを務め、姉ジェシカは弁護士稼業のかたわらカロルGのマネジメントチームの一員。妹キャサリンとヴェロニカはInstagramで人気を集めるインフルエンサーです。こうした家族の支えが、カロルGの活動を強力に後押ししています。
また、カロルGは音楽界でも多くの仲間と関係を築いており、Bad BunnyやAnuel AA、Feidとなどとの恋の噂も絶えません。
"Si Antes Te Hubiera Conocido"の魅力と広がり
"Si Antes Te Hubiera Conocido"は、明るく軽快なレゲトンのリズムを基調としながらも、歌詞には大胆な愛の宣言が込められています。
「もっと前に出会っていたら…きっと友達以上の仲よね…あなたを手に入れるマニュアルが欲しい…私は諦めない…私の名前はあなたの苗字にぴったりでしょ」
日本のリスナーにはとってもラテン気質を感じさせる表現です。
この曲の魅力は、明るさや軽やかさだけではありません。スポンサーのコーク・スタジオ(コカ・コーラの世界戦略の一環を担う音楽プロモーション組織)が前面に出た動画は、キレの良い編集によって、音楽仲間とバーベキューを楽しみながら曲作りに打ち込む彼女の素顔がとても魅力的に描かれています。
これはオフィシャルビデオの2倍を超える6億以上の再生回数を稼ぐだけでなく、公開半年後のいまなお世界で人気のミュージック ビデオ週間再生トップ 100の6位なのです。
多幸感に満ちたポジティブな世界観は国を超えて受け入れられるということなのでしょう。
また注目すべきは、この曲を使ったズンバのダンス動画が100本以上も投稿されており、ジムやフィットネススタジオでも多くの人に楽しまれています。
つまり、"Si Antes Te Hubiera Conocido"は音楽ファンのみならず、フィットネス人口をも取り込むことでロングヒットを続けているのです。
さらに、この曲にはファンが勝手に他のミュージシャンにAIカバーさせたさまざまなリミックス版があり、ヒップホップやラップの要素を加えたものがリリースされています。
(AIカバーとは、生成AIの技術でお気に入りの歌手の声で好きな曲を歌わせる事を可能にしたもの。2022年ごろから実用化が進みました。)
以下にご紹介するのは同じコロンビア出身のManuel TurizoやアルゼンチンのKHEA、スペインのROSALÍAなどの楽曲と(おそらく無許可で)ブレンドしたリミックス版です。音楽の多面的魅力をテクノロジーで積み重ねる試みとして面白いと思います。
作者のMarco DBKのコメントによれば、
- KAROL G "Si Antes Te Hubiera Conocido"
- Manuel Turizo ”Bahamas”
- KHEA “Como yo te quiero”
をマッシュアップしたそうです。元歌もぜひYouTubeで見比べてください。
このいわばAI海賊版が2300万回も再生されSpotifyにも堂々と登場しているところを見ると、カロルGとそのチームはこの生成AIによる進化を追認し、テクノミュージシャン達とも良い関係を築きつつあるように見えます。
とってもラテン…❤️
カロルGのグローバル戦略
カロルGは、上記のようなコークスタジオへの参加や多様なリスナーへのアプローチに加えて、スペイン語圏を超えて新しいファン層を開拓することにも積極的です。
その一例がブラジリアン・ファンクへの挑戦です。"Tá OK"という楽曲のリミックスにおいて、ブラジルのDJデニスやケビン・O・クリスとのコラボレーションを実現。ブラジルの音楽市場はスペイン語楽曲に対して冷淡とされていますが、このリミックス版はその壁を乗り越えようとする意欲的な試みです。
それまではU.S.Aと中南米スペイン語圏中心だったコンサートツアーの開催国は"Si Antes Te Hubiera Conocido"の発表と前後してブラジル、スイス、西ドイツ、オランダ、イギリス、フランス、イタリア、ベルギー、ポルトガル、そしてスペインに拡大し、2024年累計228万人を集めたとされます。
またお馴染みのサンダルのクロックス、スポーツブランドのカッパ、ウォッカのスミノフ、スペインのロエベとのコラボ契約が実現しておりこれらのプロモーションを通じて目に触れる機会もあるかもしれません。
このようなさまざまなアプローチと、他国のアーティスト、ブランドとの積極的なコラボレーションは、近年のカロルGの音楽が持つ特質となりました。
前記の2024 Mañana Será Bonito tourのセットリストと各曲の発表年をご覧ください。
Act I
1"TQG"2023
2"Besties"2023
3"Mi Cama"2018
4"El Barco"2021
5"X Si Volvemos"2023
6"Tusa"2021
7"Amargura"2023
Act II
8"Bichota G"2021
9"Oki Doki"2023
10"Una Noche en Medellín"2023
11"Qlona"2023
12"Sejodioto"2023
13"Punto G"2019
14"Bichota"2021 / "El Makinon"2021
15"Carolina"2023
16"Gatúbela"2023
17"Tá OK"2023
Act III
18"Ocean"2019
19"Pero Tú"2023
20"Mercurio"2023
21"A Ella"2017
22"Créeme"2019
Act IV
23"Mientras Me Curo del Cora"2023
24"Contigo"2024
25"Si Antes Te Hubiera Conocido"2024
26"Ojos Ferrari"2023
27"Tus Gafitas"2023
28"Cairo"2023
29"Gucci Los Paños"2023
30"200 Copas"2021
31"Mi Ex Tenía Razón"2023
32"Mamiii"2022
33"S91"2023
34"Provenza"2023
35"Mañana Será Bonito"2023
このうちの4割が他の歌手とのコラボ曲であることにも注目しましょう。
私たちは、カロルGがレゲトン歌手からハイブリッド・ミュージシャンへと変貌を遂げる過渡期を目にしているのかもしれません。
ラテン音楽の未来と日本での可能性
カロルGの音楽が、日本で広く知られる日は来るのでしょうか。日本で中南米音楽のメディアと言えば専門誌「ラティーナ」などが思い浮かびますがそこでも紹介の頻度はまだわずか。
日本ではまだ注目度が低い彼女ですが、SpotifyやYouTubeの再生回数からも、その楽曲が徐々に浸透し始めている兆しは見られます。かつてポップスの黄金時代を生きた世代もZ世代も、彼女の音楽を通じて新しいラテン音楽の風を感じることができるでしょう。
カロルGは、単なる流行のアーティストではありません。彼女は、情熱的な歌詞、親しみやすいメロディ、そして戦略的なコラボレーションを通じて、音楽業界に新たな歴史を刻もうとしています。そしてその姿勢は、文化的事件として、私たち日本の音楽ファンにも新たな刺激を与えるに違いありません。
彼女の音楽をライブで日本で楽しめる日が来るまでその挑戦を見守ってゆきたいと思います。
参考※
『カロルGって誰? ブラジルがいまだにスペイン語の音楽に抵抗する理由 コロンビア人歌手カロルGからプエルトリコのレゲトン・スターまで』english.elpais.com
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