うんこのこたえ

 姉からLINEのスクリーンショットが送信されてきた。うちの娘とのやりとりだ。

「うんこたえおしえたろか」

 小学一年生の娘はそう書いている。どうやら娘は姉になぞなぞを出し、姉はその答えを間違えたらしい。娘は、

「うん、答えを教えてあげようか」

 と伝えたかったのだろうが、まだ読点の打ちかたがわからないようで、「うんこ」と読めてしまうものになってしまったようだ。

 姉にメッセージを送る。

「なんていう問題やったん?」

「1たす1は?」

 姉の返事を見て考える。素直に答えるなら「2」だが、ひねくれて考えたら「田」かもしれない。それ以外の答えは思い浮かばない。姉も「田」と答え、娘から違うという返事を受け取ったと書いている。


 その一週間後、姉と話をした。

「うんこのこたえ、わかった?」

 わたしは尋ねる。

「ううん。あの子からはようLINE来るねん。で、すぐアタシは返信するんやけど、あの子からの返事はその翌日とか三日後とかやねん。全然進まへん」

 姉は苦笑いしている。

 わたしも娘から「うんこのこたえ」はまだ聞かされていないが、姉のお古のタブレットをよく触っているから、答えをとっくに知らせているものだと思っていた。

「じゃあ返事するように言っておくわな」

 そんなやり取りをした。


 娘が小学校から帰って来た。小学五年生の息子も一緒にいる。わたしは、姉とのやりとりを二人の子どもに話した。

 すると息子が言う。

「あれな、オレの夢の話やねん」

 まだ声変わりもしていない、年よりも幼く感じられる息子は、自慢そうに言う。「アンタの夢の話をなぞなぞにされても、姉もアタシも困るがな」と文句を言いたいが、子どもたちが楽しそうなのでガマンする。

「どんな夢やったん?」

「あのな……」

 と娘が言いかけるのを息子が遮る。

「お前説明ヘタやから黙っとけ」

 そうして息子は次のような話を始めた。

 息子は夢の中で学校の教室にいる。ランドセルを開けると、中に任天堂スイッチが入っている。当然学校へ持って来てはいけないものだ。先生に見つかって、叱られて、スイッチを没収されたらどうしようと困惑する。そこへ夫、つまり息子の父がやって来る。しかし父も教室で「スイッチ」と言うわけにはいかないので、

「いちたすいちはニイチ」

 ということばでごまかして、こっそりと息子からゲーム機を受け取り、教室から去って行ったそうだ。

「せやからな、答えは『にいち』やねん」

「アンタ、今からユミちゃんに電話しい!」

 ユミというのは姉のことだ。

 息子はLINEで姉に電話をかけた。スピーカーモードでしゃべっている。

 普段からよく笑う姉は、息子の話を聞いて、大笑いをしている。そして、

「アンタの夢の話をなぞなぞにされても、そんなもん知らんがな」

 と言って、激しく咳き込んでいる。姉は笑い過ぎると喘息を起こすことがあるのだ。

「ごめんなあ。アタシも息子の話聞いてやっとわかってん」

 まだ咳き込んでいる姉に謝る。

「いやいや」姉は咳を飲み込むようにしながら言う。「面白かったからええよ」

 そんなこんなで通話を終えた。

 それから我が家はばたばたと夕食を終え、片づけているあいだに夫が子どもたちを風呂に入れ、わたしが子どもたちを寝かし付けたらもう二十一時を過ぎていた。

 スマホを覗く。姉からメッセージが届いている。

「子どもちゃんっておもろいなあ。またなぞなぞごっこさせてな。みんなによろしくね。おやすみ」

 姉夫婦は共働きで子どもがいない。もう四十代後半なので、子どもは諦めていると言う。

 姉に子どもがいたら、子どもたちにはいとこができる。姉はどんな母親になるだろう。子どもはどう育つだろう?

 考えているうちに眠ってしまった。姉にそっくりな男の子と女の子と、うちの二人の子どもたちが、雪だるまを作って笑っている夢を見た。

四百字詰め原稿用紙 五枚 了

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