論よりショート【トンビ】 1057
「失礼だけどさ、リアルに鳶が鷹を産んだって感じ」。
実家から駅まで送って行く道すがら、初めて両親に会った伸哉は言った。
素直に喜んでいいものかどうか。
私には、顔面偏差値の高い伸哉には解らない苦労がある。
「人は見かけじゃないの。
中身が大切なの。
お父さんは真面目で優しくて立派で、みんなから慕われてるでしょ」。
そういう母だって真面目で優しくて思いやりにあふれてると思う。
でもね、やっぱり可愛い子は目立つし、人気があるし、大事にされやすいと思う。
いつしか「人は見かけが大事」「第一印象が大切」と当たり前のように言われるようになった。
見ただけでは中身の素晴らしさは判らない、だから外見も磨けって。
そんなこと、子ども時代から知ってたよ。
私には、先生からもクラスメイトからもスポットライトが当たったことはなかったもの。
それでも、親は子に、先生は児童や生徒に、見かけの良い人はそうでもない人に、「人は見かけじゃない」中身が大事」と言い続ける。
全く失礼な話。
慰めにもならない。
小中学生がメイクをしていても珍しくないし、男性のスキンケアやメイクだってかなり浸透している。
ボサボサの天然眉なんて、オジサンくらいのもの。
美容整形への敷居が低くなり、エステサロンの気軽さで施術を受けられる。
小学生の我が子に整形手術を受けさせる親だっている。
私にはそこまでの踏ん切りはつかない。
いつ頃からだろう、メイク用品だけで整形級美人に変身する動画があふれ出したのは。
特殊メイクかと思ったけど違うらしい。
あの顔でも美人になれるなら、私だってちょっとくらいは可愛くなれるんじゃない？
練習を重ね、転職デビューを果たした。
いくら同じ職場にいたとしても、この外見でなければ、伸哉と付き合うことなんてできなかったと思う。
伸哉に素顔を見せない努力なんて、コンプレックスに耐えてきた年月に比べれば何てことない。
素顔に見えるメイクだって習得済み。
この先、何年だって伸哉に釣り合う美人でいるわ。
産まれてきたのは女の子。
新生児はみんな、皺くちゃの猿みたいなもの。
段々と可愛くなっていくのよ。
そのはずよ、そうに決まってる。
「うちの子って、誰に似たんだろう？
いくつになっても、重そうなひと重瞼、線みたいに細い目、薄い眉、胡座をかいたような大きな鼻、困ったような口元のまま。
女の子なのに可哀想じゃない？
これじゃあ鷹が鳶を産んだ、だよな」。
違うわ、伸哉。
鳶は鳶しか産まないの。
寧ろ女の子で良かった。
大丈夫、早期英才教育を施すから。
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