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『天魔恋玉(てんまれんぎょく)のコンペティション〜俺の魂は猫に奪われました〜』第1話

あらすじ

魂の代わりに体に入れられた玉は、人界の管理権をかけて悪魔と天使が競って探しているものだった。

ブロガー引きこもり青年の春風シュンはPV数の低下に悩んでいた。
そんな時、人気読モと、人気ライバーが同じ「玉城」という人物を追っていることがわかる。
玉城がふたりの想い人だと勘違いしたシュンは、読モとライバーが共演する撮影現場に潜入し、ふたりに突撃取材をする。

ところが帰宅中に怪しい連中に拉致されてしまう。玉城とは、神界と魔界が人界管理権をかけ、競い探している玉を指す名前だった。その秘密を守らせるため、シュンは魂と玉を入れ換えられてしまう。

猫との同居、迫り来る天使と悪魔、シュンは魂を取り戻せるか。


プロローグ

なぜこんなことになってしまったんだろう。
夜空を見ながらそんなことを思う。
人生逆転のネタを掴んだ! バンザイ!! これで俺の人生も逆転サヨナラホームラン!!

と思いきや、絶賛、俺が飛んでいる。
具体的に言うと、椅子に縛られて天高く上空に打ち上げられている。
このままだと自由落下して俺はいろんな意味でアウト!!になってしまう。

どうしてこんなことになってしまったのか、少し思い出してみよう。
時を戻そう!!
走馬灯にならないことを夜空の星に願いながら。

第1話 潜入取材と運命の邂逅かいこう

教室でふたりの女が教卓を挟むように向き合っている。
金髪の女は銃を持ち、悪魔っぽい格好の女は素手。
普通に考えたら有利なのは銃を持っている金髪の女の方だ。

俺はというと教室から離れた位置でその様子を眺めている。

『どうだ〜?様子は?』

耳のイヤホンから声変わりしてないみたいな声で様子をきいてくる。
コイツはネット友達のエイト、同い年くらいって言ってたが嘘なんじゃないだろうか。

「金髪の保健教師っぽい方がやられそう」

食い物を口に放りながら適当に答える。
ふたりの女に突撃取材にきたのだが、今は取材できる状況じゃない。
気をうかがう必要がある。

『ふーん、やられそうってのはどういうことだよ?』

「金髪は銃持ってるが弾を外しちまったのか、新たに弾を込めようとしてる。
足に怪我もしてるみたいだ。白衣にも血が付いてるし、どっかで脱げたのか靴も履いてねえ」

『それだけ、必死ってことか』

「まぁ、そうだな。金髪女は青ざめってけど、悪魔女は余裕の笑みって感じだな」

保健教師っぽい格好の金髪女は人気読者モデルのサキ。いわゆる読モってやつ。サキは日本人離れしたスタイルとプロポーションを持っている。
そして、たまにみせる素とのギャップがファン曰く親近感がわくらしい。

『……でも、悪魔女の方は素手なんだろ? だったら』
「いや…弾を撃たせたつうなら弾を避けられるか、そもそも弾が当たらねぇのかもしんねぇ。なんせ悪魔なんだからな」

一方、悪魔っぽい格好をしてるのは人気ライバーのニーコ。配信でのくだけたリアクションと愛敬あるビジュアルが人気らしい。アンチに顔のそばかすについてイジられたらしいが、堂々とした対応でむしろファンが増えた。

『悪魔相手じゃ、銃持っててもキツイか』

エイトはなんとなく興味がなくなったような声だ。展開が読めたといったところだろう。

「んぐ!?」

苦しい、呼吸ができない。

『……ん!? おい!どうした!?』
「!!(ぐっ! のどに!!)」

近くの烏龍茶を引っ掴み流し込む。
ついつい食べることばかりに夢中になりすぎて、食い物がのどに詰まってしまった。飲み物もしっかり飲まないとダメだな。
イヤホンからは、察したエイトの呆れたようなため息が聞こえてくる。

『んだよ、ビビらせんな。ていうか、いいかげんに食うのやめろよ』

イヤホン越しに非難の色を感じたが無視して、新しいジュースに手を伸ばす。
ここに潜入するのに安くない金を払ってる、少しでも元を取りたい。
それに、ここで食いだめておけば夕飯代が浮く。

「はい!OK!!」

声が響き渡ると緊迫していたふたりの女の表情が緩む。

「いいわねぇ〜ふたりとも!!次のシーンいくわよ!!」

監督の男が手を叩くと、それを聞いたスタッフたちが次のシーンの撮影のため準備を始めた。独特の緊迫感は薄れ、見学者たちも雑談を始めている。
そろそろだな。

「うっし、じゃあそろそろ行こうかね!」
『おお!! いよいよ突撃か? 腹ごしらえもすんだもんな〜!』

エイトは待ちくたびれていたようで、期待がこもったような声だ。
エイトには悪いが、その前にやることがあるし、まだタイミングじゃない。

「いや、ちょっとお花を摘みにな!いざ、話すとなると緊張もするしよ!」

『……んだよ〜、まだかよ! それに、何がお花を摘みにぃ〜だよ。トイレだろトイレ。今さら緊張してトイレとか……ったく小心者がよ。大体、食い過ぎなんだってシュンは』

イヤホンからやいやいと批判の声が聞こえてくるが無視する。

「ちょっと口が悪いが、悪い奴じゃねぇんだよ。今回のビッグなネタをつかんでくれたのもコイツだしよ!」

人気読モと人気ライバーが同じ男に夢中なんてネタそうそう掴めるもんじゃない。とにかく、これで俺のブログもアクセス数が限界突破で、お金がドン!
うまくすりゃ、どっかの会社から取材者としてスカウトされて、人生一発逆転ってわけだ。

