
さつま司酒造にみる日本の酒類トレンド 『ニッカ・ザ・グレーン』⑤
■引き続き、限定品「ニッカ・ザ・グレーン」について解説する5回目です。
・ニッカウイスキーがチャレンジングな商品を限定発売する、ニッカ・ディスカバリー・シリーズ《第三弾》で、2023年3月、「ニッカ・ザ・グレーン」が発売された。
・これは複数のグレーン蒸溜所の原酒をブレンドした「ブレンディッド・グレーンウイスキー」であり、非常に珍しいスペック。
◇ニッカ・ザ・グレーン 4蒸溜所/7原酒
《蒸溜所1》ニッカ・宮城峡蒸溜所
①宮城峡カフェモルト
②宮城峡カフェグレーン
《蒸溜所2》ニッカ 旧・西宮蒸溜所
③西宮カフェモルト
④西宮カフェグレーン
《蒸溜所3》さつま司蒸溜蔵
⑤未発芽大麦グレーン
⑥コーン&ライ・グレーン
《蒸溜所4》ニッカウイスキー門司工場
⑦未発芽大麦グレーン
前回、カフェモルト・カフェグレーンのご説明をしました。
今回は、《蒸溜所3》さつま司蒸留蔵についてご紹介します!
■さつま司蒸溜蔵の歴史
鹿児島空港から車で15分ほど、錦江湾の北端に位置する姶良市加治木町にあるのが、1936年創業のさつま司情蒸溜蔵だ。日豊本線の加治木駅からは歩いてすぐの距離で、蔵のすぐ横を鉄道が走り、列車の窓からも「さつま司」の看板が良く見える。創業当時は姶良(あいら)酒造といっていたが、その後いく度か改名し、2002年にアサヒビールの傘下に。さらに11年にはニッカの子会社となり、17年にニッカウヰスキーさつま司蒸溜蔵に組織再編された。
発行:ウイスキー文化研究所
直近の歴史を、超簡単にまとめると以下の通りです。
2002年 アサヒビールの傘下へ
2011年 ニッカの子会社に
2017年 ニッカウヰスキーさつま司蒸溜蔵に組織再編
アサヒビールが、さつま司酒造を傘下にした2002年といえば、「焼酎ブームのはじまり」の時期で、鏡月やジンロなどの甲類焼酎から、麦焼酎・芋焼酎といった本格焼酎へとブームが移行していた時期です。
国税庁から毎年発表されている「酒のしおり」から、そのトレンドを確認することができます。
■平成16・17年(2004・5年)
甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)の消費のピーク
■平成19年(2007年)
乙類焼酎(単式蒸留焼酎)の消費のピーク
040.pdf (nta.go.jp)
酒のしおり(令和3年3月)|国税庁 (nta.go.jp)
その本格焼酎ブームの中、手に入りづらい希少な本格焼酎である、森伊蔵・魔王・村尾を3品は、通称で「3M=スリーエム」と呼ばれていました。
これらは、居酒屋さんで1杯:数千円で販売されていました。
(今もプレミアム価格で売られている??)
古くは、日本酒の越乃寒梅、最近ではまさにジャパニーズウイスキーの山崎などと同様な過熱ぶりですね。
■2007年/2008年/2009年
このように、焼酎ブームへと向かう中、2002年にアサヒビールが、さつま司酒造を買収し、総合酒類メーカーとして、事業ドメインを広げたことは当然の戦略と言えます。
ちなみに上記の「酒のしおり」で、
平成19年(2007年)が本格焼酎の消費のピーク
というのも興味深いですね!
結論から言うと、ここから「本格焼酎→ウイスキー(ハイボール)」へと、お酒のトレンドが移るわけです。
再びこの「酒のしおり」の中で、ウイスキーの列に目をやると、平成20年(2008年)がウイスキーの消費のどん底です。
そして、翌年の平成21年(2009年)から、今に繋がるウイスキーブームとなります。
040.pdf (nta.go.jp)
そして、さらに細かく数字を見てみると、「平成19年(2007年)→平成20年(2008年)」のウイスキーの消費の落ち込みは微減であり、それまで25年間ダウントレンドであった潮目が、この2008年で変わっていることがわかります。
2008年に何があったのか??
そうです!
角ハイ・ジョッキのプロモーション(飲み方提案)です。
これにより日本のウイスキー市場は反転するのです!!
ちなみに、よくNHKの朝ドラ「マッサン」から、今に繋がる「日本のウイスキーブームがはじまった」と言われます。
しかし、歴史を振り返るとそれは違うかなと思います。
マッサンの放映は、2014年だからです。
こうして、ウイスキー市場の再拡大が、明確に認識されるようになったのが、2010-11年くらいです。
■2011年
ウイスキー市場の再拡大が決定的となった2011年、業界でも動きがありました。
この2011年になると、
2007年がピークだった本格焼酎ブームの沈静化
2008年の角ジョッキにはじまり、
2009年から上昇基調のウイスキーブームが決定的に!
となり、このウイスキーブームに対応した動きが出てきます。
代表的なのが、製造を中止していた本坊酒造:マルス信州蒸溜所が、生産を再開したことです!
そして、この同じ2011年に、アサヒビールの子会社であったさつま司酒造は、ニッカの子会社へと、アサヒグループホールディングスの中で社内的な組織改編をされるのです。
こういった、
本格焼酎ブーム(2007年ピーク)
角ハイ・プロモーション(2008年)
ウイスキー市場再拡大(2009年)
があった上で、2014年に、NHKからマッサンが放映されました。
なので、マッサンから今のウイスキーブームがはじまったわけでなく、角ハイからウイスキーブームがはじまり、そのウイスキーブームの中で、マッサンが放映されることになった、という流れが正しいのではないかと思います。
■こうして
いつものごとく、話が超脇道に逸れてしまい、ちっとも前に進みません・・・
次回は、さつま司蒸留蔵の「グレーンウイスキーづくり=製法・原料など」についてご紹介させていただきます!