アルバム「Turning Seasons」全曲解説
はじめまして。シャル坊と申します。
だいたい毎月曲を作っては初音ミクさんやGUMIさんに歌ってもらい、ニコニコ動画やYouTubeなどに投稿する人です。
まれにボカロPと呼ばれたりしますがプロデューサーを名乗れるほどの者ではないです。
今回、ここ1年に投稿した曲を集めてアルバムの形態でbandcampに公開しました。全曲アルバム用にリマスターしたバージョンです。
投稿作品が5、6曲くらい溜まってくるとアルバムの構想が芽生えてきます。今回は季節感を盛り込んだ曲が多かったので、四季をテーマにミクさん4曲、GUMIさん4曲、デュエット4曲の計12曲でまとめることに。方向性が決まると、あとはGUMIさんに春を歌ってもらおうとか、ミクさんの夏歌が足りないな〜とかで全体を整えて、なんとか形にすることができました。
それでは元ネタ開陳を兼ねた全曲レビューにお付き合いください。参考曲のSpotifyのリンクを貼りますので、もしよろしければそちらもお聴きください。
01. Cascading Leaves 「落ち葉の瀧」初音ミク、GUMI
私、中高時代はプログレ小僧でして、とは言っても世代的には後追いで、大御所Yesがオケヒットを鳴らしまくったあとで往年の大作主義に戻った頃に過去のプログレバンド群を聴き漁っていました。
この曲には変拍子が出てきたり、中盤急に静かになったりと如何にもプログレなテイストが散りばめられていて、Genesis の Supper's Ready あたりを意識して作った記憶があります。80年代のRushの影響もチラホラ。
ちなみに、動画サイトに投稿する際に娘に依頼して描いてもらった背景イラストは、Peter Gabriel のコスプレをしたミクさんとGUMIさんです。
私の曲の中には、夜通し何かして朝を迎えるという歌詞のついた徹夜ソングが何曲かありまして、今回はお昼前から翌明け方まで落ち葉を眺めるだけという不審行為。徹夜ソングのメリットは、物語時間の経過と曲の展開をリンクさせやすい点ですね。書く側にとっても(おそらく聴く側にとっても)、あー朝になった、そろそろ〆だねって集中できるねん。
02. Remembrances in the Sky 「夏空リメンバランス」初音ミク
「冒頭で聴こえるノイズは演奏の一部です」←これ一回言ってみたかった(たまに昔のCDに書かれていることがありました RushのGrace Under Pressure とか)。
この曲、ホ長調で始まって途中から部分的に転調しながらサビでホ長調に戻るオケを元々は作っていました。ところがミクさんに歌ってもらうとサビのキーが高すぎる!で全体のキーを下げると今度はAメロが低すぎ!結局、平歌のホ長調とサビのハ長調を伝家の宝刀「いきなりドミナントモーション」でつないだのでした。
作る時に参考にしたのは Morrissey の First of the Gang to Die とかのベースが刻むリズム。
サビの変なクリシェは Julian Lennon の Valotte から着想。
実は今回のアルバムリマスターの作業で一番手間取ったのがこの曲。直近に投稿してるので、更なる音質改善にトライしつつ、過去曲とのバランスを馴染ませるため何度も改訂→アルバム通して聴いてチェックしました。
03. No Need to Stop Crying 「涙を止めないで」初音ミク、GUMI
エルトン・ジョンの伝記映画「ロケットマン」を観て、やっぱエルトンええわぁ…で作った曲です。コード進行とか歌メロの跳躍などエルトンの影響大。
歌詞も映画を観終わってという内容ですが、イメージしたのは上記映画ではなくて、京都みなみ会館でジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグランのミュージカル映画オールナイト三本立てを観たという脳内設定です。二番の歌声をかぶせていく掛け合いがちょっとミュージカルぽい?