こんなネタを拾ってきたエイトには感謝しかない。

『……誰に向かってフォローしてんだよ。それに誰が口が悪いんだ誰が、心の声が出ちゃってんだよ。大体よぉ〜、ただでさえひとり言の多い奴に見えんだから、気をつけねぇと不審者扱いされてつまみ出されるぞ』

「え!マジかよ!やべぇやっぱ通話切ってた方がよかったかな。でも、しゃべる相手いないと不安だしよ」

『ったく、小心者がよ。そっちが切らねぇ限り繋いでてやるから安心しろよ。あと、扉を出たら右に曲がってまっすぐ行け。突き当たりまで行ったらトイレの案内表示があるから』

「な!いい奴だろ!持つべき者はハッカーの友達だぜ」
『だからハッカーじゃなくてプログラマーだって。それに小声で喋れよ、不審者扱いされるって言っただろ、3歩歩いたら忘れちゃう鳥かお前は』

口は悪いが悪い奴じゃないんだホント。

◇◇

「あれ? カミ婆! こんなところで何してんだ?」

トイレから出てくると、ベンチに見知った婆さんがいたので声をかける。近所の家に住んでるカミ婆だ。

「おや、アンタこそ、こんなところで何してんだい? まさか迷子かい? ふぇっふぇっふぇっ!」

相変わらず変な笑い方する婆さんだ。

「そりゃ、こっちのセリフだっての。迷ったんじゃねぇよな?」

「アタシゃ、ここに知り合いがいたんで挨拶に来ただけさ。そういや、よくテレビに出てる鶴平師匠もいたよ。にしても、ここは他人を被ったやつが多いねぇ」

「まぁ、撮影スタジオだしな!俺も撮影の見学に来てんだよ」

「そうかい。まぁ、他人なんか演じても疲れるだけさね。自分らしくありのままに、想うままにするのが一番じゃよ。ふぇっふぇっふぇっ!」

確かにそうだったら楽だろうな。

――ガサッ

ベンチの下から音がする。突然何かが飛び出してきて、それは通路を走って行った。

俺は少し遅れて反応する。

「うぉ!?ビビった〜…なんで猫がこんなところに?」
「アンタには猫に見えたのかい?」

カミ婆がたずねてくる。かなりのスピードだったから、わからなくても無理はない。

「ああ。かなり早かったがありゃ猫だな。俺じゃなかったら見逃しちゃってるな!」

「そうかい、そうかい。ふぇっふぇっふぇっ!」

俺のスマホが鳴り始めた。トイレに行くんで通話を切ってたのはいいが、あまりに長いからエイトからかけてきたみたいだ。

「カミ婆、俺そろそろ行くわ。気ぃつけて帰れよ!」

「アンタもちゃんと帰ってくるんだよ。ふぇっふぇっふぇっ!」

カミ婆に別れを告げ、通路を戻りつつ通話をオンにする。

『ったく、トイレにしちゃ長げ〜から、なんかあったかと思っただろ』

「悪りぃ、悪りぃ。なんかトイレ出たらカミ婆が居たからよ」

『……ふーん。まぁ、な、何にもねぇんならいいんだけど』

こうやって心配してくれるあたり、エイトは本当にいい奴だ。通路を進んでいると扉が開いていて、中から声が聞こえている。

「このクソ猫どっから入り込みやがった!撮影で使うエサ食いやがって!!」

扉からそっと中を覗くと、でかい男が猫を掴んでいる。文句を言っているのはその隣にいる小さな男だ。どうやら中は倉庫らしく撮影用に用意したエサが荒らされてしまったらしい。

「ありゃ、さっきの猫だな。エサはCMでよくやってるやつか」

『あのCM、猫がうまそうに食べてるのめっちゃかわいいよな〜』

急にエイトのテンションが上がったようだが、まぁいいや。ともかく、スタジオに戻ろう。撮影が終わってサキもニーコも帰っちまった、なんてことになったら最悪だ。

「このクソ猫!!タダじゃすまさねぇ!!」

廊下まで怒声が響き渡る。

「首に花火でもつけてやりますん?」
「そいつも良いが、水ん中に放り込むってのも面白いかもな」

小さな男とでかい男が不穏な会話をしている。
さすがに放っておくわけにもいかなそうだ。

「へい!エイト!鶴平師匠ってどこに居る?」

『ちょっと待って、控室はさっきのトイレのさらに先。今日は《動物友の会》のインタビューと撮影で来てるみたいだな』

「サンキュー、エイト」

ネームストラップの見学者のカードを、事前に用意したスタッフのカードに変える。

――自分の中のスイッチを切り替える

仮面を被るイメージ

これから演じる誰かになる

……よし、準備ができた。

俺は倉庫へと入った。

次話

目次 (第2話〜第23話【完】)

第2話 俺がやる側になってやる

第3話 ワシはタマじゃ!

第4話 好みの女子と手なんか握ったら

第5話 幼馴染たちと転校生

第6話 脱ぐのは上だけ

第7話 契約の証と妹

第8話 後輩との再会と最後の聖戦ラストラグナロク

第9話 ここで何もしないのは違うだろ

第10話 柔らかくてあったかい

第11話 経験豊富なの?

第12話 祓魔師エクソシスト

第13話 ひいらぎの木

第14話 違うブラの方!!

第15話 昨日もこのやり取りをしたがな

第16話 こんな私でもドキドキする?

第17話 違う

第18話 終末の色

第19話 お兄ちゃんだったら

第20話 黒天童こくてんどう

第21話 永久に母なる大地イモータルスフィア

第22話 他人のマネ

第23話〜エピローグ【完】 そんな未来の話

宇佐崎しろ先生によるお題イラスト

#創作大賞2023 #イラストストーリー部門

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