愛を体現していた人
今日。
一年ぶりに動物病院へ行った。
12歳になるらくさんの、健康診断である。
はながいたときは、それこそほとんど毎月通い続けた病院。そして、治療し続けてくれた院長先生。
獣医学会の副会長もやったことのある、日本では有数の経験と技術を持ち、東洋医学からホメオパシーまで、あらゆる治療法をずっと探求し続けてきた院長先生。
一年前も健康診断で伺ったんだけど、その時は子宮筋腫の手術を控えてるワタシにと、特別にホメオパシーを譲ってくれたりして、こっちのことまで気にかけてくれる優しい先生だった。
らくさんはおかげ様でお元気なもんだから、一年ぶりなんだけど、忙しい先生にわざわざ診てもらわなくてもと最初から思っていた。
ただ、ご挨拶だけはしときたいなと。
いつも患者でごった返していた病院は、今日行ってみたら待合室にワタシ入れて3組しか座っていなかった。
院長の息子さんが数年前から副院長をされ始め、いろいろ体制を変えたのは聞いていた。だから、完全予約制にしたのかもな、と思ったりしてた。
昔から比べると、確かに待ち時間も短くて動物にも快適には思えるけど、昔の戦闘病院みたいな雰囲気が懐かしく感じてしまうのは、ないものねだりってことか。
院長先生は診察室で、ワンコの治療をしていた。
そうは言ってもやっぱり院長は忙しいんだろうなぁと。
しばらくして治療が終わり、ふとワタシと目が合うと、とてもにっこりして挨拶してくれた。
な~んか。
昔に比べて表情が穏やかになったような気が、一瞬した。
「久しぶりね~。お元気ですか?」
と、院長の方から声をかけてくれた。
おかげ様で元気なもんでご無沙汰しまして・・・
みたいな会話を少し交わして。
けど、いつもだったら「こっちへどうぞ。」と院長室に通されて、しばし最近はどうなの?みたいな会話を交わすのがいつものパターンで。それもなく。
まぁ、ワタシの方も、朝飯抜いたらくさんを待たすのも可哀そうだし。
検査が終わって会計を待ってたところ、昔から馴染みの看護師さんがやってきて。
「実は。
院長、1年位前から認知症になっちゃいまして。。。」
ウソでしょ?
そんな話に一番遠そうな人だったのに。
一番遠くにいてほしい人だったのに。
はなの治療は、それはそれは大変なものだったけど、何よりも先生の知識と技術のおかげで、何度も何度も奇跡を起こしてくれた。
ワタシにとって、一時期はメンターのような存在にもなってくれた先生が、妙に優しいお顔をされてるのが気になったんだけど、そういうことだったのかぁって。
昔のことを思い出して、思わず涙が溢れ。
「物忘れから始まったんですけど、さっき注射を打ったかどうかを忘れちゃうとか。話した電話の内容を覚えてないとか。そういう感じなんです。
けど、先生昔の患者さんのお顔は覚えてるみたいだし、今でもホメオパシーの治療なんかを求めて来られる患者さんには、誰かが付き添う形で治療は院長がさせてもらってますから。」
認知症なんかで奪われるには、先生の中にあるものはあまりにも大きすぎるもので。
獣医師としての経験もそうだけど、なんというか、すべての生き物に対して慈愛に満ちた人だった。
母性・愛。そんなものが体現してるような人だった。
けど。
ほんとに、どんだけ功績を残しても。
どんだけ、世の中に愛を伝えたとしても。
病気って、自分の意志だけじゃどうにもならないもんなんだなぁ。
そんなことを思わされ切なくなった。
息子先生が、先生から治療を取り上げることはしたくないとの考えだそうで、ギリギリまで周りが助けながら、獣医師としての先生を支えるとのことだった。
どうか少しでも長く、先生には愛する動物たちのそばで、お幸せな時間を過ごしてほしいと心から祈らせていただこうと思う。
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