冒頭のスキャットは、The Association の Cherish 風味。Madonna の Crazy for You のサビコーラスでも引用されていますね。
締めのアコースティックギター、サステインが短かったのでDAWで波形を引き伸ばそうとしたところどうにも不自然になってしまい、苦肉の策で逆再生を重ねたら良い感じにハマってくれました。
04. Time to Say Goodbye 「春は別れの季節です」GUMI
イントロのコード進行は Lou Reed の Dirty Blvd. から。この曲、G→D→A→D のリピートだけで最後まで聴かせる名曲なのですが、私にはそんな渋いことはできないので、ちょっとずつ変化を加えて繰り返しています。
曲の構成は、イントロ(サビ)→Aメロ→Bメロ→サビ→大サビ1→大サビ2→大サビ3→大サビ4→サビ→エンディング で、Blondie の Atomic みたいな謎の盛り上がり展開を目指しました。大サビ4でネタばらし。
歌詞に出てくる女子が「春は別れの季節なの?(疑問)」→「別れの季節かも(不安)」→「別れの季節だね(確認)」→「別れの季節です(断定)」と語尾で変化を示している点がポイント。
05. Galaxy Express 「銀河特急」初音ミク
曲作りで一番好きなのはコード進行を考えているとき。この次に来るのは本来だとメジャーコードだけどマイナーにしてみようとか、ここで無理やりトライトーンを作ってドミナントモーションで転調したれとか、変なクリシェ作れないかなぁとか、暇があれば考えています。
で、ドンカマに合わせて弾いてみて、ベースを加えて、この段階で娘にイラストを発注、描いてもらっている間にカラオケ制作、最後に絵を参考にして歌メロと歌詞を考えながらボカロ起動という流れが多くの場合。
この曲も上記の流れで進めていたのですが、バックトラックもほぼできてサビメロを考える時点で気付いてしまいました。このコード進行、Boz Scaggs の We’re All Alone そっくりやん!一度意識するとそこから離れるのは難しく、あの極めて特徴的なコードワークに収まるメロディーがそうそう有ろうこともなく、どうしたものか…で苦心して仕上げたのがこのサビメロです。
2番Aメロのバックで鳴っているストリングスの分散和音が早朝の電車の駆動音を想起させたので、夜行列車の旅を歌詞テーマに。私の住んでいる京都から乗車できる夜行列車を調べると、出雲行きの「WEST EXPRESS 銀河」というのがあったので、出雲大社にお参りに行くお話に決定。歌詞で明言していませんが、結婚の報告をしに行くのでしょう。
大サビのハモりパート「いにしえの…」の部分は、テレビアニメ版の銀河鉄道999の主題歌サビに入ってくる子どものハモりを意識して付けました。
この曲をニコニコ動画に投稿した際「イントロでシャル坊さんと分かる」というコメントが流れてメッチャ嬉しかった!どなたか存じ上げませんがありがとうございます!
06. Cobalt Blue Eyes 「瞳はコバルトブルー」初音ミク、GUMI
貴重なフォロワーさんの中にグループサウンズボカロPさんがおられて、曲を拝聴して私も…で作った曲。元々60年代ポップスが大好物で、80年代のオールディーズリバイバルが嗜好の根っこにあるので楽しんで作れました。ぱぱぱーコーラスとか、2番が別物だとか、私の曲あるあるも満載です。
サビメロの隙間を埋めるギターストロークは、Buffalo Springfield の Broken Arrow から。この曲、フリッパーズ・ギターの「ドルフィン・ソング」でも引用されています。フリッパーズ大好き。
エンディングのコーラス&スキャットの掛け合いは The Ronnets の Be My Baby から。ベタやけど。
07. Pulses 「動きだすパルス」GUMI
私の曲のためにイラストを描いてくれる娘の小学校卒業をお祝いして作った曲です。タイトル・歌詞に出てくるパルスは娘が産まれた時に刻まれた心拍の鼓動。以降、これまで共に過ごした想い出をランダムにしたためました。
サウンドは疾走フォークの前半と Roger Nichols っぽい後半を、 The Beatles の A Day in the Life みたいに繋いでみました。Strawberry Fields Forever みたいなメロトロンも入っていたりして。シタールも薄っすら重ねているし。
08. Farther Away 「もっと遠くへ」初音ミク
もともとAIきりたんに歌ってもらったこの曲、アルバムバージョンはミクさんで。きりたんの声質に寄せるため、ミクさんは無印ではなくSolidとSweetのクロスシンセシス。大サビだけ無印さん。
当時のAIきりたん、サビは気持ちよく歌ってくれるけど平歌は苦手なのかなと思っていたので、歌い出しはサビから、AメロBメロも歌い上げ気味に。
私がギターでよくやるハイポジを織り交ぜるカッティングは、色々記憶を探ったところ Duran Duran の Andy Taylor がルーツのような気が。彼が The Power Station というユニットで演奏した The Isley Brothers のカバー Harvest for the world とか好き。
パワステが活動していた当時、私はまだ楽器のこととか分からなくて、低音でザクザク鳴っているのがベース、高音でシャリシャリ鳴っているのがギターだと思っていました。PVを見て、どっちの音もギターなんや、じゃあベースは?あぁこのブリンブリン鳴っている音ね、え!このバチンバチン鳴っているのもベース??と勉強させていただきました。
前奏からテンポアップするまでのアレンジは、萩田光雄先生の影響。比較対象にすらならないけど。
09. Last Dance on the Seaside 「海辺のラストダンス」GUMI
年一くらいの頻度で突発的に作ってしまうリズムマシンを使ったダンスチューンです。
謎のフランス語ラップはニーチェの例の「深淵を覗くとき…」的なことを言っています。
イントロの妙なシンセのメロディーは、空手バカボンの「中央線ヤクザブルース」から(Spotifyにはありませんでした)。
10. Wings of Tomorrow 「翼があれば」初音ミク
2019年の夏にGUMIさんをお迎えして、ミクさんとデュエットしてもらおうと二人分の視点がある構成を考えてみました。最終的にはミクさん一人で歌うことになったこの曲ですが、結果として「わたし」「ぼく」を同じ声で歌う「木綿のハンカチーフ」的なアプローチに。松本隆先生は私が最も敬愛する作詞家のひとりです。
サビメロ(とイントロギター)は The Hollies の The Air That I Breathe に引っ張られたのかなあ。
11. Turning Seasons 「遷ろう季節」GUMI
上で自分はプログレ小僧だったと書きましたが、同時にメタル小僧でもあって、今でも寝室に「100%マイケル・シェンカー」なんてタイトルのムックが転がっていたりします。
この曲のサビ後半で短三度上に転調するのは Iron Maiden の The Loneliness of the Long Distance Runner などで使われている手法です。
メイデンの長距離ランナーと言えばイントロとエンディングに出てくるギターメロが印象的ですが、河合その子の曲サビでそっくりなのがあったように記憶していて、最近Spotifyで彼女のディスコグラフィーがラインナップされたので確認したらやっぱり似ていました。他の曲も今聴いてみるとヴァリエテフランセーズからの引用が散見されますね。さすが後藤次利先生。
逆に河合その子の某曲とイントロがそっくりな有名ボカロ曲にも気づいたり。
12. Walking along the Riverbank 「川沿いを歩く」初音ミク、GUMI
イントロの開放弦をからめたアルペジオは、Syd Barrett の Baby Lemonade を弾いていたらできちゃった。
この曲を作った頃マイブームだった巻き舌Rのミクさんは、E.V.E.C.で発音拡張:Accent/Strong、子音拡張*4、Voice Color:Powerでベロシティ低めに入力して歌ってもらっています。
中盤テンポが変わる部分は Mary Hopkin の Those Were the Days っぽく、続く展開はGSっぽく、最後は Weezer がアルバム Everything Will Be Alright in the End の後半でやったようなロックオペラっぽく作ってみました。ワンコーラスをミクさんとGUMIさんが交互に半音ずつ上げながら歌いつなげるハイトーンバトルです。
上に挙げた参考曲+αのSpotifyプレイリストはコチラ↓
最後まで読んでいただきありがとうございました。